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トーキング・マイノリティ

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アニばら鑑賞雑感 その一

2016-02-20 20:40:15 | 漫画

 先週10日、NHK BSのアニメ版ベルサイユのばらの再放送が終了した。私がアニメ版ベルばらを全編通じて観たのは今回の再放送が初めてであり、原作との違いには未だに違和感と戸惑いがある。
 アニメ版の初回放送は1979年10月だが、原作とはあまりにも違い過ぎたため、3~4回くらいで観るのを止めてしまった。小学生時代は熱心な原作ファンで思い入れがあったため、原作とはキャラの性格やストーリーがかなり変えられたアニメ版が受け入れがたかったのだ。

 アニメ版はファンから“アニばら”とも呼ばれていて、アニばらは何度か再放送されていたはずだが、それも私は見ていない。今回ようやく観る気になったのは年もとり、原作への拘りが少なくなったこともあるのかもしれない。
 実はアニばらは昨年秋、行き付けのビデオ店からDVDをレンタルして見終えていた。放送終了を待たずに全編を見てしまったのだが、この時は原作との違いですっかり混乱してしまう。映画や書物を見たら、間もなく感想記事を書く私だが、気持ちの整理がつくまで記事をアップしないことに決めた。アニメ化に当たり原作が改ざんされるのは仕方ないが、アニメと原作を比較しながら雑感を書くことにしたい。

 第1回放送タイトルが「オスカル! バラの運命」。オスカルの誕生日は1755年12月25日のはずだが(但しアニメ版では誕生年は触れられず)、彼女の誕生時、館の外では激しい雷雨となっている。12月末のフランスに雷が鳴るのかは知らないが、オスカルの数奇な生涯を連想させるかのように、オープニングから不吉な印象。父ジャルジェ将軍が彼女を男として育てることに決めたため、オスカルの運命は定まった。
 OPテーマ「薔薇は美しく散る」の画像は、今見ても綺麗だし独特だ。鋭い棘のあるバラの枝がオスカルの全身に絡みつく画で始まり、しかもオスカルは全裸。テーマの最後もバラの絡む全裸オスカルの画像。いささか刺激的だが、もちろん肝心な部分は隠されている。ただ、OP後半で白バラが赤く変わるシーンがあり、オスカルの流血の最後を知っている人には、死の暗示に感じたのではないか。



 時折ギャグも入る原作と違い、全編シリアスなのがアニばらの特徴だが、OPからして重さを感じた。オスカルの性格も直情径行な原作とは違っていて、「幼い頃から感情を抑えてしまう」ため、無口で無表情なキャラとなっている。よく言えば冷静だが、クールすぎて可愛げがなく、正に氷の花そのもの。
 父からは息子として扱われ、武術を厳しく叩き込まれ、アントワネットを命がけで守るよう教え込まれるのは原作と同じだが、父の命に何の疑問もなく従ってはいないのがアニメ版。アニばらのオスカルは、「女の警護か…」と不満を漏らしており、あっさりと軍服を着ることもしていない。そんな彼女を殴りつける父親。しかも胸ぐらをつかみ、階段から放り投げてまで。

 初回で最もぶっ飛んだのは、アンドレとオスカルが殴り合いをするシーン。ちょっとした喧嘩はあったろうが、これ程派手な殴り合いはしなかったはず。大体、オスカルに手をあげるアンドレなど、考えられないではないか!70年代のスポ根アニメのノリ。また、近衛隊隊長の地位を巡り、オスカルとジェローデルが決闘するシーンまである。これだけで口あんぐりだったし、違和感を覚えたファンは多かっただろう。
 初回のラストでオスカルは自らの意志で軍服を着ている。その直前、「今ならまだ遅くない、女に戻るなら今だぞ」とアンドレは忠告しているが、これも原作にない台詞。こうして男として、武官としての人生を歩むことになる。父の命に喜んで従っていた原作とは、14歳にして違っている。

「自ら選んだ道」というのは原作でも同じだが、オスカル個人のみの意志と判断とは思えない。軍服を着たのは、「父上、これは貴方のためでも誰のためでもありません」と独白するアニメ版オスカル。しかし、父の期待や家への配意が皆無ということはあり得ず、父の期待に背けば愛されず、認められないという認識が常にあったはずだ。父に認められたいという想いは強迫観念にも繋がり、女としての生き方を抹殺したのだ。
「自ら選んだ道」といえば聞こえはいいが、私には自己欺瞞にも感じる。この時に軍服着用を拒絶していたら、それまでの14年間の人生は無意味だったし、父の落胆をオスカルは見たくなかっただろう。厳しい言い方をすれば、父親の育によるマインドコントロールの結果、下した選択なのだ。

 原作ファンだった小学生の頃、軍服姿のオスカルは単純に格好よく、美麗としか思っていなかった。しかし、今では哀しき男装とも感じている。軍服姿を無理強いさせられていたのが実態なのだ。軍服はオスカルの鎧と言ったファンがいたが、ある意味これは正しい。私には同時に拘束服にも思える。一見凛々しく軍服姿で指揮を取っていても、父の歪んだ願望の操り人形といっても過言ではなく、彼女の女性性を容赦なく拘束していたのが軍服だった。
その二に続く

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6 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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ナポレオン軍の女性兵士 (スポンジ頭)
2016-02-24 03:53:59
 こんばんは。また目が覚めて寝付けないので書き込みします。

 オスカルは男装した女性軍人ですが、ナポレオン軍にも女性兵士がいました。

https://en.wikipedia.org/wiki/Marie-Th%C3%A9r%C3%A8se_Figueur

 翻訳サイトでざっと確認したところ、軽騎兵や竜騎兵としてスペインでの戦争にも参加したとのことですが、ルイ十六世の時代から、ナポレオン三世の時代まで生存していたそうで、まさに歴史の生き証人と思います。

 ベルばらの話とほとんど関係ありませんが、このような人物もいた、と言うことで。
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Re:ナポレオン軍の女性兵士 (mugi)
2016-02-24 21:51:15
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 今回も大変興味深い情報を有難うございました‼ 何とナポレオン軍にも女性兵士がいたとは驚きです。生まれが1774年1月17日、没したのは1861年1月16日、惜しくも誕生日の1日前ですが、享年86歳とは大往生ですね。小説や漫画の世界だけでなく、実際に女性兵士がいたとは。

 とにかく凄いとしか言いようがない女性です。事実は小説よりも奇なり、と言われますが、漫画化したら、オスカルよりもスーパーヒロインになれるでしょう。現代ならとても受けそうです。
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女性酒保商人 (スポンジ頭)
2016-02-28 13:31:17
 こんにちは。

 この前はナポレオンに従った女性兵士の話をこちらに置きましたが、今回は女性酒保商人の話です。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B4%E3%82%A1%E3%83%B3%E3%83%87%E3%82%A3%E3%82%A8%E3%83%BC%E3%83%AB

 日本では内戦ばかりだったからかあまり補給の話は出てきませんが、フランスでは16世紀に女性酒保商人がいたらしく、王政より、20世紀初頭まで存在したそうです。そして、彼女たちは欧州だけでなくフランスのベトナム植民地化戦争にも従軍していたと言うから驚きです。

 物資補給だけでなく戦争にも参加した、との事ですが、昔のフランス女性に対するイメージも違ってきますし、負傷した場合の補償とか、敗戦で退却する場合に受けた損害について気になるところではあります。
 
 日本人はドイツに対して軍事的なイメージを持っていると思いますが、このような話を読むと、歴史的にフランスも負けず劣らずのかなりな軍事国家に思えてきます。
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Re:女性酒保商人 (mugi)
2016-02-28 21:05:59
>こんばんは、スポンジ頭さん。

 何と、フランスには女性酒保商人がいたのですか!ワインのお国柄といえ、アメリカの南北戦争や、スペイン、イタリア、ドイツ、スイス、南アフリカでも女性酒保商人が存在していたとは驚きです。

 仰る通り前回の女性兵士の話といい、今回の女性酒保商人のケースから、昔のフランス女性に対するイメージが違ってきました。何よりもフランスの軍隊で女性が活躍していたこと自体、日本ではまず知られていないでしょう。これならば、オスカルは女性のままで武官になれたという設定も絵空事ではないかも。今回も興味深い情報を有難うございました!
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イタリアのアニメファンの評価 (madi)
2016-03-07 16:03:09
アニメの評価ヒットで48位、人気投票で1位となっています。

http://www.all-nationz.com/archives/1053492171.html
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Re:イタリアのアニメファンの評価 (mugi)
2016-03-08 21:31:13
>madiさん、

 イタリアでアニばらがいち早く人気が出たことは知っていましたが、何とベルばらが1位だったとは驚きました。イタリアのベルばらファンも日本と同じく二次創作をしているそうで、オスカルはバスティーユで死ななかったというストーリーまであるとか。

 イタリア在住の塩野氏に解説してほしいものですが、漫画、殊に少女漫画は大嫌いと公言していたほど。おそらく塩野氏は見ていないでしょう。塩野氏の息子はキャプテン・ハーロックを見ていたそうで、こちらは17位となっています。
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