わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

去る政権が残すもの=岸俊光

2008-10-06 | Weblog

 総選挙の足音を聞いて15年前を思い出した。93年夏、総選挙で自民党は敗れ、政権交代が実現した。下野した宮沢喜一内閣の仕事に「河野談話」がある。いわゆる従軍慰安婦問題で軍の関与を認め謝罪したのは、先ごろ政界引退を表明した河野洋平官房長官(当時)だった。

 最近縮刷版をみて、そうだったのかと思い返した。93年8月5日朝刊1面トップは<慰安婦の「強制連行」認める>。続いて<細川連立政権きょう誕生>の大見出し。歴史に残る談話は在任の最後に発表されたのだ。

 東大で行われた慰安婦問題のゼミに参加した折、談話作りにかかわった石原信雄・元官房副長官に話を聞いたことがある。石原さんは強制的に慰安婦にさせられたことを裏づける資料は見つからず、証言をもとに判断したと説明したうえでこう強調した。「彼女たちが作り話をしているとは思えない」と。

 就任後まもなく慰安婦問題の矢面に立たされた宮沢首相にとって、苦しい決断だったろう。批判は今も間欠泉のように噴き上がる。感心するのは、当時の関係者にブレがないことだ。

 昨年春、元慰安婦に償い事業を行ってきたアジア女性基金が解散した時の小宴で福田康夫前首相を見かけた。得になりそうもない会への参加に驚き、ひそかに期待もした。だが執念に欠けたか、時の運がなかったか、首相としては無残だった。

 最後に福田首相はインド洋での海上自衛隊の給油活動を延長する新テロ対策特措法改正案にこだわった。退陣前の異例の閣議決定。日米同盟とアジア外交の共鳴を掲げ「平和協力国家」を目指した、福田外交の課題をめぐる論戦を選挙で聞きたい。(学芸部)





毎日新聞 2008年10月4日 東京朝刊

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