わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

国家愛より人類愛=広岩近広

2008-12-31 | Weblog

 冷え冷えと暮れゆく……。そんな印象の年の瀬だが、振り返れば暗いニュースばかりの1年ではなかった。

 たとえば北京五輪で金メダルに輝いたソフトボール女子代表チームの活躍は記憶に熱く残っている。毎日スポーツ人賞のグランプリにふさわしいだろう。

 ノーベル賞を4人の日本人が受賞したのも明るい話題だった。それも戦前、戦後を生きてきた科学者たちだ。悲惨な戦争体験をされた2人が、記念講演や記者会見で平和への強い思いを述べた。私は、その場に居合わせたわけではなく、本紙の記事を読んだにすぎないが、それでも胸にこみあげてくるものがあった。

 京都産業大教授の益川敏英さん(68)は名古屋空襲の体験に言及し、「こんな思いは二度と味わいたくない。子どもに体験させたくない」と涙ぐんだという。元米ウッズホール海洋生物学研究所上席研究員の下村脩さん(80)は疎開先の長崎が原爆で被災した写真をスクリーンに映し出して、命の尊さと平和の大切さを強調された。この後、「役目を終えた感じだ」との一言を残して会場を後にしたと知り、私はそこに科学者の良心をみた。

 科学者の良心ということでは、日本で最初にノーベル賞を受賞した湯川秀樹博士を忘れてはなるまい。核兵器を「絶対悪」と決めつけ、核のない世界平和を訴え続けた。この断固たる姿勢は終生変わらなかった。

 湯川博士らの平和観は、国家を超えた人類愛に基づいている。自分の国だけを愛して何になる、世界の人類を愛せよ、人類という仲間を不幸にするな--そういうことなのだと、私は平和の原点をかみしめている。(編集局)





毎日新聞 2008年12月28日 東京朝刊

コメントを投稿