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聖地チベット ポタラ宮と天空の至宝展 その①

2010-05-30 20:16:05 | 展示会鑑賞

 先日、仙台市博物館の特別展「聖地チベット ポタラ宮と天空の至宝」を見てきた。この企画展を見るのには正直に言って、迷いがあった。中共政府のことだから、「チベットは中国古来の領土」との正当化プロパガンダの可能性もあり、文化財を見せることで人権問題に対する封じ込めを図るのではないか、と思った。この件でネット検索したら、やはり「侵略された聖地チベット-ポタラ宮と天空の盗まれた至宝」というサイトがヒットした。
 それでも、上の「十一面千手千眼観音菩薩立像」の写真を一目見ただけで堪らなくなり、結局、博物館に足を運んだ。私は若い頃から仏像を見るのが好きであり、チベットの仏教美術品を直に目にしても損はない。やはり博物館のチラシにあるコピー通り、「知られざる神秘との出逢い」だった。

 仙台市博物館のチラシには次のような説明文もある。
世界の屋根」と呼ばれるヒマラヤ山脈の麓に位置するチベット。7世紀にこの地を統一したとされるソンツェン・ガンポ王の時代、チベットにはインドやネパール、中国などから様々な文化が伝えられました。特にインドから伝わった密教は、チベットにおいて一層の発展を遂げ、チベット密教と呼ばれる深い信仰世界をつくり上げました。また、厳しい自然環境の下で暮らす人々は、信仰をよりどころにした独自の習俗を形づくっています。
 この展示会では、現代まで大切に伝えられてきた仏像・仏画の名品をはじめ、儀式用の道具や衣装、独自の体系にもとづいた医学書など 123件の資料を通じて、チベットの魅力的な文化を紹介します。


 会場は5箇所に分けられ、「序章:吐蕃王国のチベット統一」「第1章:仏教文化の受容と発展」「第2章:チベット密教の精華」「第3章:との往来」「第4章:チベットの暮し」となっていた。
 この種の催しの入口には決まって主催者の挨拶文が飾られており、中国側責任者の言葉に「古代から中国は統一された多民族国家であり…」の1文もあったのは苦笑した。実際には「統一と分裂を繰り返した多民族国家」なのだが。中国側の主催が「中華文物交流協会」「中国チベット文化保護発展協会」、後援は「中国国家文物局」「中国大使館」とあり、文化交流と銘打った宣伝工作はあの国の十八番なのだ。

 第1章のコーナーで展示された釈迦如来像を見た時、かなりインド様式だと思ったら、説明にも制作地がカシミールとあった。現代こそカシミール地方は印パ対立の火薬庫となっているが、かつてこの地方では仏教が栄えていたのだ。中国は印パ紛争とも係わりがあり、パキスタンへの武器供給国のひとつでもある。
 また、仏教寺院の模型である展示№007「大塔模型」など、ヒンドゥー寺院にそっくり。これもインド・パーラ朝で作られた品だった。当時のチベットではインドやネパールにも仏像や工芸品制作を注文することもあったとか。

 会場には多くの仏像が展示されており、日本のそれとは特徴が違う作品を間近に見ただけで、博物館に来た甲斐があった。記事のトップの画像は目玉の「十一面千手千眼観音菩薩立像」だが、50㎝も満たない小ぶりな像なのに実に精巧に作られている。尊い観音菩薩というよりも、切れ長の目とまるで男を誘惑するかのような魅惑的な微笑がよい。この仏像に限らず他の像にもトルコ石がふんだんに使われており、チベット民族は特にこの宝石を好むのだろうか。

 チベット仏教は後期密教の影響が強く、中期密教が伝わった日本とはかなり異なる。後期密教はヒンドゥーのタントラ教の教義をかなり取り入れており、男性原理と女性原理が合一することで最強の力が得られることを説く。平たく言えば合一というのは男女合体(性行)であり、男女の2神が合体している「父母仏(ぶもぶつ)」像も何点か展示されている。男神と女神が向き合っている表情だけでもかなり色っぽいが、もっとエロい意味があったのだ。



 上記の画像は「ヤマーンタカ父母仏立像」。実はこの像、展示物の像でも最も大きく、横から下半身を見ると股間もリアルに作られ、 “合体”していることがはっきり分かる。私の隣にいた60代と思われる品のよさそうな老婦人も、微笑んで鑑賞していた。全く際どい神像だが、この種の像は日本での歓喜天と同様、現地の一般信者には秘仏扱いされ、公開する場合も布で像の体の大半を覆うそうだ。だから、チベット人平信者には見られないモノを拝ませてもらったことになる。ありがたや。
その②に続く

◆関連記事:「中根千枝氏の見たチベット
 「カシミールからの暗殺者

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2 コメント

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Unknown (ゆた)
2010-05-31 10:57:45
 仏像と云えば、ただただ静謐な印象を持って見ていた次第ですが、色々と奥深いものがあるんですね (笑)。
 仏像だけでなく、展示の仕方にも色々な意味合いが込められているのだと言うことを、mugi様に教わりました。
 大義名分だけを鵜呑みにするのは恐いですね。裏を読む必要性と楽しみを、これからは注意していこうと思いました。

 ところで、"Sizer"は導入されたでしょうか?
 英語のソフトで、日本語用のパッチがないのが実に残念ですが、設定方法は簡単なので、日本語オンリーな私にも使えるソフトなのがありがたいです。
 特に設定し直さなくても800×600 (4:3) はあったと思うので、問題ないかと思いますが、他のサイズにも設定できるのでぜひ使いこなしてみていただきたいと思います。

 それでは、その②も楽しみにしてます。
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ゆた様へ (mugi)
2010-05-31 21:37:33
 一般に日本では静謐な仏像が多いのですが、それでも秘仏扱いで一般公開されないものは際どい像があるそうです。ただ、チベットほどにはエロやグロさは強烈ではないと思いますね。日本とチベットの風土の違いもあるにせよ、ここまでおどろおどろしい仏像群は迫力があります。もしかすると、東南アジアの仏像にもこのタイプはないのかもしれません。

 さて、ご紹介のあった"Sizer"ですが、さっそくダウンロードして実行してみました。何しろPC音痴なので、ちゃんと実行できるか不安でしたが、なんとか800×600 (4:3)に変換され、安心しました。便利なフリーソフトを教えて頂き、大変ありがとうございました。
 ただ、今風のワイド画面だと前の型に比べどうしても縦のサイズは短くなり、何やら画面全体が小さくなった、前の方が良かった…と感じる人も結構いるのではないでしょうか。
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