(1984年公開、東宝、舛田利雄監督)
『連合艦隊』は隠れた名画であると思うので、
同シリーズとして製作された『零戦燃ゆ』を観た。
特撮は見事でしたが、映画の内容は、
『連合艦隊』の足下にも及んでいないと思います。
<あらすじ>
昭和16年12月、開戦とともに高雄基地から飛び立つ
零戦の大編隊。その中には、若きパイロット浜田がいた。
驚異的な航続距離で太平洋の王者となった零戦は、
一方で徹底的な軽量化のため、防弾装備は極めて脆弱であった。
…昭和14年、厳しい訓練から脱走しようとした浜田と水島は、
下川大尉に完成したばかりの零戦を見せられ、
気持ちを新たに軍へ戻った。
そして2年後、浜田はパイロット、水島は整備員として
ついに零戦を手にするのだった。
昭和17年、山本五十六の護衛に失敗した、浜田達は
海軍の「出処進退」の伝統から、過酷な出撃命令を受ける。
浜田は、死に場所を求めるかのように、
重傷を負ってもなお、零戦での出撃に執着する。
見かねた水島は、彼が愛する静子を、浜田と結婚させようとするが…
<感想>
最初の出撃のBGMが明るすぎて、こりゃダメだな
と思ったら、そのまま最後までダメだった。
内容が極端に悪い訳ではないが、
『連合艦隊』に比して、歴史ドラマとしては内容不足だし、
印象的な場面が全くなく、メッセージ性も弱い。
また、水島・静子・浜田の揺れ動く感情も
描写不足で物足りないのだ。
『連合艦隊』では、本郷英一の妻:陽子は
新婚旅行先で置き去りにされる。
そのまま英一は戦死するが、弟の真二が持ち帰った遺書により
陽子は"美しいまま"真二に託されたことが、明らかになる。
真二はただちに陽子に求婚し返事を待つが、その間に
戦艦大和乗船の命令が下ったため、結局、忘れてほしいと告げる。
そこで陽子は初めて感情を露にし、真二に抱きつく……
置き去りにされてから、ここまで陽子は台詞を発しない。
だからこそ、真二にすがりつく陽子の痛々しいまでの感情が
強調されているのだ。陽子役の古手川祐子が実に「美しい」
『零戦燃ゆ』では、水島と静子は惹かれ合いながらも、
水島は静子に浜田との結婚を勧める。
しかし、浜田は水島がウソを付いていることを見抜いていた。
また、静子は浜田に手製の枕を送り、
彼の役に立ちたいと(=妻になるため)九州へ向かおうとしていた。
その矢先、静子は米軍の空襲で殺される。
まず、ここまでの静子の心の動きが分かる場面が無い。
その後、浜田は、米軍の大編隊に単身突入し戦死する。
浜田の母は、「好きな女性から贈られた枕」を、墜落現場に手向けるのだった。
ここではじめて、浜田もまた静子を愛していたことが分かる。
静子が手料理を浜田に食べさせる場面があるのだが、
この時点では、互いに水島に対する遠慮やとまどいだけで、
静子が浜田の妻になろうと決心するには弱すぎる。
この三人を演じた役者が若いということを引いても、
(浜田=堤大二郎、水島=橋爪淳、静子=早見優)
場面が無いのでは、演技がどうのというレベルではない。
また、早見優は「可愛い」が、それは物語において
青年達が命をかけて愛するにふさわしい「美しさ」ではなかった。
"零戦のドラマ"にするなら、歴史的・軍事的な面を重視すべきだったし、
"零戦に関わる人々の人間ドラマ"なら、ドラマパートを優先すべきだった。
中途半端に終わった青春ストーリーに加え、
無理に山本五十六をストーリーに絡める等
どっちもやろうとして失敗した印象である。
BGMも、不自然に明るいものが耳に残り、あまり良くない。
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