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MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2779 巷で「推し活」が流行るワケ

2025年03月23日 | 社会・経済

 「推し活グッズ」の企画・販売等を手掛ける企業OshicocoとCDGが今年1月、国内の15歳から69歳の男女23,069名を対象に「推し活実態アンケート調査」を実施しています。この調査によれば、推し活をしている割合(「推し活率」)は16.7%で、前年の14.1%から2.6ポイント増加。推し活人口は前年の1136万人から1383万人へと増え、約247万人が新たに推し活を始めた計算だということです。

 また、「推し活をした」と答えた人に対し「推し活にかけた金額」を聞いたところ、年間の支出額は平均で25万5035円に及んだとのこと。性別・年齢別で見ると、最も支出額が多かったのは35~39歳男性(44万5565円)で、次いで40~44歳の男性(37万2350円)だった由。女性のトップは30~34歳(33万6695円)で、男女を問わず30~40代のミドルエイジが推し活消費の中心を担っていることがわかります。

 同調査報告書によれば、日本の推し活市場は既に3兆5000億円に上っているという話です。これまでであれば、仕事が忙しくなる一方で、子育てやマイホーム資金などで「(公私ともに)趣味どころではない」といった世代が、現在の「推し活市場」を動かしていると言っても過言ではないでしょう。

 因みに、「推し活でお金をかけたもの」という質問に対し最も支出が多かったのは、①「公式グッズ」(30.7%)、②「チケット」(29.7%)、③「遠征」(23.0%)が上位を占めたとのこと。さらに、「CD」(17.5%)や「応援グッズ・収納グッズ」(11.4%)、「配信投げ銭」(4.4%)、「配信視聴サブスク」(7.0%)なども一般化しているということです。

 正直を言えば、プレミアグッズを高値で入手したり泊りがけで遠征したりと、家族でも何でもない人の「応援」に何十万円というお金を費やすイマドキの感覚は私には(ほぼまったく)わかりませんが、実家暮らしの独身者が増える中、「推し」を通じた人との繋がりや「自分事」への支出は生きる証のようなもの。また、SNSなどの浸透によって、推しとの関係が、それだけ身近になったということなのかもしれません。

 それにしても、現代人はなぜこれほどまでに「推し活」に夢中になるのか。3月12日の「東洋経済ONLINE」において、書評家で作家の印南敦史氏が社会学者・山田昌弘氏の近著『希望格差社会、それから(東洋経済新報社)』における山田氏の指摘を紹介しているので、参考までにその(書評の)一部を残しておきたいと思います。(『将来に希望を持てないが、「生活満足度」が高い人々が急増する理由』2025.3.12東洋経済ONLINE)

 さて、以下が、印南氏が紹介する(「推し活」時代の到来に関する)山田氏の見解です。印南氏によれば、戦後の日本人の希望は、将来的に「豊かな家庭を築く」ことにあった。そして、そのプロセスとして、①「仕事における希望」と②「家族形成の希望」ががあり、そこから人生の達成感や充実感を得ることで、人々は前へと向かっていったと山田氏は話しているとのことです。

 しかし、リアルな世界で「豊かな家族生活」への希望が失われるとなると、一気に話は変わってくるとのこと。現代社会では、豊かな家族形成という「大きな物語」の中に生きる希望を見い出せなくなった。このため、部分的に「擬似仕事」「擬似家族(恋愛)」という物語を用いる必要性が生じたというのが山田氏の推論だということです。

 そして、現実にしている仕事で努力が報われないと感じ、さらに将来就きたいと思う仕事(専業主婦も含む)にも就けないと思う人たちの行き場が、バーチャルな世界に向かった。近年、「推し」という言葉が浸透し、さまざまな「好き」という形がこの単語によって包摂されるようになったのもその一環だと山田氏は説明しているということです。

 具体的には、アイドルやアニメのキャラクターを好きになることなどを指す「推し」という言葉。「好き」を表現する活動は総じて「推し活」と表現されるようになり、「おっかけ」が「推し」に変化することで、「一方的に」誰か、何かを好きになることがすっかり市民権を得たということです。

 そうした中、リアルな世界ではお互いが好きになって結婚するということが減少し、婚活アプリなどにより恋愛感情抜きで結婚するケースが急増している。さらに、経済的な理由で結婚できない独身者も増え、行き場がなくなった「好き」という感情の受け皿として「推し」が広まったのではないかというのが(この著書で)山田氏の指摘するところです。言い換えればこれは、「親密性を市場から調達する」ということで、山田氏は若い女性がホストクラブなどにはまるケースが増えているのもその一例だと説明しているということです。

 リアルな世界で「希望」を持つことが次第に困難となりつつある現在。確かにそれが事実であるとしても、だからといって「現実を変革しよう」「現実社会に対して反旗を翻そう」という(ナイーヴな)方向に進めばそれで問題は解決するというものでもないだろうと、印南氏はこの書評の最後に綴っています。

 バーチャルの世界で満足している人が多いからこそ、「生活に満足している人」も確実に増えているはず。結果、日本は、現実の経済格差、家族格差が広まる中、「バーチャル世界」で格差を埋めるというシステムの先進国になっているのではないかと、山田氏も指摘しているとのことです。

 さてさて、「上善如水」とはよく言ったもの。人の心は「希望」や「繋がり」を求め、隙間隙間を見つけながら自然に流れていくものなのかもしれません。自分のためでなく人のため。(優しい日本人の心の中には)自分の好きな人の活躍を願いひたすら声援を送る喜びというものもあるでしょう。

 芸能界やプロスポーツなど、その存在自体が社会の安全弁のようなものだということなのかもしれません。現状が「ベストな状況」であるか否かは別として、私たちは、「バーチャルな世界で希望を見つけよう」とする人が増えていることも肯定する必要があるのだろうとこの書評を結ぶ印南氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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