トーキング・マイノリティ

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第四の核

2006-08-24 21:29:35 | 読書/小説
 英国人作家フレデリック・フォーサイス氏の長編小説で、私が一番気に入っているのは'84年に書かれた『第四の核』だ。20年以上経た現代読み返しても面白さは変らず、むしろ小説に書かれた脅威がより現実的になっているのだ。

 1967 年7月1日、核拡散防止条約が(当時)核三大国、米英ソの間で調印される。同条約においてこれら三国は、核兵器製造を可能とするような技術や材料を、そう した技術などを所有していない他の国々に売却しないと誓う。さらに同条約には四つの秘密議定書が付属していた。これら議定書は将来可能となるだろう核兵器 の開発を予見して作られたものだが、歳月を経るに従い、最初三つの議定書は有名無実と化す。だが、最も秘密とされた第四議定書は80年代初期に至り、現実 の悪夢となる。第四議定書とは核兵器の小型化と単純化を禁じたのである。つまり、スーツケースに入れて持ち運びが出来るほど小さな核爆弾が製造可能となっ たのだ。小説の題もここから来ている。
 ソ連書記長はこの小型核爆弾をイギリスの米軍基地で爆破させる極秘作戦「オーロラ計画」を始動させる。しかも、その計画には英国の裏切者が深く関与していた。

  いかに冷戦時代といえ、東側のメディア工作も凄まじい。ソ連の“友人”たちは新聞その他のマスメディアを通し、あらゆるレベルで支配権を獲得し、警察を貶 め中傷し、下から切り崩そうとするキャンペーンを飽くことなく続けていた。だが、英国の警察は世界で最も民衆に親しまれ、労働者階級は法秩序を墨守する姿 勢が強かったので、成果は微々たるものだった。英国の労働者階級は極めて保守的で、フォークランド紛争時に戦闘的とされた労組員でさえも、遠征する軍艦整備のため、労使協約を無視して24時間体制で働きづめに働いたのだ。未だに反日国の笛に合わせている我国の労組員と何たる違いだろう!

 英国の労働者階級は賢明だが、知識人、文化人となると、かなりおかしな連中もいた。小説から一部抜粋したい。
レニングラード(現サンクトペテルブルグ)でエルミタージュ博物館を絶賛してきた、いわゆる文化の禿鷹たちである。彼らを感化したのは同じイギリスから来た“平和”団体の代表団と声を合わせてソビエト賛歌を歌った学者一行であるが、その“平和屋”たちはモスクワとハルコフ(ウクライナの都市)で記者会見をやらかして自国を非難し、ソビエトの宣伝機関に格好の餌をふんだんに提供してきた愚か者である
 我国の文化人には何とこの種の“平和屋”と愚か者が多いことだろう。出先が中国、韓国の違いがあるだけだ。

 フォーサイス氏は小説で英国の左翼をこう書いている。
左翼による選挙運動に一貫して流れるもう一つのテーマは、反米主義であった。多くの演説会場やTVスタジオで、インタビュアーや司会者が核軍縮論者のスポークスマンからソビエトを論難する言葉を引き出すことが急速に不可能になりつつあった。絶えず繰り返されるテーマは、戦争挑発者、帝国主義者平和の敵といった描き方をされる、アメリカに対する憎悪であった
 ソビエトを中韓に変えれば、これは極東の島国の左翼や護憲派団体と全く同じではないか!洋の東西問わず左翼の行動や発想は均一性が取れている。河北新報の御用学者ロナルド・ドーア氏を何故か思い出した。

 現代のロシアは不明だが、左翼や人権屋の憧れのソ連は同性愛者を迫害していた。小説でのKGB高官の台詞を引用する。
こういう場合の法律はご存じでしょうな。破廉恥な罪を犯した“いろおとこ”がどういう処罰を受けるか、お分かりのはずです。まず5年は覚悟しなくてはならない。恩赦もなく、法は厳格に適用されます。そして、いったん収容所に入ると、噂はすぐ広まる。あとはもう…何といえばいいか…みんなの慰みものになってしまう。温室育ちの若者じゃ、とてもそういう辛酸に耐えられんでしょう
 東西統一後のドイツも分からぬが、西ドイツ時代の刑法175条は同性愛の処罰を規定していた。日本の同性愛者に対する差別・偏見を糾弾する人権屋たちはこの事実を知っていても、無視するだろう。

 この小説で「国旗偽装徴募」という言葉を知った。これも本から引用する。
これは情報源として狙いをつけた人物を、その者が共感を寄せている国のために働いているふりをして徴募するやり方でね、実は全く別の国の手先なのだ。イスラエルの情報機関モサドなどは特にこのテクニックに長けている。ユダヤ人は全世界に散らばっているので、ほとんどあらゆる国の人間として通用するエージェントに事欠かないという訳だ。モサドはこのテクニックで見事な成果を収めている
 全世界に散らばっているのは中国人も同じなので、中共も「国旗偽装徴募」をフル活用していると思われる。

 フォーサイス氏の売国奴に対する評価は実に辛辣かつ明快なので、是非紹介したい。
虚栄心に過ぎない…この手合い特有の虚栄心、不心得者の途方もない自惚れなのだ。彼らに共通する一つの特性、それは己にこそ神を演じる権利があるとする傲慢さであり、売国奴に堕した己のみが正義で、同僚同輩は全て愚者だという独断である。この傲慢と独断に支えられて、己の信じる目的に適うよう機密情報を流すことによって政策操作を行うのだ。それによって己の妄想で敵と見なす自国政府部内の人間、地位でも名誉でも追い抜いていった者たちを混乱に陥れてやるのだとし、その実行行為から得られる権力幻想に麻薬のような陶酔を覚えるのである
 まさに日本の政界にもこの類がいるではないか!八百万の神々の国なので、唯一神ではなく、己は政策通の現人神と妄想しているかもしれないが。
 上記の例はエリートの売国奴だが、落伍者にも同類はいる。「おちこぼれ特有の自分の組織と祖国に対する憎悪もあって」、KGBのために働いた英国人もいたのだ。

 この小説の主人公で、MI5(イギリス情報局保安部)課長ジョン・プレストンがいい。世渡りは決して上手いとは言えず、よこしまな野心家の上司に冷遇されるが、仕事ぶりは実に粘り強く腕利きだ。その有能さを認めたのがMI6チーフ。プレストンは「オーロラ計画」の陰謀をどこまでも追求していく。そのプレストンを抜擢するMI6チーフ、ナイジェル・アービンも情報機関のボスゆえ狡猾な謀略を駆使する反面、国家への忠誠以外私心のない立派な紳士でもある。我国にもこのような人物が望まれる。

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
科学技術 (Mars)
2006-08-26 16:54:20
今日は。



昔の携帯電話(軍隊で使用)は肩に担がないと持てない重さでしたが、今では100gを切り、なくてはならないインフラになりました(デジカメが当たり前のように付いています)。また、ノートPCは1kgを切るものもあり、簡単に持ち運びが可能\となりました。

これから想像すると、携帯可能\な大きさの核兵器は十\分開発可能\だと思います。が、私は専門でないので、ウラン等の核物質の計量化が可能\かは存じておりません。



只、将来には、放射能\汚染がなく、破壊力が強いものや、赤痢・ペストやサリン等のBC兵器の携帯も可能\ではないでしょうか?
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続きです。 (Mars)
2006-08-26 17:06:22
特に、名前は忘れましたが、今現在、日本では撲滅したため、ワクチンすらない菌を駅でばらまくと、自覚症状がない間に、あっという間に拡散します(人がキャリアになります)。こういう非常事態も想定・対処策を考えるのも、為政者に求められます。



やはり、人は工作する者も憎みますが、それに同調する者には更に激しい憎みを感じます。幸い、日本にはスパイを取り締まる法律はありません。が、朝○の加○(靖○問題の火を付けた)等、スパイ・反日日本人は、死ぬまで憎み、蔑まれるのでしょうね。
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売国奴 (mugi)
2006-08-26 21:10:33
こんばんは、Marsさん。



科学技術の進歩は兵器まで小型化が可能となりました。小型で威力もすごいものが作られ、テロに応用される悪夢が現実化してますね。

さらに核爆弾より細菌兵器はより恐怖です。非常事態対応策は当然必要ですが、これを防ぐのは極めて難しい。



どこの国でも売国奴は憎まれるもの。上記の小説でも「オーロラ計画」に加担した英国人を、MI6チーフは「あんな男は地獄で朽ち果てるがよい」と言ってます。

残念ながら日本にはスパイを取り締まる法律さえなく、仮想にせよ敵国スパイの天国になっています。スパイ防止法を尽く潰したのは、左翼マスコミ。連中が英国の左翼と同じような振舞いをしているのは、かなり共通性があります。
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携帯核 (LiX)
2006-08-28 23:25:49
真面目に軽量化出来ないものか考えてしまったら、かなりお手軽に爆縮する方法を考え付いたようなので墓場までこのアイディアは持って行きます。



それにしても賢そうな知識人の方々が不思議と賢くないのは何故なのか不思議。
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悪夢 (mugi)
2006-08-29 21:36:13
>LiXさん

携帯核は実現可能で、それを考えている方は他にもいると思います。それが使われるのは悪夢ですが。



知識人イコール賢者とは限りませんからね。知識と智慧は異なります。
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