日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

錦繍の津軽を行く 2020 - はすや

2020-11-06 21:53:34 | 居酒屋
頓に食が細った昨今、二軒のはしごも容易ではありません。ましてや三軒はしごするのは無謀に近いものがあります。しかし、目下の状況では四の五の言ってもいられません。トリを飾るのは「はすや」です。

去る二月、当店を訪ねようとして信じがたい光景に出くわしました。店が跡形もなく消え失せていたのです。しかし、一瞬だけ驚きはしたものの、それ以上慌てることもありませんでした。あれほど繁盛していた店が、不振で店を畳むとは考えられません。新しい建物の基礎らしきものができていることからしても、改築のためしばらく休んでいるだけだろうと推察しました。帰京後に調べた限りでも、その見立てに誤りはなさそうでした。
ただし、再開後のことについては今なお謎に包まれていました。ほぼ唯一の手がかりだったのは、一階の店子を募集する不動産屋のWebサイトの情報です。「はすやビル」なる物件名から、土地ごと買い取り改築したらしいということは分かりました。しかし、物件の写真を見る限り、引き続き二階に店舗を置いた上で、一階を貸し出すということのようです。しかるに、間口には賃貸される一階の物件の玄関と車庫しかなく、どちらかを通らない限り二階には上がれそうにありません。わざわざ建て直したにもかかわらず、入りやすくするどころかむしろ逆行するかのような対応が、いかにも謎に感じられたわけなのですが、現地を訪ねたことにより、ようやく得心させられました。

車庫の脇には先代の店から受け継がれた行灯が明かりを放っており、その位置から振り返ると車庫の壁に扉があって、そこから二階へ上がっていく造りになっていました。行灯を片付けてシャッターを下ろせば、この建物に店があるとは一見しても気付きません。その手があったかと一瞬意表を突かれたものの、その背景にある周到な設計に、後々気付くこととなります。
扉に取り付けられた鈴は、行灯と同じく先代の店舗から受け継がれたものでしょう。二階へ上がる階段にも、傾斜を含め元の店舗に通ずるものが感じられます。その階段を上がった先がカウンターという作りも同じです。一直線だったものが途中で斜めに折れ曲がる形に変わっているものの、材質、造りは先代の店舗のそれを彷彿とさせ、手元にある品書きも、食器も酒器も受け継がれました。
そのような経緯もあり、改築こそされたものの、雰囲気は意外なほどに変わりません。ただし、一新された点もあります。まず目に留まったのは厨房の充実ぶりです。狭いカウンターの片隅にあった厨房は大幅に拡げられ、真新しい什器が整然と配置されました。それに合わせてカウンターが広がったのも、こちらにとっては朗報です。白壁とフローリングを主体にした適度に明るい店内は好印象。現代の店舗というと、安物の建材を多用するところも多い中、木目に見える部分は全て天然木です。贅の限りを尽くしたわけではないものの、予算を惜しまず作り込まれていることが窺われます。路地裏の目立たぬ場所に佇んでいた前の店舗の雰囲気をできる限り残しつつも、手狭で不便だった部分を一新し、末永く続けられる店を造ったということなのでしょう。
そこまでした矢先に降って湧いたような騒動に巻き込まれるとは、不運というしかありません。しかし、静まり返った繁華街とは裏腹に、店内はそれなりに賑わっています。店主によると、五月の後半に再開し、客足も次第に戻っていったものの、先月の騒ぎによって再び客足が遠のいて今に至るとのことでした。お客が減ってこの状態ということは、このご時世にあって大健闘といっても差し支えありません。知る人ぞ知る人気店は健在でした。

はすや
弘前市上瓦ヶ町1-1-2F
0172-33-6981
1800PM-2400PM
日曜定休

華一風
モヒカン娘
お通し(南蛮漬け)
刺盛り七点
秋刀魚肝友焼
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