原題:A Little Chaos。ストーリーはイマイチでも、衣装や舞台の豪華さで見せてしまう史劇がある。この作品はまさにそうだったし、時代考証が正確なのかは不明だが、当時の貴婦人のドレスに目を見張った方も多かったろう。映画サイトではストーリーをこう紹介している。
―1682年フランス。国王のルイ14世(アラン・リックマン)は、国の栄華を象徴するヴェルサイユ宮殿の増改築を計画する。国王の庭園建築家アンドレ・ル・ノートル(マティアス・スーナールツ)は、庭園の建設をサビーヌ(ケイト・ウィンスレット)という無名の女性庭師との共同で任されることに。
自由な発想で仕事に臨む彼女と伝統と秩序を大切にしてきたアンドレは、事あるごとに衝突してしまう。その後、徐々に彼女の唯一無二であるセンスを認め、彼女の魅力に惹(ひ)かれていく。
ケイト・ウィンスレット扮する映画のヒロイン、サビーヌ・ド・バラは平民出の庭師で、たぶん架空の人物だろう。ノートルは実在の人物だが、女性庭師と協力してヴェルサイユ宮殿の庭園を作り上げていくというストーリの着想自体はよい。そしてストーリー全体がコスチュームもの特有のゆったりとした展開となっている。
しかし、庭園を造成する人々を描いたというよりも、サビーヌとノートルのラブロマンスに仕上がっていた。庭造りにおける2人の衝突や恋のゆくえもそれほど激しいものではなく、ドラマティックだったのは夫の想いを知ったノートル夫人(ヘレン・マックロリー)の妨害くらい。
映画ではノートルが国王の庭園建築家となったのは、夫人の後ろ盾によってという設定になっており、妻はそれをことある毎に笠に着ている。当然ノートルは妻に頭が上がらず、妻も彼を軽く見て愛人と不倫に勤しんでいる始末。夫婦間はとうに冷え切っていた。
そんな夫が、“たかが業者”の女に惹かれてしまい、嫉妬する妻の女心は苦笑する。身勝手で理不尽なのはいうまでもないが、ついに夫人は人を雇い、サビーヌの手掛けていた庭園の破壊まで行う。しかし、そんな妨害工作も庭園造りの中止や夫の関心をそらすことにはならず、返って結びつきを強めたサビーヌとノートル。
サビーヌ自身、仕事面は優秀でも内面ではトラウマを抱えていた。彼女は夫と娘を事故で失っていたが、その責任は己の不注意にあると自分を責めていたのだった。フラッシュバックに馬車が登場するので大体予想はついたが、その心の傷を癒すのがノートル。新たな恋でヒロインが立ち直るというのは、ラブロマンスの基本ストーリー。
監督自身がルイ14世に扮しているのは驚いた。世界史の教科書に載っている威風堂々とした太陽王の肖像画とは違い、いかにも老いてくたびれ、威厳のない老人として登場している。アラン・リックマンはハリー・ポッターシリーズのスネイプが当たり役だが、個性派俳優としても知られている。私的にはマデリーン・ストウと共演した『クローゼット・ランド』の尋問官が最も印象的だった。
それにしても、この時代のフランス王侯貴族の男たちが、こぞってロン毛のかつらを被っていたのは面白い。それが身だしなみとして当たり前だったにせよ、現代日本人には奇妙な習慣としか見えない。但し、同時代の日本の丁髷も異国人には異様に感じられていたのだ。
ルイ14世の寵姫モンテスパン侯爵夫人も映画に登場しているが、史実で知られる驕慢な公妾というイメージとは違い、サビーヌには親切に接している。映画で見た限り当時の貴婦人のドレスやヘアスタイルは、18世紀のベルばら時代よりもずっと簡素でスッキリした印象でよかった。太陽王の時代もあるのか、むしろ王侯貴族の男たちの方がケバ過ぎた。
この作品が地元で公開されたのは昨年12月後半だった。ヴェルサイユ宮殿の庭園が映されると期待、映画館で見たかったが、年末のため都合が取れず、DVD鑑賞となった。映画館で見たら印象はもっと違っただろうが、肝心のヴェルサイユ宮殿の庭園はラストに映るだけだった。ストーリーはイマイチでも映像は綺麗だったし、何よりもケイト・ウィンスレットの存在感が良い。意志の強い女性庭師を好演しており、映画の印象アップになっていた。