わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

移民の祖国は=渡辺悟

2008-05-02 | Weblog

 NHKのど自慢が初めて海外で公演したのは10年前。ブラジルへの移民90年を記念してサンパウロで開かれた。

 出場する日系2世、3世たちをテレビで見て驚いた。古き良き日本と底抜けの明るさが見事に同居していた。

 ブラジルは2050年には世界5位の経済大国になる。米国の証券会社がこう予測したのは5年前だが、今月初め英米の監査法人が「4位」と予測を上方修正した。世界最大級の油田発見の報道もあって評価は高まる一方だ。

 50年頃(ごろ)、日本は本格的な移民国家に移行するらしい。時期は別として、確かなのは、この選択を避けて通れるほど人口減と高齢化は生易しいものではないということだ。

 20年前4000人だった在日ブラジル人は現在30万人。ほとんどが日系だが、非行に走り、少年院で初めて日本語教育を受けるケースも少なくない。異文化、異言語の中で孤立する姿は10年前に見たのど自慢とあまりに対照的だ。

 急増に対応が追い付かないなどさまざまな事情があるにせよ、彼らに挑戦の機会を惜しみなく与える祖国でありたい。それは、日本の若者にとっても希望を抱ける開放的な社会ということだ。

 初めてのブラジル移民781人を乗せた笠戸丸が神戸を出港したのは100年前の1908(明治41)年4月28日夕刻。日露戦争の折、旅順港で捕獲されたこのロシア船は最後は漁業用工船になり、太平洋戦争終結6日前、ソ連の攻撃で北の海に沈んだ。

 前述の予測によると日本のGNPは50年頃ブラジルに抜かれるらしい。国も人も船も歴史の大波に洗われる。(編集局)




毎日新聞 2008年4月27日 大阪朝刊


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