わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

どっと繰り出す連休=大島透

2008-05-02 | Weblog

 大型連休が始まった。休日の並びが悪く、今年の旅行者は昨年より減りそうだという。だからといって連休がうれしくないわけがない。

 大型連休は、盆や正月と並ぶ日本人の3大休暇だが「戦後」の産物でもある。1948年に祝日に制定された「昭和天皇の誕生日」「憲法記念日」「こどもの日」の三つに週末休日が微妙にからむ。盆や正月とは違う大型連休の特徴を、研究者の田村武さんが鋭く分析している(昭和堂刊「戦後日本の大衆文化」)。

 古い時代の風習を残す盆や正月を支えたのは女性だった。特に正月の場合、大掃除やおせち料理の準備などで女性に負担がかかった。一方、連休中の行楽は、核家族の父親が負担を背負う、年に一度の儀式という。子供にせがまれれば、仕事で疲れた体にむち打ち、混雑の中へどっと繰り出さざるを得ない。観光地や遊園地は、こうした血まなこで遊ぶ人々であふれる。

 子供を喜ばせ、疲れ果てたパパを待つのは連休明けの灰色の朝である。それでも懸命に尽くす理由は、彼がマイホームの維持を一番に望んでいるからだ。連休は、父親が日ごろ疎遠になりがちな家族に罪滅ぼしをして、きずなを確認する期間だという。

 ところが家族での大移動も昔の話になりつつある。90年代以降、個人による連休中の海外旅行が急激に増えた。今や1人世帯は30%、夫婦2人世帯は20%に達する。父親が家族サービスの努力でつなぎとめてきた核家族自体が解体中なのだ。連休中の列島の大騒ぎも年々静かになっていくだろう。しかし、それもちょっと寂しいような……。(報道部)




毎日新聞 2008年4月27日 東京朝刊


コメントを投稿