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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2747 アメリカの大学には医学部がない…という話

2025年02月17日 | 医療

 私自身あまりテレビドラマは見ない方なのですが、たまたま見かけたTBSの『まどか26歳、研修医やってます!』という医療ドラマを、今では毎週(案外?)楽しみに見るようになりました。芳根京子さん演じる若月まどかは、総合病院に研修医として配属されたての26歳。先輩医師に厳しくも心ある指導を受けながら、仲間の研修医と切磋琢磨して一人前の医師を目指していくという、まぁ、よくあるといえばよくあるストーリーです。

 勉強ができたから、コスパがいいから、家が病院だから、親孝行するために…様々な理由から医学部に入り、6年たって一応卒業。国家試験は何とか通ったものの、医療現場の厳しさは想像以上。患者やコメディカルから、(いきなり)「先生」と呼ばれる立場になった新米医師たちのとまどいと試練の毎日を、ドラマは面白おかしく描いていきます。

 それにしても、街で見かければどこにでもいるようなお兄ちゃんやお姉ちゃんが、(資質や経験があろうがなかろうが)医師免許を持っているというその一点で「先生」になるこのシステムは、なかなかほかの業界では見かけないもの。中にいるとついつい忘れがちになってしまうようですが、かなり無理があるんじゃないかと思うのは私だけではないでしょう。

 ドラマを見ながらそんなことを感じていた折、2月17日の経済情報サイト「DIAMOND ONLINE」に、自身も精神科医で作家の和田秀樹氏が『アメリカの大学に「医学部」がない意外な理由』と題する一文を寄せていたので、参考までに概要を小欄に残しておきたいと思います。

 氏によれば、意外に知られていないのが、アメリカの大学には基本的に医学部がないということ。医者になりたい人は、大学を卒業した後に(大学院にあたる)メディカルスクールで医術を学び、そこで4年間の課程を修めるとM.D.(Medical Doctor)の学位を得ることができ、そのうえで国の医師免許試験を受けて合格すれば医師になれると、和田氏はこの論考で説明しています。

 メディカルスクールで学ぶにあたって基本的には大学での専攻は問われないので、例えば演劇を大学で学んだあとに医者を目指すこともできる。日本でも、司法試験を目指すためのロースクール(法科大学院)は法学部出身でなくても進学することができるが、アメリカのメディカルスクールはそれと似たようなシステムだと氏は言います。

 つまり、18歳でいきなり医者になる道に入ることは原則的になく、4年制大学においてまずそれなりの教養を身に付け、精神的にもある程度、自立した人間だけを医者になるスタートラインに立たせるということ。それがアメリカ流のやり方であり、逆にいうとそれだけの経験を重ねたあとで、(学生たちは)医者になろうという決断をしているということです。

 そこの部分が、多くは高校を卒業したばかりで、あらゆる意味で未熟な受験生の「医者としての適性」を教育する側が判断し、それがないと決めつけた場合にはその道を閉ざしてしまう日本とは全く違うところ。また、アメリカのメディカルスクールの授業料はかなり高額だが、それに見合うだけの充実したプログラムが組まれているところもまた、大きな違いだと氏は指摘しています。

 もちろんプロフェッサー(教授)は、指導力の高さで選ばれているので授業の質も極めて高く、その点においても、(厳しい言い方をすれば)まともな指導もできないのに教授を名乗っている人間がゴロゴロいる日本とは大違いとのこと。指導される側の学生もみな自立した年齢で、しかも(たまたま頭がよかったからではなく)本気で医者になりたい者ばかりなので、いい加減な授業や下手な教え方は許されないということです。

 さらに言うと、日本での臨床研修はいい加減な指導医のもとでたったの2年だが、アメリカではみっちり4年もあると氏は続けます。つまり、どこを比べても、いい医師を養成しようという本気度に、日本とアメリカとでは雲泥の差があるということ。一方、 日本の大学の医学部は、実質的に医者になるための養成機関、つまり「職業教育」の場と考えられていて、そのため医学部の学生たちは、医学そのものの勉強にばかり必死で、それ以外の勉強にはあまり熱心に取り組もうとしないということです。

 もしかするとそれが、医学の知識はあっても人格には疑問符がつくような医者がどんどん輩出される理由の1つではないかと、和田氏はここで指摘しています。(そこまではいかなくても)研修医として初めて医療の現場に入り、「こんなはずじゃなかった…」と悩む(まどかさんのような)新米医師たちはきっと多いはず。中には、臨床や医師になることをあきらめたり、「直美」(直接美容外科に)進路を変える研修医もいることでしょう。

 医師を一人育てるために、億に近い公金が投入されている実態を考えれば、そんなもったいない話はありません。だからと言って、アメリカとすべて同じシステムにする必要はないと思うが、例えば大学の医学部もほかの学部と同様に4年間にして純粋な学問の場とし、本気で医者になりたいと思う学生だけをその先の大学院の医学部に進ませる。そして、そこでみっちり医者になるための(技術的な)トレーニングをするというやり方もあるのではないかと和田氏はここで提案しています。

 これであれば、医学という学問がすべての人に開かれる。アメリカのメディカルスクールと同様に大学院を4年にすれば、かなり充実したプログラムが組めるし、「いい医者」が育つ可能性は今よりずっと高くなるというのが和田氏の指摘するところです。

 医者を育てるための税金だって、主に大学院以降に投入されることになるため、大学卒業の時点で医者になる道を選ばなくても誰に文句を言われることもないはず。そうなれば、大学院の入試に(医師になることへの意欲や資質について)面接を課そうという話になると思うので、その時点で(改めて)「本気で医者になりたいのか」を問うのがいいのではないかと話す和田氏の提案を、私も大変興味深く読んだところです。



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