★ベルの徒然なるままに★

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映画『ルーム』

2016年05月18日 | 映画鑑賞記
先週鑑賞しました、映画『ルーム』の感想を。

この作品、ある程度覚悟はしていましたが、本当に重い作品でした。
作品のあらすじというかテーマは、映画サイトなどで紹介されていたので、昨年末から知ってはいました。しかし、最近、日本でも監禁事件のニュースがあっただけに、余計にリアルに生々しく感じられてしまって。
鑑賞後は、心がズーンとなりました。

■映画『ルーム』予告編



17歳の時に、「病気の犬を助けて欲しい」と声を掛けられ、信じて付いて行ったところをそのまま拉致され、以降7年もの間、狭い納屋で監禁され続けているジョイ。
彼女は、犯人との間に出来た男の子・ジャックを出産し、その子ももう5歳。

納屋で生まれ、母親のジョイと共に監禁され続けているジャックは、外の世界を一切見たことがありません。
もちろん、自分が監禁されているという真実も知りません。
狭い狭い部屋・・・ベッドもタンスもキッチンもお風呂も洗面台もトイレも全てが同じ空間にある、その「部屋」だけが、彼の世界の全てでした。

いつもは母親とベッタリ一緒に過ごし、そして、時々オールド・ニックという男がやって来ては、母子に必要な食糧や生活用品を置いていく。けれども、オールド・ニックが来る夜だけは、ジャックは母親と一緒のベッドではなく、洋服ダンスの中で寝なければいけない・・・。

そんな生活に疑問を抱かず過ごした来たジャックですが、ある時、母親のジョイからショッキングな真実を告げられるのでした。

自分達は、オールド・ニックによって、この狭い部屋に閉じ込められている。
実は、部屋の外には広い広い世界が存在している。
この部屋から逃げ出して、その広い世界へと帰るのだ。
ママを助けて。

・・・と。

衝撃的な真実を俄かには受け行けられなかったジャックですが、幼いながらも理解し、そして、ジョイの計画通りに死体のフリをして部屋から脱出。

ほどなく、母子は救助されるのですが、5歳にして初めて「部屋」以外の世界を知ったジャックは戸惑い、そして、7年ぶりに戻って来た世界はジョイにもまた苦しいものでした。

監禁生活から解放された後、苦しみ戸惑いながらも、人生を再生させて行く母子、そして家族の物語です。


映画前半は、見ていて息苦しくなるほどの母子の監禁生活が描かれています。
納屋を改造したような狭い部屋。
ひとつの空間に、ベッドもキッチンも洗面所もトイレもあるような部屋。
当然、窓はなく、唯一の窓は、高い天井にある小さな天窓のみ。

そこから見える、四角く小さい空。
窓ガラスに張り付いた枯れた1枚の葉っぱ。

決して衛生的とも思えない部屋は、いつも薄暗くて。
食べ物や生活用品だって、自由に手に入る訳では無い・・・むしろ、足りない物だらけで、栄養状態も不安で、生活も不便。
息が詰まりました。

けれども、生まれた時からその部屋しか知らない5歳のジャックは、もちろん、そこを息苦しいとは思っていません。

ただただ無邪気にそこで暮らす姿は、とても愛らしくて。
きっと、ジョイにとっても、地獄の中での唯一の救い。ジャックが居たからこそ、あんな過酷な環境でも、正気を保てたのだろうし、また、脱出しようという意欲や勇気も持てたのだと思います。

定期的にやって来ては、母子に生活物資を置いていく犯人ですが、実は、半年前に職を失ったらしく、母子への食糧なども色々ケチり始めるのですよね。

ジョイが、脱出しようと決意したのは、ジャックも5歳になり、いろいろな事が理解出来るようになったから・・・というのもあるのでしょうが、やはり、犯人が無職になり、このままでは生活物資などを持ってこなくなり、いつかは殺されてしまうのではないか?と思ったそのタイミングが重なったからなのではないかなぁと思いました。
自分のため、というより、ジャックのため。
ジャックを助けたかった、その一心だったのではないでしょうか。

そして、犯人は、もう・・・言葉は汚いですが、ただただ胸糞悪かったです。
怒りしか湧いてきません。
こんなヤツは、もう一生、牢から出さないで欲しい・・・それだけです。
それに、こんな犯罪、絶対にあってはならない!そう激しく思いました。


こうして、決死の脱出劇が繰り広げられるのですが。
外の世界を一切知らない、たった5歳のジャックが、死体のフリをし犯人のトラックに乗せられ。
そこから脱出して、助けを求めるまでが実にスリリングで。
とても怖かったです。

事前にあらすじを知っている訳ですから。
ちゃんと脱出できるのも分かっています。

それでも。

また犯人に捕まったらどうしよう・・・と、本当に不安になりました。

けれども、不安と恐怖を味わいながらも、その映像がとても印象的で。
目を奪われました。

ジャックが知っていた空は、いつも、部屋の天窓から見える小さく切り取られた四角い空。
けれども、トラックの荷台に乗せられ、初めて彼が見た外の世界の空は、どこまでもどこまでも続く広大なもの。
窓ガラスに張り付いていた枯れた1枚の葉っぱではなく、たくさんの木々が生い茂る自然。

トラックの荷台でジャックが初めて見た、この空と木は、凄く印象的で。
それまでが、狭く息苦しい部屋の中だっただけに、ぱあっと世界が開けた感じで。
映画のスクリーン自体まで広がったような錯覚を覚えました。

脱出方法などに関しては少しご都合主義的なところも感じられましたが、この作品は、監禁からの脱出がテーマではなく、脱出後の人生の再生、家族の再生がテーマなので、それはそれで特に気になりませんでした。

それにしても。

前半と後半で、映像的にもいろいろな対比がされていたように感じました。

空や木などもそうですが。

母子が監禁されていた部屋が、決して、綺麗とはいえない空間だっただけに、彼らが保護された病院の病室の広さや清潔感がすごく際立って感じられました。

また、ジョイの実家も。
とても広くて綺麗でしたよね。


また、母親であるジョイと、息子のジャック。

この二人もとても対照的でした。

初めて知る外の世界。
「部屋」以外の世界。
初めて知る、母やオールド・ニック以外の人間。

それらに最初は戸惑い、どう接していいのか分からなかったジャックですが、比較的早くに順応していき。

スマホで遊んだりもするようになっていくのですよね。

一方、あれだけ戻りたかった場所に帰って来たジョイはというと。

戻って来て初めて、自分が居なかった7年という年月の重さを痛感することになります。

おそらく、その事件が理由となって離婚した両親。
再婚していた母親。

普通に両親の元に戻れる、戻ったら、また元通りの生活が送れると信じていたジョイにとって、両親の離婚はショックだったのではないでしょうか。

また、そのままの状態で綺麗に残されていた自分の部屋で、高校時代の写真を見ながら、改めて自分の失った7年を感じるのです。

高校時代に友人達と一緒に写った写真を見て、

「彼女達の人生には、何も起こらなかった」

という一言を言うのですが・・・。
この言葉、とても重かったです。そして、失われた7年の大きさがのしかかってくるようでした。

・・・そうですよね。
ジョイだって、何も起こらなければ、普通に学生生活を送り続けて、普通に生活し、普通の人生が続いてたでしょうし。
両親だって離婚しなかったかもしれない。

改めて、他人の人生を、こんな形で奪う犯人の卑劣さに憤りを覚えずにはいられませんでした。

更に、ジョイには、失われた7年の重み以外にも、苦悩が襲い掛かります。

容赦ないマスコミの取材。
世間からの好奇の目。

心無いマスコミのインタビュー。

「命懸けで逃げようとは思わなかったのですか?」
「息子さんには、将来、父親についてどう話すのですか?」
「子供だけでも、犯人に頼んで、外の世界に出そうとかは思わなかったのですか? 例えば、病院の前に置いて来て貰うとか。そうしたら、子供は施設で普通の子供時代が送れたのに」

などなど・・・。

せっかく戻って来た世界もまた、ジョイにとっては苦しいものでしかなく・・・段々と心を病んでいくのですよね。

拒んでいた新しい世界に順応していくジャックと、待ち望んでいた外の世界で苦悩していくジョイ。

この二人の姿も対照的で印象的でした。

でも、本当に痛感したのは・・・。

何の落ち度もなかったジョイ。
病気の犬を助けて欲しいと言われ、それを信じた心優しい少女が、こんな酷い目に遭うなんて・・・理不尽過ぎて。

そして、ジョイのお母さんがジョイに言った言葉。

「人生を奪われたのが自分だけだなんて思わないで!」

・・・も、重かった。

そうですよね。
彼女一人だけではなく、その家族もまた人生を奪われたのですよね。犯人によって。

本当に、怒りと哀しみしかなかったです。

そんな中、唯一、純真に育った可愛いジャックの存在が救いだったように感じました。

この作品、全ての役者さんの演技が素晴らしかったですが、一番素晴らしかったのは、ジャック役のジェイコブ・トレンブレイ君だと思います。


理不尽な犯罪によって傷つけられた家族たち。

少しずつゆっくりと、失われた人生を取り戻していこうとするジョイ。
そんなジョイに寄りそうジャック。

ジャックが、「『部屋』を見に行きたい」というラストシーン。
自分達が閉じ込められていた部屋を見て、

「この部屋、縮んじゃったの?」

って問いかけるのですよね。

新しい世界を知り、受け入れたジャックは、もう、この部屋と完全に決別し。
そして、ジョイもまた、そんなジャックを見て、自分の過去と決別出来ていれば良いなぁと願わずにはいられませんでした。

もちろん、全ての問題の解決が描かれている訳ではありません。

ジャックの存在をどうしても受け入れられなかったジョイの父親の問題は、解決まで描かれていませんでしたよね。

失われたものはあまりに大きすぎて。
そして現実も厳しい。
きっと、これからも色々な問題が立ちはだかるのかもしれません。
ジャックが成長後、自分の出生の意味を知るときも来るでしょう。

それでも、母子や、その家族に訪れた新たな世界、穏やかな日常に希望の持てるラストでした。


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