トーキング・マイノリティ

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バカの国 その一

2021-06-11 21:40:05 | 読書/ノンフィクション

 図書館から借りてきた『バカの国』(百田尚樹 著、新潮新書)を読了した。本作は昨年図書館で予約していたが、人気作家だけあり、係員からは、「かなり予約待ちとなりますが……」と言われた。さらにコロナ禍もあり、昨年のGW中は仙台市内の図書館は軒並み休館、今年も3月末から5月上半まで休館だった。そのためか、これまで予約した図書の中で待つ期間が最長となった。
 タイトル通り、本作では実に様々な“バカ”が紹介されている。本来なら笑えない話ばかりなのだが、コラムはユーモア溢れるオチで括られているため、苦笑しながら読んだ読者は多かっただろう。

 本書は「怒りの長い長いまえがき」で始まり、時節柄、コロナ禍についての怒りをぶち上げている。著者はコロナを「武漢肺炎」と明記しており、これにまつわる一番のバカは政府という。二番目のバカは、今回も国のことより政府を攻撃することだけに夢中の野党。与野党の政治家の発言を挙げ、そのバカ丸出しの言動を列記する。
 三番目のバカはメディア、四番目は地方自治体の首長たち、五番目がマスクを高額で転売した輩。尤も五番目に関しては、ネットオークションで九百万円近くを売り上げた県会議員もいて(※但し名は記載されず)、著者はむしろ「卑怯者」「クズ」と呼ぶ方が相応しいかもしれないと述べている。

 そして六番目のバカは、ほかならぬ私たち国民というのだ。政府、野党、メディアに対して、非難の声を殆ど上げることなく、「どうせたいしたことにならないだろう」とたかをくくり、のんびりと構えていたから。いつもならすぐにデモをやるプロ市民や活動家も全く動かなかったという。
 確かに私たち国民も賢明にはほど遠いが、「どうせたいしたことにならないだろう」とたかをくくっていたのは日本国民だけではない。悲しいことだが、政府、野党、メディアに対し、非難の声を上げても、影響はさしてないのが現状だ。自由業や平日昼間から活動ができるプロ市民と違い、一般の勤め人は抗議活動も難しい。

 本書は作者の有料個人サイトの会員向けに配信しているメルマガの文章に加筆・修正してまとめたもので、各記事の最後にある日付はメルマガの配信日。全五章で構成され、以下はそのタイトル。
第一章:クレーマー・バカ
第二章:やっぱりSNSはバカ発見機
第三章:世にバカの種は尽きまじ
第四章:血税を食べるバカ
第五章:公務員の楽園

 本当に世の中には色々な“バカ”がいると感じた。中でも面白いと感じたケースを幾つか紹介したい。第一章の「長電話の自由」には、己の通っている病院に抗議電話を約3時間半に渡り230回も繰り返しかけ、2016年11月、威力業務妨害の疑いで逮捕された69歳の無職男の話。
 標的にされたのは兵庫県の姫路循環器病センターで、処方された薬について、「薬が足らん」「薬の発送手続きの担当者の名前を言わないと電話をかけ続ける」等と因縁をつけ、病院の救急外来に電話していたという。男は調べに対し、「電話した回数は50回くらいで、業務を妨害したと思わない」と容疑を否認したが、携帯にはしっかりと230回の履歴が載っていた。次はこの記事の結び。
自分がかけた電話の回数もわからず、なお且つ執拗に電話のボタンを押し続ける様は、明らかに異常です。この容疑者が病気なのは間違いないでしょう。それも循環器系ではない、もっともっと厄介な病気です」(31頁)

 第三章の「釣りバカ」は釣り好きが高じ、盗みの罪に問われた41歳の男の事件。2018年の5~6月、男は神戸市灘区の鮮魚店に侵入し、高級魚クエなど約60点、8万円相当を盗んだとされる。この男も釣りが趣味だったが、盗みの動機は、「友人らに褒められたい」「金をかけずに魚が食べたい」というものだった。検察側は幼稚な動機に酌量の余地はないと指摘、懲役2年を求刑する。記事の結びにあった一文には笑える。
もし実刑判決が下れば、男はしばらくは刑務所という生簀の中で養殖の身となります」(116頁)
その二に続く

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