MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1899 倒れても本望

2021年07月09日 | 国際・政治


 一時は、自民党が都議会第一党を奪還し、自民党と公明党合わせて過半数を占めるのは確実だと予想されていた7月4日の東京都議会議員選挙。
 蓋を開ければ、小池百合子都知事を支持する都民ファーストが(意外な)踏ん張りを見せ、第二党にとどまることで自公過半数を阻止する大きな原動力となりました。

 思えば、4年前の都議選において、小池百合子東京都知事が創設した地域政党「都民ファーストの会」が大躍進し、都議会第一党となったことは記憶に新しいところです。
 しかし、その後大きく動いた政治情勢に翻弄された都民ファーストは勢いを失い、今回の選挙戦における命運は小池氏の支援に委ねられていたといっても過言でありません。

 そうした中での小池知事の入院騒動は、国政進出に関して自民党との間で(何らかの)密約があるのでは…といった様々な憶測から、国の政局も含めて大いに注目されたところです。

 実際に、その理由が「過労」であったのか政治的な理由であったのかは別にして、今回の小池氏の入院は(結果的に)選挙の流れを変えるのに十分なインパクトを放ったと言えるでしょう。
 支援者からは、「小池さん頑張って」「ゆっくり休んで」の声が飛び、「身から出た錆」と発言した麻生財務大臣に各界から批判の声が飛ぶなど、メディアには小池氏に同情的なコメントが相次ぎました。

 一方、この小池知事の「入院」(という戦略)が、都民ファーストの候補者を震え上がらせるのに十分な衝撃を与えたであろうことは想像に難くありません。
 おそらくは、「自分たちは見捨てられたのではないか」と心細さを募らせ、「もはやこれまで」と腹をくくった人も多かったのではなかと思います。

 しかし、そこで終わらせないのが、小池百合子という政治家が「政局の鬼」「言葉の魔術師」と呼ばれる所以です。
 投開票の週末を控えた金曜日に満を持して退院した小池氏は、都庁で電撃的な臨時記者会見を開きます。並んだテレビカメラの前で「都民ファーストの会にエールを送っている」と述べ、彼女はマスコミの前にジャンヌダルクのように蘇りました。

 そして、大向こうからの「待ってました!」の声がかかった瞬間を捉えるかのように、(それまでとは打って変わったはっきりとした声で)「どこかでバタッと倒れているかもしれない。それも本望だと思ってやり抜いていきたい」と見えを切りました。

 後の報道によれば、前日の時点では小池知事は退院当日は登庁の予定がなく、定例会見も行わない方向だったとされています。ところが、午後1時になって、周辺から突然「開催する」との報があり、それも時間は午後4時スタートという、夕方のニュース番組で中継するのにドンピシャのタイミングに設定されたということです。

 永田町関係者からは、「復帰会見として注目されることを織り込んでのことだろう」とか「計算ずく」といった声も上がっているようですが、いずれにしても、その後、ネットニュースでは「倒れても本望」がトレンドワード1位となり、「小池氏、退院」の見出しとともに大手各紙に大きく取り上げられたのは記憶に新しいところです。

 さて、最初からそうした意図があったかどうかは別にして、小池氏は(結果的に)この入院騒動によって自民・公明の顔をそれなりに立てるとともに、徳俵に足がかかっていた都民ファーストの救世主となることにも成功しました。

 選挙戦最終盤で一気の攻勢に出て「自公過半数」を阻止するとともに、しょぼくれていた自民党都議団対し「自民第一党」という貸しは作りました。
 もしも今後、自民の支援を得て国政に復帰するにせよ、オリンピック後ももうしばらく都政に専念するにせよ、与野党伯仲の都議会は(知事として)何かと御しやすいという計算もあるでしょう。

 実際、早くも自民党サイドからは、不調に終わった東京都議選を踏まえ、次期衆院選後に小池百合子都知事との連携強化を検討すべきではないかとの観測気球が上がっているようです。
 自民党の中谷元・元防衛相は7月7日の谷垣グループ会合で、「政局の安定のため、衆院選後に『小池新党』との保守合同を真剣に検討すべきではないか」と語ったと伝えられています。

 梅雨空の下、42.39%と過去2番目の低い投票率で終えた東京都議会議員選挙ですが、選挙結果自体は与野党痛み分けとなる中で、結局のところ小池百合子知事こそが勝者であることはほぼ間違いありません。
 「小池劇場」と呼ばれて久しい、首都東京を中心としたここ数年の政局ですが、その主役は今回もやはり小池百合子氏であったということでしょう。




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