MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

♯1393 サラリーマンの強制換羽

2019年07月01日 | 社会・経済


 人生100年時代を迎え、経済的な部分も含め定年後の人生をいかに生きるかがサラリーマンにとっての重要な課題となってきました。

 言うまでもなく、平均寿命が男性で約70歳、女性でも75歳前後だった1970年ころであれば、60歳で年金を受け取り始めて10年もすればお迎えが来て幸せな人生を全うすることができたはずです。

 しかし、マラソンのゴールテープが遠のくように(気が付けば)それがさらに10年以上も先送りになり、「還暦」もはや老後生活の「一里塚」とさえ言えない状況が生まれています。サラリーマンはその後半世紀もの間、(単に食いつなぐばかりでなく)健康で、生きがいをもって暮らし続けなければならないと尻をたたかれるばかりです。

 「結構しんどいなぁ」と感じているオジサンたちも多いと思いますが、5月7日の「文春オンライン」では、経済・社会問題評論家でビジネス書の著作も多い牧野知弘(まきの・ともひろ)氏が、『「48歳で会社を辞める」時代がやってきた』と題する論考において、この現状にさらに追い打ちをかける指摘を行っています。

 (厳しい話ですが)企業にとっては卵を産み続ける鶏は良い鶏だからいくらでも欲しいが、卵を産まなくなった鶏を何羽鶏舎に飼ったところで会社の利益はあがらないと牧野氏はこの論考に記しています。

 年金制度の維持が厳しくなるほど、国は高齢者の雇用を企業に押し付けようとしている。年金支給開始年齢はやがて65歳から70歳、あるいはそれ以上に延長されることも視野に入れざるを得ない状況が見え始めていると氏は現状を説明しています。

 4月には働き方改革関連法案が施行され社員の残業時間に制限がかけられる中、企業は一人一人の労働生産性をあげていかなければ収益を確保できない。さらにそこに、卵を産まなくなった大量の高齢者を長期間にわたって雇い続けなければならないという苦難の運営を強いられるということです。

 会社にとって、雇用の継続は大きな重荷になっている。本当にこんなことをやっていて日本企業は持続していけるのだろうかと氏は(こうした状況に)懸念を表しています。

 22歳で集団就職して、60歳までで38年間。これが70歳までとなれば都合48年間に達するが、実際、半世紀もの間同じ会社で同じように働くことが本当に可能なのかと牧野氏は言います。

 ここで氏は、「強制換羽」という聞きなれない言葉を紹介しています。

 養鶏業では、雌鶏は産卵開始後10か月程度たつと次第に卵を産む回数が少なくなり卵の質も悪くなる。そこで考案された飼育法が、卵を産まなくなった雌鶏を10日から2週間程度絶食させる(もしくは栄養価の低い餌しか与えない)というものだということです。

 絶食を経たうえで新たに餌を与え始めると、必死に生を求める雌鶏は元気を取り戻し、再び卵を産むようになる。餌を与えられない間、雌鶏は衰弱して羽が抜けるので「強制換羽」と呼ばれていると氏は説明しています。

 勿論、養鶏場で強制換羽を行えば、少なくない数の雌鶏が飢え死にするということです。

 しかし、この手法を施せば一度は生産性が落ちた雌鶏に再び卵を産ませて収益を得ることが可能となるし、絶食中はエサ代もかからない。さらに雛から卵を産む雌鶏になるまでのコストや時間を考えれば、養鶏業者にとってこの強制換羽は非常にコストパフォーマンスの高い再生手法に映ると氏は指摘しています。

 (鶏の話はさておき)翻って、サラリーマンの場合でも45歳以上をターゲットとした早期退職者を募る企業が増えていると、牧野氏はこの論考に記しています。

 昨年6月にはNECが3000人規模の早期退職希望者を募り、2170人の応募があった。今年に入ってからはカシオ計算機や富士通、コカコーラボトラーズジャパンホールディングスなど大手企業が早期退職希望者を募り、相次いで経営の立て直しをはかろうとしているということです。

 そうした状況から、氏は(聞きようによっては嫌な話かもしれないが)日本のサラリーマンにも強制換羽を強いられる時代が来るかもしれないと説明しています。

 実際にこうした雇用制度は多くの副作用を社会にもたらすだろう。会社は高齢者雇用が必要なくなれば、若い世代に多くの報酬を支給できるだろうし、重要な役職を早くから与えることができるようになる。国際競争力もアップし、社員の生産性が上がることは間違いないということです。

 一方、強制換羽された社員たちは次のステージを与えられることで、生気を取り戻し、多くの実績を残す社員も現れることだろう。まさに政府が掲げる「一億総活躍社会」の実現だと氏は指摘しています。

 しかし、特に40代後半で定年になったサラリーマンには次のステージに行けない者が出てくるのも事実です。

 国には、これまでのように高齢者ばかりを対象にした社会保障制度ばかりでなく、強制換羽されて立ち行かなくなった人たちへの手厚い失業手当や大学までの教育費の無償化などを支援するような制度設計が求められるだろうと牧野氏は指摘しています。

 日本人の3分の1以上が高齢者で占められるような本当の高齢化が始まれば、これまでの制度の延長線上の考え方でいくら小手先をいじくっても、もはや問題の解決には程遠い状態となるというのが氏の認識です。

 で、あればこそ、同じ雌鶏が2度卵を産めるように、サラリーマンも国の手厚い支援のもと、何度でも活躍できる社会にすることこそが高齢化社会ニッポンの(建設的な)未来図なのではないかと問いかける牧野氏の指摘を、私も(少しの恐れと共に)興味深く読んだところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿