わが輩も猫である

「うらはら」は心にあるもの、「まぼろし」はことばがつくるもの。

元気浮揚策=福本容子

2009-02-28 | Weblog




 バンドラはインドの商業都市ムンバイにある。ゴミが散乱し汚水が流れ込むこのスラムで、10歳のアザルディン・イズメイル君と9歳のルビーナ・アリちゃんは暮らしてきた。やっと学校に通えるようになったのは、子役で出演した映画の製作会社が学費を払ってくれたためだ。

 作品賞、監督賞など8部門でアカデミー賞を取った「スラムドッグ$ミリオネア」である。スラム育ちの若者が、日本でもみのもんたさんが司会をしたあのクイズ番組に出演し、過酷な実体験で得た知識を味方に勝ち進んで、幼なじみの女の子をギャングから救うというお話だ。

 全編がムンバイで撮影され、出演もほとんどすべてインド人。国民的作曲家のA・R・ラーマンさんが音楽を担当し作曲賞と主題歌賞をもらったから、地元は歌うの踊るの大歓声の大騒ぎだ。「希望の勝利」。英字紙「ヒンズー」はたたえた。

 希望と喜びをもらったのは、スラムの人たちだけではない。ハリウッドの授賞式でオスカー像を手に丸い目を輝かせたルビーナちゃんや「情熱と信念の二つがあれば何でもかなうよ」と言ったプロデューサーの言葉が、弱った心のアメリカ人を明るい気持ちにさせた。イギリスも監督がイギリス人だから「イギリスの快挙」と誇らしげだ。

 「おくりびと」の受賞もそう。認められたり認めたりする喜びは、好景気の絶頂だとなかなかここまで味わえない。もっとこういう賞や国際大会やお祭りが要る。今みたいな時にスポンサーになった企業は「さすが」とほめられるし、足りなければ、これこそ公的資金の出番だ。保護主義などと非難されるどころか、世界から感謝される。(経済部)


 

毎日新聞 2009年2月27日 東京朝刊


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