わが輩も猫である

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北極の氷

2008-04-05 | Weblog

 ヨーロッパ人が富を求めて世界の海に乗り出した15世紀の大航海時代、北極地方には氷のない大海があるという見方が広がった。北極点の付近の海は、夏は太陽が沈まないからむしろ温暖に違いないとも思われた。

 こうして英国やオランダなどは、黄金の国と信じられた日本や中国への最短航路を求めて北極探査に取り組んだ。ある英国人はグリーンランドの先住民を中国人と間違えて連れ帰り、東アジア到達の証拠とした(「世界大百科事典」平凡社)。この時代の先住民は本当に災難である。

 その後北極が氷に閉ざされていることは分かっても、実際に北極点に欧米人が達したのは20世紀になってからだった。あす4月6日は99年前に米国人ピアリーが北極点に初めて立った日とされる。「される」というのは今日ではその到達記録にいろいろ疑念が呈されているからだ。

 だが、氷上に北極点到達の栄光を競った前世紀の人たちも、21世紀になって大航海時代の思い違いがまさか現実になろうとは予想できなかったろう。ことによると今年の夏は北極点周辺の氷が消滅するかもしれないという予測のことである。

 昨年9月には30年前に比べ40%も縮小した北極の氷だ。この冬は本来なら厚い「多年氷」で覆われる北極点周辺は薄い「1年氷」しか見られないという。海洋研究開発機構はもし今年も昨夏並みの暑さなら北極点付近の氷が他の海域に先がけて消滅する恐れが強いと分析してきた。

 今まで太陽光を反射していた氷が、熱を吸収する海に変われば温暖化は加速する。数ある予測の中でも極点の氷消滅はやはりショックだ。「北極の大海」の向こうにもはや黄金の夢はない。



毎日新聞 2008年4月5日 0時01分


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