8台の車の名前は「あおぞら号」。病院へ、温泉へ、ふるさとの墓参りへ。電話1本で障害のある人の願いを受け、走った距離は地球36周分になった。
東京都三鷹市で住民による全国初の移動サービス「みたかハンディキャブ」が産声を上げ、30年を迎えた。奉仕活動に熱心な一人の主婦が米国で普及したハンディキャブ(リフト付き小型バス)を走らせようと募金を呼びかけたのが始まりだ。年会費2000円を納めればタクシーの半額以下で利用できる。
「特別な事をしているとは思ってません。昔は障害のある子の荷物を持って一緒に登下校したものです」と理事長の宇田邦宏さん(70)は言う。運営ボランティアの平均年齢は60代前半。社会で勤め上げた人たちがハンドルを握るうちに、車内でのつかの間の触れあいに生きがいをもらっていると気付く。
外出機会の乏しい障害者にとって、あおぞら号は単なる交通手段でもない。春になれば宇田さんはちょっと遠回りして、桜並木を通ったりもする。
仲間の福西宏さんも70歳。11年前に妻がくも膜下出血で倒れ、商売をたたんだ。「金もうけしか頭になかったけれど、妻の通院に付き添い、障害のある人がこんなにいると気付いたんです」。送迎で出会った障害児たちが成長していく。「学校で練習してる曲、今日は福西さんのために歌ってあげるね」。車内に子どもたちの歌声が響いた。
不況で企業の寄付は減り、移送サービスには「客を取られる」とタクシー業界の反発も強い。それでも「次世代へ受け継ぐのが僕らの役目」。シルバー世代が見つけた誇りが、明日もあおぞら号を走らせる。(生活報道センター)
毎日新聞 2009年1月21日 東京朝刊
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