01年4月の自民党総裁選。3度目の挑戦となった小泉純一郎氏の陣営が建設業界の関係者に電話で支持を求めたところ、こんな答えが返ってきたという。
「小泉さんが首相になれば公共事業は減らされるに決まっている。でも、世の中、パーッと変わった方が景気はよくなるような気がしてきた」
当時、業界団体の大半は橋本派の牙城。しかし、小泉氏はこうした支持を受けて党員投票で圧勝し、党総裁、そして首相に就任した。
小泉内閣発足後も下げ基調が続いた日経平均株価は、03年4月、バブル後最安値の7607円をつけるが、その後、上昇に転じる。金融機関の不良債権処理を最優先したことが市場に好感されたのだろうし、逆にその市場優先主義の姿勢が格差問題などを招いたのも事実だ。
ただ、私には先の建設業界関係者の話のように、多くの人が「何か変わるかも」と将来に期待を持ったことが、小泉時代、景気が持ち直した隠れた要因だったように思える。
麻生太郎首相は新たな経済対策を考えているという。でも、例えば定額減税は確かにありがたいけれど、それで世の中の金回りがよくなるだろうか。貯金に回す人も多いのではなかろうか。そう、将来が不安だからだ。年金や医療など安心で希望の持てる未来を示す方が有効な景気対策だと私は思うのだ。
国民の間にも「この経済情勢下、衆院選をしている場合か」との声がある。民主党は国会対策であれこれ策を講じて早期解散を促すより、「政権交代し、政治を変えることが最大の景気対策」と、もっと地道に訴えるべきではないのか。(論説室)
毎日新聞 2008年10月16日 東京朝刊
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