わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

政治空転の先例・台湾=近藤伸二

2008-04-05 | Weblog

 野党は数をかさに着て、何でも反対に徹する。与党はうまくいかないと、すべて野党に責任を押し付ける。重要なことは何も決められず、政治の空転が続く--。

 こう書くと、また今の日本のねじれ国会のことか、と思われるかもしれない。実はこれは、台湾のこの8年間の政治状況なのである。

 台湾では96年から総統が直接選挙で選ばれるシステムに変わり、立法院(国会)とともに「二つの民意」が併存するようになった。

 00年の総統選で民進党の陳水扁氏が当選し、初の政権交代が実現したが、立法院は国民党など野党が押さえていた。以来、3回立法院選が行われたが、民進党は多数を占めることはできなかった。

 少数与党の壁は厚く、米国からの武器購入という安全保障にかかわる問題でさえ、3年も議論に入れず、宙に浮く有り様だった。

 特派員をして以来、台湾の政治をウオッチしてきた私にとっては、日銀総裁やガソリン税の暫定税率などをめぐって混乱する今の日本の国会は、既視感のある光景だ。

 だが、1月の立法院選と先月の総統選では国民党が圧勝し、住民は政治の安定を選んだ。民主主義には手間とコストがかかるが、民意を反映する制度としては、やはりこれを超えるものはない。

 90年代にようやく民主的な選挙が始まった台湾では、住民は選挙に熱い思いを抱いてきた。それが、最近は投票率の低下が続く。政争にかまける与野党に嫌気がさす人が増えたからだ。日本でも今以上に政治離れが進むとすれば、政治家の責任は大きい。(論説室)




毎日新聞 2008年4月5日 大阪朝刊


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