健康上の理由で2月に最高指導者を引退したキューバのフィデル・カストロ氏。体力は衰えても頭はしっかりしているようだ。引退後も共産党機関紙に国際情勢をめぐる論文を次々に執筆している。
今月初めには「中国の勝利」と題した論文を2回に分けて公表した。チベットでの反政府活動弾圧に中国への批判が高まった。数少なくなった共産主義の友邦の危機に応援団を買って出たわけだ。
論文は1950年代に米中央情報局(CIA)がチベット問題に関与した歴史や台湾問題などに触れながら「(西側諸国の)反中感情の根源にあるのは人種差別だ」などと欧米の対応を批判している。
CIAに命を狙われたこともあるカストロ氏だけに、背景に西側の「陰謀」があるとの認識がうかがえるが、明言はしていない。ところが、中国にはカストロ氏の心の奥がよく見えたようだ。
人民日報系サイト「環球網」は論文を「西側は(台湾総統選で中台融和を主張する)馬英九氏の勝利で台湾を対中圧力に利用できなくなったので、チベットに矛先を向けた」と相当に意訳して報じている。
なるほどなと思う。カストロ氏以上に中国側にこうした陰謀論を支持したい気持ちがあるのだろう。89年の天安門事件後も西側が平和的転覆を狙っているという「和平演変論」が盛んに流された。
陰謀論には外国に責任を転嫁できるという利点がある。北京五輪を前に多数の死傷者が出たことだけで重大な政治問題だが、「ダライ・ラマ勢力の陰謀」「西側の陰謀」と唱えていれば、誰も責任を取らずに済むのだ。(北米総局)
毎日新聞 2008年4月28日 東京朝刊
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