トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

バタヴィアの狂暴-華僑への虐殺

2005-08-19 20:41:29 | 読書/東アジア・他史
   題から旧日本軍のインドネシアでの華僑虐殺を連想された方もいるだろう。しかし、この事件はオランダ支配下のジャワで起きたものであり、1740年10月 のことだ。この動乱は1週間ほど続き、オランダ人は原住民と共に手当たり次第華僑を殺害したのだ。

  中国人の本格的なジャワ移住が始まったのは17世紀で、ちょうど明末清初の混乱があった。オランダ総督府はかれら中国人移民に対し当初は友 好的対策を取り、彼らもまた植民地社会における欧州人のエージェント的な働きをした。次第に中国系住民の巧みな商業活動により、ジャワ農民は圧迫されるよ うになる。
  現地生まれの華僑は原住民の血を引く者が結構多かったが、彼らは文化的・社会的に現地人を見下しており、中国系と原住民との間は険悪な傾向だった。こうしてジャワの都市の内外で華僑は最大の移民集団を成していった。

  バタヴィア華僑の数は18世紀に入っても、増加の一途をたどっていた。彼らは茶貿易のため船で来たが、バタヴィアのみならず北部海岸の諸都 市にも広く分布した。この中に貧しい者が多数いたので、バタヴィア以外の治安も甚だ悪くなり、オランダ総督府は中国人が職を求めて放浪する事や、内陸部で 商店を開くのを禁止する。さらに1隻の船に1度に百人以上の移民を載せてくるのも禁じたが、それでも追いつかず、彼らの一部を本国に送還し、或いは一部を セイロン(現スリランカ)、バンダ島、ケープ植民地などに送り農業労働に従事させようとした。
  既に許可証を得ている華僑はジャワに留まるのを許されたが、この許可証交付にオランダ人官吏は多額の賄賂を要求したので、当局と華僑との関 係は次第に悪化した。このような取り締まりにも関らず、不祥事は後を絶たなかったらしい。密入国中国人への対応は総督府でも強硬な意見があり、それが長年 ジャワに滞在している華僑をも不安に陥れた。

  ついに1740年10月、華僑は暴動を起す。既に多数の華僑がセイロンに送られつつあったが、「セイロンに連れて行かれるのではなく、本当 は水平線のかなたで海に投げ込まれる」という噂が立ち、これを信じた多くの華僑がバタヴィアを退去し、郊外の砂糖農園にたむろする同胞の放浪者と合流、略 奪を開始した。総督府はバタヴィア市内の華僑がこれに呼応、蜂起するのを防ぐため華僑街に立ち入り武器の調査をするが、この時一軒の家に火災が起き、それ を総攻撃ののろしと誤解したオランダ人は原住民や奴隷と協力して手当たり次第華僑を虐殺した。植民史上に「バタヴィアの狂暴」と呼ばれる動乱である。

  事件を描いた銅版画も多数残されているが、運河や街路がほとんど死骸で埋まるほどの惨状だ。当局はオランダ兵の華僑惨殺をあえて止めなかっ たらしい。もちろん一方的な殺戮だが、華僑が憎まれていたのも背景にあった。犠牲者数は千から1万まで様々な説があるが、皆殺しは免れる。動乱が収まった 後、総督府は布告を発し、今後の騒乱防止のため、華僑はバタヴィア郊外に居住地を与えられ、そこに住むよう命じた。その後の都市の拡張により、郊外の華僑 街は下町の一部となり、現代のジャカルタ市北東部中国人地区はその名残りである。<参考文献:オランダ東インド会社、永積 昭著>

  歴史は繰り返すという。旧日本軍が来た時も、現地人は植民地支配の同調者だった華僑取締りに極めて協力的だった。20世紀末のアジア通貨危機でも、ろくに援助もしない華人への攻撃が相次いだ。


最新の画像もっと見る

12 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (武悪堂)
2005-08-20 01:07:28
TBありがとうございます。

西村眞吾議員のHPだったか、インドネシア当局は不良華僑を厳しく取り締まっているといっていました。

しかし、華僑が政府中枢に深く浸透し、政治腐敗が進んでいるとの記事もどこかで見ました。

日本の未来の姿を象徴しているのか?既に気付かないうちにそうなっているのか?
返信する
コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-08-21 00:52:36
インドネシアに限らず、他の東南アジア諸国でも似たような状況のようです。

それを防ぐため、マレーシアの前首相マハティールが始めたマレー人優遇政策ブミプトラも頓挫してます。

とにかく、華僑が来るとロクな事はない。
返信する
Unknown (worldwalker)
2005-08-21 02:18:43
オランダ人は世界一卑劣な国民だと帝京大学の高山先生が言っていました。

http://plaza.rakuten.co.jp/kaz1910032/48000
返信する
コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-08-21 20:03:02
初めまして、worldwalkerさん。



オランダ人に劣らず、アングロサクソンも狡猾この上ないと思います。

ただ、華僑の件で旧日本軍を非難する前に、このような歴史があることを書いただけです。意外と知られてないでしょうから。
返信する
ウブドちゃん、かく想う。 (ウブドちゃん)
2005-08-28 22:17:06
インドネシアの数年前の暴動でやはり華僑が襲撃されたことを思い出します。東南アジアで華僑は移民社会を形成し商業と貿易で裕福に暮らす人々が多いですが地域社会にあまり貢献せず宗族社会を形成する彼らのあり方は当然のように住民の反発を呼んでいるものと推測されます。
返信する
コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-08-29 21:25:01
初めまして、ウブドさん。



2年位前、私の母が何かの国際セミナーで、日本人と結婚したタイ女性の話を聞きました。

彼女は華僑と現地タイ人との仲があまり良くないことをチラッと言っていたそうです。タイ人は食べられればそれでよし、とする生活観に対して、華僑はとかく働いて金儲けするが還元せず、タイ人を乞食と馬鹿にするそうです。これでは憎まれて当り前でしょう。
返信する
Unknown (みんなで靖国神社に参拝する国民の会)
2005-09-06 11:44:10
 トラックバック、ありがとうございます。ご指摘の通り、華僑は東南アジア一帯で、欧米統治側と組んだため、現地の人々からかなり憎まれていました。もっとも、先の大東亜戦争において、インドネシアに進攻した日本軍は、現地の人々の反発を抑えて、華僑とインドネシア人との融和を図りました。その日本軍の政策を受けて、華僑の中にも、インドネシア独立に貢献するグループが生まれています。つまり、日本は、現地の人々と華僑との間に入ってバランスと協調を図る役割を担ってきました。その役割は戦後も変わっていません。

 もっとも日本が華僑と現地の人々との橋渡しをしてきたことに理解がなく、反日を叫ぶ華僑が多いのも事実です。残念なことです。
返信する
コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-09-06 21:18:43
こんばんは、初めまして。



>華僑の中にも、インドネシア独立に貢献するグループが生まれています。

それは初耳でした。情報、ありがとうございます。

もっとも機を見るに敏な華僑の事、形勢有利な方にさっさと鞍替えしただけなのかもしれません。



>反日を叫ぶ華僑が多いのも事実です。

彼らは日本の橋渡しなど理解するはずはありません。原理は中華思想なので、移民数百年たてども現地人の文化を理解するはずもない。
返信する
はじめまして (ハハサウルス)
2005-12-12 14:07:03
はじめまして。TB有難うございました。



実は、自分でブログを始める前に“怒れる主婦”という名前で、何人かの方のブログにコメントを書かせて頂いておりました際に、mugiさんのお名前は何度も拝見していました。私としましては、勝手ながら初めてのような気がしておりませんが、今回TB,コメントを頂きとても嬉しいです。有難うございます。



中国人というのは、すごい適応能力があると言うべきなのか、もしくはものすごくマイペースと言うべきなのか、どこの国にでも入り込んで、中国人街を形成し、その国を徐々に侵食していくようですね。(さすがに韓国には中国人街がないらしいですが(笑))まさに「軒を貸して母屋をとられる」危険性に気付いた時には、最悪の事件が起こるということなのでしょうか。華僑の影響はあらゆる国に及んでいて、がん細胞のように手術すべきか否かは、判断が難しいのかもしれません。うまく付き合っていくしたたかさをこちらも持たねばならないのでしょう。

返信する
コメント、ありがとうございます (mugi)
2005-12-12 21:00:05
こんばんは、ハハサウルスさん。



私も“怒れる主婦”のHNを何度か目にしてましたので、貴女のブログを楽しく拝見させて頂きました。

主婦層でも韓流ブームなどに流されず、しっかり日本社会の問題を見据えている方もいらしたとは、頼もしい限りです。



癌細胞なら切除し、徹底した撲滅対象にされるからマシですよ。中国人の本性は龍だと思います。別に褒めているのではありません。

力を誇示するだけで、他民族には何の貢献もせず、ひたすら搾取し暴れまわる。見た目も醜悪で、あのような怪物を古来から崇めてきた中国人の獰猛性を表しているとしか思えません。他の文化圏では龍は悪魔の化身です。象なら立派に人間の役に立ちますが。



強かさは一朝一夕に身につくものでありませんから、当面は距離を置いた方がいいでしょうね。そして、彼らを信用しないことがベスト。
返信する