鳥が翼を休める止まり木のように、人に安らぎを届けてほしい……。両親が願いを込めて名付けた快枝(よしえ)さん(52)。絶やさぬ笑顔のその奥に、長い間封印してきた悲しみがあった。
電話相談や遺族のケアを続ける東京自殺防止センターが、10月の連休に大阪でワークショップを開催した。「一人でも自殺を思いとどまってほしい」との思いを胸に、全国からやって来た37人の輪の中に彼女がいた。
掲げたテーマは「ビフレンディング(友達になる)」。1953年に英国で生まれ、現在37カ国で3万人を超えるボランティアが活動する自殺防止組織「国際ビフレンダーズ」がはぐくんできた心である。
「がんばれ」の言葉や、安易な価値観の押し付けは絶望の底にいる人々には届かない。「医者でもカウンセラーでもない私たちにできることは何だろう?」。参加者たちは電話相談のロールプレーを繰り返しながら、寄り添う心を模索した。その3日目の最終日に、快枝さんの目から突然、涙が噴き出した。
「親友が自殺して。私、何もできなかった」。ハンカチを握り締めた手を小さく震わせ、絶句する。いつしか、傍らから伸びた手が次々と重なり、まなざしを上げると、涙を浮かべて小さくうなずく仲間たちがいる。
セミナーを終え、「ありがとう」の言葉を残して滋賀の家に戻った快枝さんに電話をすると、こんな言葉が返ってきた。「あの時、手にぬくもりを感じたの。みんなで悲しみを分かち合ってくれたような気がして。私も、さりげなく手を重ねることができる人になりたいな」
自殺者は10年連続で3万人を超えている。(社会部)
毎日新聞 2008年10月19日 東京朝刊
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