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都立代々木高校<三部制>物語

都立代々木高校三部制4年間の記録

【3Ⅱ-01】 仕事場を訪ねて

2014年04月21日 19時08分18秒 | 第3部 ゆるやかな日常
<第2章> 若者たちの職場

代々木上原駅の高架線と異なり新宿寄りの代々木八幡駅は、ゆるやかなカーブを描いて周りの風情と絡みあって昔と変わらぬたたずまいをみせています。
在学していた頃、下級生の女生徒が「サ店にいるんだ…」というので代々木八幡駅前の喫茶店に尋ねていったことがあります。近くに図書館があったこともあり、代々木八幡駅から電車で帰る途次に寄った、ということでしょうか。

「来たんだぁ…」ウェイトレスの彼女がコップの水を差しだします。意外とぶっきらぼうな言い方なので、こちらも「ああ…」とそっけなく答えます。「何にすんの?」「コーヒ」と一言。
でも時折、彼女はニンマリ笑います。そんな彼女を本を読む手を休めて、そっと見つめ内心「ふふ」と苦笑い…ただそれだけです。

クラスの学友の仕事先へ時々顔を見せにいくことがありました。本人が勤め先を名乗ったときに限りますが、女生徒が「デパ地下の食肉屋にいるんだ」と言ったら、時に男子学友を誘って二人で「試食」と称するツマミ食いを兼ねて、デパ地下の彼女の様子を窺いに行ったことがあります。
学校では見せない接客の様子に、なんとなく声もかけず通り過ぎます。



都心のオフィス街の一角に設けられた高級パーラーに勤めている学友を訪ねていったことがあります。パーラー内の中央部に、厨房とは離れてカウンターで三方を囲った調理場が設けてあり、そこに学友がひとり腰に前掛けをして凛とした態度でレモンをスライスしていました。先の男子学友と二人で店の隅っこに腰かけていたら、気づいた彼がナポリタンを作ってくれました。
後日、パーラーに勤めている彼は「紅茶に入れるレモンは1個から30枚スライスするんだ」と言ってました。超極薄だな。そんな芸当できるなんて、彼は器用なんだ。
その後、喫茶店やレストランなどで紅茶を頼んで、カップに添えられたレモンの厚味をみるにつけ「30枚に切るというのはどの位の厚さなのかな」今もって疑問なのが、自分でもおかしいですね。

ある日、交替部の女生徒が「バスの車掌やってま~す」というので、日曜日に男子学友と彼女の勤める埼玉の蕨市へノコノコ出かけていきました。営業所に停められた数十台のバスの陰から私服姿でしたが、彼女がハニカミながら現れました。
いまでこそ路線バスは総てワンマンで運転されていますが、昭和40年代はまだ運転手と車掌が役割を分担していました。逆な見方をすれば今日、運転手は安全運転を心がけながら料金の受取りなど乗客の面倒を見るというのも大変な作業ですね。

それにつけても埼玉の蕨市から、代々木高校の置かれている代々木上原まで毎日通うって大変だよね。何度、電車を乗り換えてたのかなぁ。
彼女を訪ねていってから数日後、今度は私の職場を訪ねたい――といいます。見せるほどのものはないとは思ったのですが、彼女はひとり私の住む街を訪ねてきました。蕨市から遠路はるばる来ていただいたので駅前の喫茶店で<お茶>しました。彼女と二人きりで話したのは初めてでしたね。

職場と学校。代々木高校生は二つの顔をもちながら皆、精一杯生きているんだなぁ…なんて、たまには他の生徒の生活の場を見ることで「自分自身を確認」する作業でもありました。
コメント
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