その一、その二、その三、その四、その五の続き
アニメ版でオスカルとアンドレがついに結ばれるのが第37話。この回のはじめでオスカルは、ジャルジェ家の侍医ラソンヌから、結核で余命半年と診断される。原作よりも早い時点でオスカルは結核に罹っているが、それを誰にも話さなかったのはアニメ版も同じ。さらに治療のために医者に掛からなかったのも原作通り。オスカルの喀血シーンは3度くらいの原作に対し、アニメ版ではその倍はある。
いくら不穏な社会情勢で激務が続いていたにせよ、オスカルが療養しなかったのは不思議でならない。何をするにも身体が第一なのに。常に己のことよりも家や王家、軍など周囲を優先してきた人生だったため、病の治療を後回しにしていたのか?まして結核は19世紀になっても死病だった。不治の病を誰にも告げず、1人耐えていたのは辛すぎる。但しアニメ版では、ラソンヌの他に部下のダグー大佐がオスカルの病にだいぶ前から気付いていたという設定になっており、原作よりも救いがあった。
アンドレが失明寸前だったことをオスカルに黙っていたのも原作と同じ。だが彼の死の直前、オスカルが彼の失明を知った原作と違い、ラソンヌから聞いて判ったのがアニメ版。余命半年と知ったことで、ようやくアンドレの愛を受け入れることが出来たのだ。
オスカルの肖像画を前にアンドレが感想を述べるシーンは原作にない。既に殆ど目が見えず己の幻想を語っているのに、はらはらと涙を流しながら「ありがとう」を繰り返すオスカルは感動的。こうしてみると、何時も一緒にいながらアンドレの失明に気付かなかった原作版はおかしい。
出撃前のアンドレとジャルジェ将軍の会話も胸に迫る。原作通りの将軍の「もしお前が貴族だったら…」に続く台詞が、アニメ版では全く違っている。「私は間違いなくお前とオスカルの結婚を許していたろう。いや、心からの祝福を送っていたはずだ」であり、最後は「死ぬなよ、アンドレ。必ず戻ってこい」と言っている。明らかに2人の結婚を認めたのだ。
「お前はあれ(娘)の影になれ…影となって無言のまま沿い続けるがいい」と命じた原作より、ずっと優しい主人に変えられている。もちろんアンドレは命じられずとも影の存在でいただろうが、原作版では他人の人生を何だと思っている?と言いたくなる。
他にも原作にないアニメ版の台詞に、ベルナールの「俺は君が貴族の馬丁如きで満足している男とは思えん」があった。“貴族の馬丁如き”とは聞き捨てならぬ内容だが、この件には触れない。彼の言うとおり賢明なアンドレならオスカルと関わらなければ、ベルナールのように新時代を率いる人物になれたのかもしれない。だが、オスカルへの愛を何よりも優先したアンドレ、結局は貴族の馬丁で終わった。
オスカルが父に、「私如き娘を愛し、お愛しみ下さって本当に有難うございました」という書置きを残していたのも原作にない。真面目で律儀なアニメ版オスカルらしい。「まるで永久の別れのようではないか」と怒った父だが、たとえ戦死せずとも2人は2度と屋敷には戻らなかっただろう。
オスカルとアンドレが結ばれるのは、何と森の中なのだ。周囲には蛍が飛び交い、空には天の川という映像は実に幻想的で綺麗。初めてなのに外で?蚊は大丈夫?といったツッコミはネットでも見られるが、野合と呼ぶのが気恥ずかしくなるほど美しいシーンだった。原作を越えた、という意見も見られた。
「アンドレ・グランディエ、あなたがいれば私は生きられる、いえ、生きていきたい」、という台詞はオスカルの独白だろう。最後まで独白でも“お前”と言っていた原作オスカルとは対照的。結ばれた後、アンドレがオスカルよりも馬で先に走っているアニメ版はやはり男性目線なのだ。
2人が衛兵隊に戻った後、オスカルが皆の前で「私はアンドレ・グランディエの妻となった」と寿宣言したのも驚いた。さらにこんな台詞もある。
「私の信じる人、私の愛する人が諸君と同じく民衆に発砲しないと思うからだ。私はその人に従おうと思う…アンドレの信じる道は私の信じる道だ…」
ここに至っては原作オスカルとは完全な別人だろう。この“従う”発言を怒っている原作ファンも結構いるようだが、ここまで違っていると苦笑してしまった。愛する男に従うと言ったオスカルだが、この発言で完全に衛兵隊兵士の気持ちを従えている。それまでは貴族と平民という身分があり、兵士たちとの間の溝が中々埋められなかったが、“従う”発言は絶妙な効果をもたらしたのは確か。
男性目線でもよかったと思うのが、第36話のオスカルとアントワネットの別れ。パリからの軍の撤退を要請、「どうか、軍をお引き下さい」と進言するオスカルに対し、それは出来ません、と拒絶する王妃。近衛隊時代から度々オスカルは王妃に忠告していたが、ハッキリ物事を言う原作に対し、アニメ版では強い忠告を避けており、不満を感じた人も少なくなかっただろう。
しかし、最後にはきちんと軍の撤退を要請していた。これぞ“漢”だと思う。対照的に原作では軍の撤退は口にせず、フェルゼンの話題になっている。やっと恋する女の心を知ったオスカルだから言えたのだろうが、進言の後、涙を流しながら振り返らず去ったアニメ版の別れ方はいい。
その七に続く