わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

徹底的地味人間

2008-08-20 | Weblog
 北京五輪が終わった。「これでもか、これでもか」と大国・CHINAをアピールした開・閉会式。計算し尽くした「見せ場」に息をのんだ。メダル授与式に登場する、欧米人顔負けの長身セクシー美女軍団にも驚かされた。金メダルの数もアメリカを抜いた。力の限り力の限り、中国は世界に「超大国になる準備は整いました!」と胸を張った。欧米や日本に対するコンプレックスから、自国民を解放した。

 中華料理のフルコース?で幾分、食傷気味ではあるが、ともかく中国は頑張った。お祝いしたい。「お祭り」は派手であればあるほど感動的である。

 でも、そんな「お祭り」に場違いな人もいた。開会式で、我が宰相は自国の選手団が入場するのに立ち上がって手を振ることをしなかった。(もう一人、立たなかった北朝鮮の代表・金永南最高人民会議常任委員長は将軍様に「おれより目立ってはいけない」と言われたのだろうか?)なぜ、我が宰相は立ち上がらなかったのか? その瞬間を映像に撮るために、原爆の日の合間を縫って中国を訪れたのに……。

 日本選手団の選手村を訪問した時も「頑張ってください。せいぜい頑張ってください。せいぜいネ」と話した。おざなりと言おうか、人ごとと言おうか、他の気の利いた言葉がなかったのか? (石原慎太郎都知事は「なんだい!『せいぜい』というのは」とお怒りになったようだが)誰が聞いても「下手くそなセリフ」だ。

 我が宰相の言葉はいつも血が通っていない。「せいぜい頑張って」に悪意があるとは思いたくないが……宰相がボケていないとすれば、多分、彼が「徹底的地味人間」なのだろう。

 指導者にオーラを期待するほどウブではない。が、指導者が徹底的地味人間であることは、それだけで「犯罪」である。国家の存在感を放棄して平気でいるのは「犯罪」である。自国民がコンプレックスを感じたらどうするんだ。

 なぜ、自民党はそんな人間を選んだのか?

 誇りは高く、よく言えば孤高を楽しむ徹底的地味人間。血の通わない言葉に付いて回る「無意識の悪意」に気づかない。2世議員のボンボンだからなのか?

 追及されるのはメダルを逃した星野ジャパンではない、と僕は思う。でも、これ以上、本音を書かば「叱咤(しった)すれども激励せず」の最悪なコラムになってしまいそうだ。(専門編集委員)





毎日新聞 2008年8月26日 東京夕刊

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