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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2791 必要なのは「どぶ板」に立ち返ること

2025年04月05日 | 国際・政治

 紆余曲折の後、4年の歳月を経て再びホワイトハウスの主となったトランプ大統領。今年1月の就任早々、国際機関からの脱退、関税の強化から紙ストローの廃止に至るまで、数々の大統領令に署名したと思ったら、その後もカナダや(パレスチナ)ガザ地区の領有やグリーンランドの買収に意欲を示したり、ウクライナの頭越しにロシアとの和平交渉を始めたりと、まさに「やりたい放題」の状況です。

 4月に入ってもその勢いは止まらず、メディアの取材に対して憲法で禁じられている「3期目を目指す」と口にしたと思ったら、今度は米国の貿易相手国に大規模な関税を発動すると発表することで、同盟各国をも大きく動揺させています。

 その内容は、全ての国に10%の一律関税を課し、その後、米国が巨額の貿易赤字を抱える約60カ国・地域に最大50%の「相互関税」を課すというもの。因みに、日本に適用される関税率は24%とのことで、トランプ氏が繰り返し批判してきた欧州連合(EU)の20%よりも高いもの。こうした一方的な高関税に対して各国が反発するのは当たり前と言えば当たり前で、これから先も(傍若無人にふるまう)トランプ大統領を台風の目として貿易戦争がさらに拡大していくことでしょう。

 それにしても不思議なのは、(こうして)思い付きのような政策を連発するトランプ政権に対し、米国内から大きな反発の声が聞こえてこないこと。トランプ氏の考え方に強く反対する米国民もかなりの割合でいるはずなのに、民主党をはじめとした政治家達からも、痛手を受ける企業や関係各国を巻き込んだ政治的な動きが(まったくと言っていいほど)見えてきません。

 前トランプ政権では、閣僚の中にもトランプ氏への「ブレーキ役」のような働きをしていた人物が見受けられましたが、今やそれも不在となり、新政権は「イエスマン」の集まりとのこと。すでに米上院は共和党が過半数を形成しており、大統領選と同時に行われた下院選でも共和党が多数派を確保することで、大統領と上院下院の3つをすべて共和党が制する「トリプルレッド」すら実現しています。

 こうした状況を許している背景に、(トランプ氏に追従する共和党に)唯一対抗できるはずの民主党の不甲斐なさ…あまりにも米国民の現状に寄り添えていない(寄り添おうという意思がない)ことを挙げる人も多と聞きますが、この日本にいる限り、米国の政治の動き自体(正直)よくわからないのが現状です。

 米国内で「反トランプ」を掲げる政党や政治家たちは、今、一体何をやっているのか。そうした疑問に対し「週刊東洋経済」誌の2025年4月5日号が、米国の保守系政治団体「リンカーン・プロジェクト」共同創設者のリード・ガーレン氏による『トランプに負けた米民主党は何も学んでいない』と題する論考を掲載しているので、参考までに指摘の一部を残しておきたいと思います。

 米民主党が2024年の大統領選挙でトランプに2度目の敗北を喫したのには、ジョー・バイデンの高齢やカマラ・ハリスの政策を超える、もっと重要な理由があると、ガーレン氏はこの論考で指摘しています。

 氏によれば、それは民主党が労働者の政党から海岸部の裕福なエリートの政党へと色合いを変えていった、過去数十年のシフトによるものとのこと。そうした経過の中で民主党は、白人だけでなくラティーノ(中南米系)の労働者層の間でも支持を急速に落としていった。そして、さらに近年では、重要な激戦州で支持層の多くが投票所に足を運ばなくなる状況を作り出してしまったということです。

 共和党が、ホワイトハウス、上院、下院を支配し、最高裁でも保守派判事が多数を握っている状況では、トランプを押しとどめようにも民主党が持つ制度的な力は限られている。だからといって、闘いを諦めることが支持を取り戻す有効な戦略であるとはとうてい思えないと氏は話しています。

 民主党議員の多くは、(従来どおり)民主寄りのテレビ局や仲間内のポッドキャストに出演するという「お上品」な戦術に頼っているが、そんなものは(トランプに対抗し得る)「強い指導力」や「統一戦線」の代わりにはならないというのが氏の指摘するところ。

 民主党の人間が今時間を投下すべきは、自らの選挙区、共和党の選挙区、去年の選挙で負けた州などにおける(まさに)「どぶ板」の活動であり、それだけが国民の抱える問題に応え、信用度の高い透徹した戦略を練り上げる唯一の道だというのが(この論考における)氏の見解です。

 有権者との(そうした)関りがとりわけ重要になっているのは、政治環境が劇的に変化してしまったから。トランプが国政に進出したのは10年前だが、彼を支える保守派の高度に組織化され、強い資金力をもってこの瞬間のために40年にわたって活動を続けてきたと氏は言います。で、あればこそ、民主党のある戦略家が述べているように、今の政治に昔のやり方は通用しない。私たちは昔とは違うゲームを戦っているということです。

 中間選挙は、伝統的に野党に有利になっているとはいえ、ゲームのルールが変わってしまった以上、民主党は26年の中間選挙での勝利を当てにはできないと氏はしています。政権に近い人たちは、来る日も来る日も民主党に責任をかぶせ続けるだろうということで。

 民主党が、「トランプ2.0の被害が広がれば選挙に勝てる」と期待しつつ国が焼ける様子に傍観を決め込むなら、民主党は本当に何も学んでいないと言わざるを得ないと、ガーレン氏はこの論考を結んでいます。

 確かに、立憲民主党をはじめとした日本の野党だって、街場の駅頭で野党伝統の(リベラルでインテリ然とした)きれいな反対運動を続けているだけでは、「口だけ」「かっこつけ」のそしりを免れるものではありません。「手取りを増やす」「お札を刷って配れ」といったリアルさや、N党の無茶苦茶な主張などが若者に刺さるのも、話が生活に身近なればこそといったところでしょうか。

 明日が見えない現実と生活感覚の前で、空回りするリベラルたち。そうした中、まずは臆せず有権者の目を見て話すこと。信頼を勝ち得るには「どぶ板に立ち返れ」と話すガーレン氏の主張を、私も興味深く読んだところです。