ある高校のラグビー部卒部式に出席させてもらった。部員80人を超す強豪校。「卒業する3年生のあいさつを、ぜひ聞いてほしい」と誘われた。
高校日本代表の子もいれば、レギュラージャージーを着ることなく3年間を終える子もいる。が、式では部内のポジションは無関係。クラス順に一人一人、親御さんと壇上に上がる。無骨な彼らは照れながらマイクの前に立ち、とつとつと謝辞を述べる。最後は皆、支えてくれた親への感謝。そして花束を贈る。
朝は7時過ぎに登校し、練習を終えて校門をくぐるのはしばしば夜9時過ぎ。通学に1時間以上かかる子も少なくない。お母さんは遅い食事のあと洗濯をし、暗いうちから弁当を作って送り出す。だから、彼らの多くは異口同音に「自分よりきつかったと思う」「弁当ありがとう」と。また、高校から親元を離れ寮生活を送った子たちは「仕送り大変なのに、好きなことをさせてくれてありがとう」と。おそらくは初めて言葉にした。
中には病気と闘いながらラグビーを続けた子や、試合中のけがで入院した子も。遠征先で手術をした子は「僕が絶食の間、お母さんもご飯を食べなかったと後で聞いた」と感謝した。涙ぐむお母さんたちを見て、思わずもらい泣きした。
子育ての渦中は、時にかわいさあまって、子どもの成果を我がことのように追ったりする。今の成績やポジションで人生が決まるわけではないことを、見失うこともある。が、返礼に立ったお母さんたちは皆「楽しかった」「自分が育てられた」と、巣立つ我が子に感謝した。「ありがとう」と言える別れが卒業だと、教えられた式だった。(報道部)
毎日新聞 2009年3月1日 東京朝刊
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