MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#1949 若者のワクチン忌避に大人たちはどう向き合うべきか

2021年08月28日 | 社会・経済


 国内の新型コロナウイルスワクチンの総接種回数は1億2千万回(8月26日現在)を超えており、既に国民の過半(54.0%)が少なくとも1回のワクチン接種を終えているということです。菅義偉首相は8月いっぱいで国民の4割超が2回目の接種を終えることを目標に掲げていますが、接種が進む各国の状況を見ても、ここから先が正念場であることはおそらく間違いないでしょう。

 流行収束のカギを握る集団免疫の獲得には、全体の7割超の接種が必要とされており、その達成にいまだいくつかのハードルがあるようです。特に、感染しても重症化リスクが低い一方で、接種の副反応が出やすいとされる若年層にとっては、接種のメリットがなかなか見つからないのが現実のようです。

 こうした状況を踏まえ、東京都では新たな補正予算案に「ワクチン接種促進キャンペーン事業」を盛り込んでいると聞きました。事業の柱は若者へのポイント・割引で、20~30代を対象に、接種記録をアプリに登録すれば、買い物の際に利用できるポイントが付与されたり、割り引き特典が得られるようにするということです。

 このような動きは、東京都だけではありません、愛知県は8月26日、接種を終えた20~30代を対象に、抽選で2万人に1万円分の食事券を配布すると発表しています。また、群馬県では、ワクチン接種を2回受けた20~30代の若者の中から抽選で、351名にスバルの自動車(RV)や5万円の旅行券などが当たるキャンペーンを実施するということです。

 全国の多くの都道府県が、(例えば東京なら渋谷駅付近などの若者が多い場所に)予約なしで接種を受けられる若者専用の会場を設けたり、人気タレントを使ってYou tubeに若者向けの動画を流したりと動機づけに苦労しているようですが、果たして街行く若い世代の心に響くインセンティブとなり得るのか。

 8月18日の日本経済新聞のコラム「大機小機」は、新型コロナ対策のゲームチェンジャーと目されているワクチン接種(の拡大)に関し、「若者の接種に動機づけを」と題する一文を掲載しています。

 新型コロナウイルスの抑え込みと経済の活性化を両立させる、最有力の手段として期待されているワクチン接種。現在は接種を受けたい人が行列待ちをしているが、近い将来、需要は頭打ちになるだろうとこのコラムの筆者は見ています。

 ワクチン接種は典型的な外部経済(取引の当事者以外にプラスの影響がある)行動なので、個々人の利害判断に委ねていると、接種者は社会的に望ましい数を下回る可能性が高い。特に、若年層は重症化リスクが小さく、メリットの割には副作用のコストが大きいと考えがちで、そのギャップは若い年齢層ほど大きいというのが筆者の認識です。

 実際、連合総研の「勤労者短観」(21年5月)や国立精神・神経医療研究センターの調査(同6月)を見ても、若い年齢層ほどワクチン接種忌避者の割合が高いと筆者は言います。これから先は、こうした層へのワクチン接種率を引き上げていくことが大きな課題となる。ついては(以下のような)三段階で進めてはどうかというのが、このコラムで筆者の提案するところです。

 さて、その内容はと言えば…。
 第1段階は、「正しい情報の提供」だと筆者は話しています。ワクチン接種は社会全体にプラスという認識をもっと広める必要がある。調査では、所得水準や学歴が高い人ほど接種に積極的という結果が出ており、忌避しがちな層(←つまり「所得水準や学歴が低い層」ということでしょうか)に的を絞った働きかけも有効な手段になるということです。

 さらに、その際、若年層の人々自身が、こうした社会的認識を高める活動に積極的に関与してほしいと筆者は求めています。若年層には環境問題など社会の持続可能性に関心を持つ人も多い。新型コロナ感染症への対応では、まさに社会の持続可能性が問われているということです。

 続く第2段階は、「接種者に公的なインセンティブを付与すること」だと、筆者は説明しています。経済学者からは、Go Toキャンペーンの対象者をワクチン接種者に限定するという提案が行われているが、既に予算措置は講じられているのだから新たな財政負担も生じない。これは(案外)名案ではないかということです。

 そして、第3段階は、「民間における接種者へのインセンティブ、または忌避者へのディスインセンティブを生かすこと」だというのが筆者の見解です。医療・介護関係や接客を伴う業界において、今後、従業員や顧客にワクチン接種を条件付ける動きが出ることは避けられない。これが不当な差別に当たるかの判断を当事者に任せていると、不確実性が大きくなり、事業者を委縮させると筆者はしています。

 接種することによって「現実生活上の利益(不利益)」が生じれば、それは接種への大きなインセンティブとなる。であればこそ、民間企業などがどんな場合(条件)であればワクチン接種を義務付けることができるか等についてのガイドラインを、行政サイドが今のうちに準備しておくべきだというのが、筆者の指摘するところです。

 さて、昭和育ちの私などがこうした話を聞いていて(ついつい)思ってしまうのは、昨今の社会は若者世代のワクチンへの忌避感に「寛大すぎやしないか」ということです。もちろん、「様々な理由により打てない人」や「どうしても打ちたくない人」人にまで義務付けるのは問題だと思いますが、(実のところ)学校で並んで予防注射を打ってきた(そしてその効果をよく知る)世代の国民の多くが、こうした違和感を感じているのではないかと言ったら言い過ぎでしょうか。

 その上で…の話として申し上げれば、例えば文部科学省は「差別やいじめにつながる可能性がある」として学校での集団接種は行わない方針を示していますが、未成年者に対する接種拡大は、まずはそこのところをしっかり検討する必要があるような気がします。確かに、非接種者へのいじめなどを心配する保護者もいるかもしれませんが、(ワクチン接種をきっかけとして)子供たちにいじめの問題や多様性などの理解を促すのが、まさに学校や教員の仕事であり役割なのではないかとも感じるところです。

 国民一人一人に社会との関係を問いかけるこうした問題に対し、「アメをあげるからワクチン打ってね。」というような、子供だましの対応で本当に良いのか。ワクチン接種の問題は、特に教育の現場において、若い世代に「社会の一員としての責任」の問題を改めて考える良い機会になるでしょう。

 (自由に行動する)権利の主張には、当然、社会人としての責任も伴う。こうした民主主義の基本をしっかり認識してもらうためにも、「めんどくさい」「なんか怖そう」「(だから)打たなくてもいいんじゃね」と感じている若い世代と、大人たちは(逃げずに)しっかり議論をしてほしいと感じるところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿