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ほっぷ すてっぷ

精神保健福祉士、元新聞記者。福祉仕事と育児で「兼業」中。名古屋在住の転勤族。

本「若年層のセーフティネットを考えるーーー就労支援はセーフティネットになり得るか」

2021-02-28 05:15:42 | Book
酒井正・著『日本のセーフティネット格差』の第6章

正社員と非正規就労の人が受けられる社会サービスに格差があり、そのことが所得や選択肢の格差となっている。とすれば、非正規就労の人が正社員になれればよい。そのための就労支援サービスはあるのか。あるとすれば機能しているのか。

特に若いうちに正規就労の軌道に乗ることができれば、現状のセーフティネットを利用しやすい。若年層での非正規就労がその後も続くとすれば、勤続経験を条件とする既存のセーフティネットから漏れてしまうことに加え、日本で重視されている「企業特殊的スキル」(とは本書では書いていないが企業内で雇用される中で蓄積されるスキルのこと)が身につかず、能力が開発されない。公共職業訓練や資格取得などのスキルは、就業経験のある人には有効ではあるが、就業経験のない人には就業や賃金上昇に貢献しないというのである。これは、現在勤めている(勤め続けている)企業での経験が特に重視される日本的雇用慣行の影響も大きいと思われる。

最低賃金を上げるとか、「求職者支援制度」(雇用保険の加入歴に関わらずに受けられる公共職業訓練と現金給付)などを本書で検討するものの、効率的・効果的ではないことが示される。海外の就労支援など、効果が出ているものを挙げると
・個別カウンセリング
・訓練では得なく就労を目指す(派遣の仕事も選択肢?)
・その間のある程度の所得補償
・企業への雇用助成(就業経験の少ない若者を雇用した際の助成金)
・特に学校卒業から初めての就労につまずいた人の就労支援(コスパがよい&必然的に雇用保険関連サービスの対象外)

であった。卒業や失業後、すぐに個別カウンセリングにつながることは重要で、すぐに仕事を見つけられないものは強制的に職業訓練を義務付ける、という国もあるようだ。

日本ですでにある仕組みの中で、これらの目的に沿っていそうなものは
・ジョブカフェ
・地域若者サポートステーション
・生活困窮者自立支援法の中の就労支援
・トライアル雇用
・特定求職者雇用開発助成金(通称・特開金)
・ジョブカード

かな?
ただ、本書で示されている疑問として、非正規雇用の増加は、サービス経済化や、生産物市場における不確実性の上昇(需要変動が大きいものに対して派遣や雇用期間の定めのある雇用で対応する)、ICTの普及(スキルがすぐに汎用化してしまうので、より新しいICTに対応できる人を雇用する必要性)などがある。つまり、正社員雇用自体の需要不足があり、現状の就労支援はミスマッチ(構造的失業)にしか対応できないのではないか、というものがある。これについては指摘で終わっていた。

・・・
まず、就労支援がセーフティネットのひとつだという位置づけは、この仕事をしている者としてはうれしいが、業界の意識としては低いと思われる。目の前の若者たちには困窮者も多いが、困窮していない家庭の若者も多い(家庭環境の良い人の方が支援サービスにつながりやすいという偏りがある)ことがその理由ではないか。実際には就労支援と合わせて生活支援(福祉的ソーシャルワーク)が必要なことが多く、就労支援としての気概やスキルが身につきにくい業界でもあると思う。

現場にいるものとして面白いと思ったのは、
「すぐに支援につながった方が効果が高い」ということ。支援機関にいる者としては、来たくれた時点をスタートとするしかなく、「もっと早くつながっていれば」というたらればをあまり考えることがなかった。「必要な人に情報が届くように」とは思っているが、その必要性を考える前に、自動的につながるくらいの流れが必要(そういう国もある)なのかもしれないと思った。
若者に必要なのは訓練ではなく就業なのだ、というのは私がいる支援機関でも同じ考えなので納得。何よりも経験。そして就業してきたという履歴が大切で、その入り口に立たせてもらえる企業を日々探しているのが私の仕事である。
その方法として、目の前にいる若者を見てもらい、情が移ることを期待する(?)面があるが、相手によってはこのようなマクロ的な視点(就業経験が何よりも正規就労や生活回復、今後の就業人生に大切で、その入り口に立つことのできなかった事情を持つ若者にチャンスを!というような)が効く会社もあるのではないかと思った。

本・酒井正『日本のセーフティネット格差』

2021-02-28 04:47:48 | Book
年明けから読んでいた本著。問題意識がわかりやすく、読み進めやすかった。その問題意識というのは、こういったもの。

日本では正社員就労することに伴うセーフティネットの仕組みを続けてきたが、その裏返しとして正社員就労できていない人へのセーフティネットがとても手薄い。具体的には、比較的低負担で年金(厚生年金)、医療保険(健康保険)、失業時の給付(雇用保険)などに入れているのは正社員就労の人であり、むしろその制度の必要性の高い非正規雇用の人たちはセーフティネットから漏れている。そして、この非正規雇用の人がどんどんと増えている。
非正規雇用の人も入りやすくした雇用保険でさえ、未加入だったり、失業給付の受給要件を満たしていない人が多く、困窮に陥りやすい。厚生年金や健康保険の非正規社員への適応拡大は正義ではあるが、もし仮に適応されたとしても格差(正社員就労で給与が高ければ高い給付を受けることができ、非正規であれば給付量・額は少ない)は助長されていく。再分配の機能が弱い。負担に紐づいた社会保険の仕組みだけでは、現状を変えられない。

・・・
この現状が、過小評価されていることは、とても共感できた。その通り、と思ったのは、この社会保険だけでなく子育て支援(育休や保育園の入所)も、比較的安定した雇用で、高所得の世帯が優先的に利用できているという点。私自身、その「優先的」側としても自覚があり、違和感は感じていたので納得である。

ブログでは、このセーフティネットの格差を埋める機能として、若者の就労支援にスポットを当てた6章をまとめておきたい。(次に続く)