MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2497 職場から「いい男」が消えたワケ

2023年11月18日 | 社会・経済

 恋愛離れや未婚化の傾向が進むZ世代を中心とした若者たち。彼らを対象としたアンケート調査などを見ると、その多くで「出会いがない」が理由のトップとして挙げられています。

 では、実施に(最近)結婚したカップルは、パートナーとどのように出会っているのか。昨年9月の日本経済新聞は、インターネットをきっかけに出会って結婚した夫婦の割合が全体の13.6%に増える一方で、職場で知り合う機会が急激に減っていると伝えています。(「ネットで出会い結婚13% コロナで変化、職場減少」2022.9.9)

 国立社会保障・人口問題研究所の調査によれば、SNSやマッチングアプリなどを通じて知り合い結婚した人はコロナ前の2015年7月~18年6月の3年間では6.0%だったものが、18年7月~21年6月の3年間では13.6%となり、割合が倍以上に増えているとのこと。

 一方、職場や仕事で知り合った(社内恋愛から発展した)と答えた人は、コロナ前は28.2%だったものが、コロナ禍を含む時期では21.4%に減少したと記事はしています。因みに、友人や兄弟を通じて知り合ったと答えた人も、27.0%から25.9%に減少。学校での出会いはほぼ横ばいで、14.1%だったということです。

 コロナ禍を挟んでテレワークなどが普及し、対面の場が少なくなったことが(おそらくは)その背景にはあるのでしょう。人生のパートナーを決めるという重要な出会いの形にも、このような社会の変化が大きく影響しているといえそうです。

 それにしても、こうしたデータを待つまでもなく、職場恋愛や職場結婚が減っている雰囲気はオフィスを見ていても何となくわかります。以前であれば、同じ会社の同期のメンバーで飲みに行ったり、独身男女のグループでスキーに行ったりしたものですが、そうした話もつとに聞かなくなりました。仕事とプライベート、オンとオフの切り替えが明確な(明確にしたい)若い世代は、もはや恋愛に職場の人間関係をずるずると引きずったりしないということなのでしょうか。

 そんなことを感じていた折、8月4日の経済情報サイト「PRESIDENT Online」に、雇用ジャーナリストの海老原嗣生氏が『「職場から"いい男"が消えた」…結婚しない女性が急増した本当の理由』と題する興味深い一文を寄せていたので、この機会に小欄に一部を残しておきたいと思います。

 1990年代以降、女性の晩婚化が大きく進んだが、その原因として指摘されているのが女性の高学歴化、特に女性の四年制大学への進学率上昇だと、海老原氏はこの論考で指摘しています。

 日本の女性の結婚年齢は、第二次大戦の終戦を経て昭和の時代を通して上がり続けているが、結婚相手との出会いの年齢は1997年まで一貫して22歳代。結婚年齢は変わっても、女性たちの「出会い」は決して遅れていなかったと氏は説明しています。

 当時、結婚を考える女性のボリュームゾーンは短卒・専門卒が最終学歴の人たち。彼女たちは20歳で短大を卒業し、就職しながら相手を見つけて25歳くらいまでに結婚し、めでたく寿退社というのが典型的な姿だったということです。

 それが大きく動いたのが、バブル崩壊後の1990年代のこと。その後に続く長期不況より大幅に一般職(事務職)新卒採用が絞られていくことになり、女性の「短大→一般職採用」というライフコースは崩れていったと氏は言います。そして、時を同じくして女性の四年制大学への進学率が高まり、1996年には短大と四大の進学率が逆転。以降、右肩上がりで上昇し続けてきたということです。

 生涯の伴侶を見つけるのは、やはり修学中ではなく、社会に出てからとなる人が多い。四年制大学進学者が増えれば就学期間が延びるため、結婚相手との出会い年齢も上昇を見せていったと、氏はこの論考に記しています。

 1990年代後半から2010年代半ばまでに、女性の「結婚相手との出会い年齢」は約2歳上昇。一方の男性の出会い年齢が、25.6±0.7歳の範囲で(大きく変わらず)推移し続けていることからも、進学率の上昇によって(女性の)結婚相手との出会い年齢が上がり、それが晩婚化につながったことは明らかだというのが氏の認識です。

 しかし、その後に続く2010年代以降に起きる晩婚・未婚化については、その原因が何なのか今一つわかりづらくなっていると氏は話しています。そして、そこで手がかりとなるのが、「付き合い始めたきっかけ」を細かく表したデータだということです。

 戦後の高度成長期、出会いのきっかけとして一貫して増え続けていた「職場・仕事」が1990年代後半以降減り続けるようになった。それ以外の「見合い」「友人」「学校」「趣味」「バイト」「街中」などが一進一退で影響が見られないことを考慮すれば、この20年間の未婚・晩婚化の理由が「職場婚の減少」にあることは明らかだと氏はここ指摘しています。

 それではなぜ、職場婚は減少したのか。その解は、この期間における女性のキャリアの変化にあるというのが氏の見解です。

 短卒→事務職(一般職)というコースが激減し、女性も男性と同じように四年制大学に通い、総合として企業に勤めるケースが「当たり前」となった。単純に考えれば社内に多くの結婚適齢期の女性がいることに変化はないが、そこにいる女性たちの学歴が男性に比肩するようになったことで、男女の人間関係に変化が生じたということです。

 そしてこの変化こそが、(女性が)「かつてより社内にいい男が少なくなった」ように見えるという現象を生み出している原因なのではないかというのが、この論考で氏の指摘するところです。

 短大卒で一般職となった女性の場合、(同じ職場の中では)学歴も給与も安定性も将来性も、総合職の男性には劣っている。当然、社内には至るところに「自分より上の男性」が溢れていたと氏は説明しています。

 一方、四年制大学を出て総合職社員となった女性たちから見れば、男性社員は「同格」でしかなく、下手をすると「自分以下」に感じる場合も多いだろう。しかも、日本型雇用のメリットはどんどん緩和されているので、昔のように「男ならだれでも管理職」になれる保証もないということです。

 昭和時代の結婚観のままでは、良き婚姻相手を見つけるのが難しくなってきた現代の女性たち。彼女らはいずれ「結婚観」も今流にアップデートし、「できる女性とうだつの上がらない亭主」という今流のカップルを見出さなければならないのだろうと、氏はこの論考に綴っています

 そして、それは男性の側からも言えること。ともすると、「女の高望み」とか「男として恥ずかしい」などと揶揄する向きもあるかもしれないが、(そもそも)進学も就職も昇進も過去と変化しているのに、世の多くの人の頭が「昭和のまま」であることに問題がある。(当事者の若い女性たちよりも)親世代、周辺の人たちの「目」が変わっていく必要があるというのが氏の認識です。

 多くの男性に囲まれ生き生きと働きながら、それでも「出会いがない」と嘆く女性たち。彼女たちの眼に「新しい夫婦の在り方」が見えるようになれば、少子化の問題も徐々に解決に向かうのかもしれません。

 未婚者の増加が顕在化する中、(少なくとも)職場婚減少の背景には、雇用構造の変化と色濃く社会に残るアンコンシャスバイアスがあったとこの論考を結ぶ海老原氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。



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