わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

賢者の贈り物=福島良典

2009-02-08 | Weblog




 欧州ではバレンタインデーに男性が女性に花束を贈る場合が多い。チョコレートと違って目立つので、「もらったかどうか」が一目瞭然(りょうぜん)だ。女神にほほ笑まれた女性たちは14日、戦利品を抱えて、街を闊歩(かっぽ)する。

 フランスの社会学者、マルセル・モース(1872~1950年)は「贈与」をキーワードに人間社会を読み解いた。贈り物が経済的な価値を超え、いわば「思い」の交換にあたり、その連鎖がきずなを生んでいる、と。

 バレンタインデーでなくてもいい。「今日はちょっと気分がいいから」と、大切な人に相手の好きな物を贈ってはどうだろうか。みんなと一緒に贈るよりも、ずっとすてきだ。

 大枚をはたく必要はない。大事なのは贈り物に託して発信する「思い」だ。暗いニュースであわだつ心や、「100年に1度」の経済危機も少しは和らぐかもしれない。

 ただ、グローバル化時代の現代、世界の市場には地域紛争や児童労働を助長する恐れのある商品も流通している。

 例えばチョコレートやダイヤモンド。チョコの原料カカオの農園ではかつて児童労働が多かった。高値で取引されるダイヤの原石は紛争地の武装勢力の武器購入資金になってきた。

 最近では業界が透明性の確保に努め、商取引を通じて貧困のない公正な社会を作る「フェアトレード」の運動が広まっている。チョコの本場、ベルギーでは児童労働によらないフェアトレード商品もスーパーに並ぶ。

 想像力の翼を広げて、原産地の様子を目に浮かべよう。吟味して選んだ贈り物はきっと、「より良い世界」を目指すメッセージも運んでくれるはずだ。(ブリュッセル支局)




毎日新聞 2009年2月2日 東京朝刊


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