わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

株を上げる男=福本容子

2008-10-23 | Weblog

 少し前、この欄で弱り切った2人の首相の話を書こうとした。福田さんとイギリスのゴードン・ブラウン首相の状況がとても似た感じだったからだ。

 どちらも昨年就任したばかりなのに支持率低下が著しく、「年末まで持たない」が通説となって、ついに与党内からも“辞めろコール”が出始めていた。前任者のハデさと明るさ(福田さんの場合は前々任者)に対し、地味で暗いのもそっくりだ。

 書かなくてよかった。その後、ブラウンさんの株だけ急騰したのである。

 金融危機への対応で、他国に先駆け大手銀行への資本注入を決断したかと思えば、フランスのサルコジ大統領を説得し、ヨーロッパ全域で同様の銀行支援が決まった。そして「ブラウン式」は、国による金融機関への一斉出資を渋り続けてきたアメリカでも採用されることに。週明けの世界同時株高はブラウン首相がきっかけだったのだ。

 賭けが吉と出るにつれ、みるみる自信がついた。イギリスをヒトラーから救った戦時の宰相、チャーチルと自らを重ね、「新しい国際金融秩序を作る時だ」と歴史的会議を呼びかけた。今年のノーベル経済学賞に選ばれた、あのポール・クルーグマン・米プリンストン大教授からも、金融恐慌から世界を救った救世主になるかもしれない、とかほめられ、箔(はく)まで付いた。

 もちろん、その後の株式相場のように、ブラウン株の急落もあるかもしれない。けれど、人気が全然なくても、「この難局に立ち向かえるのは、自分しかいない」と言い放ち突き進む、勇気と信念と決断力は大したものだ。こういうのを「堂々たる政治」と言うのかな。(経済部)




毎日新聞 2008年10月17日 東京朝刊

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