語学は「語楽」--英語を楽しく学びましょう

英語の学習をしていて、「おや?」と思われる点について、みんなで考えてみたいと思います。

動詞のもう一つの顔(2)

2008-05-29 17:02:15 | 英語の学習と研究
 動詞 have について考えてみる。
 「~を持っている/ ~がいる・ある」を意味する場合は基本的には状態動詞である。次の英訳を考えてみよう。

 (1.0) 手元に若干のお金があります。

 常識的には次の英訳が考えられる。
 
 (1.1) I have some money with me.
 
 逆に、次の形は間違いだろうか?

  (1.2) I'm having some money.

 実は、文法的には正しい英文だ。ただ常識では考えられない状況を述べた文ではあるが・・・。(1.2)の意味は以下の通り。

  (1.3) 今お金を食べているところだ。

 同一の動詞であっても、意味によって動作動詞にもなるし状態動詞にもなる。つまり、意味によって be + ing が作れたり、作れなかったりするのである。

動詞のもう一つの顔

2008-05-29 16:24:22 | 英語の学習と研究

*4月の授業で動詞には目的語を取る他動詞と目的語を取らない自動詞があることを学んだ。動詞にはいろんな顔があるが、今日は「進行形にできるかどうか?」という観点から動詞のもう一つの顔を見ることにする。

< 考え方のポイント >
 動詞の表す状況が一生続くかどうか? 

 たとえば、「跳びはねる」という事について考えてみたい。一生死ぬまで「跳びはねる」ことはできるだろうか?答えは「できない」。一生続かない状況を表す動詞を「動作動詞」と言う。
 一方、「愛する」はどうか?一生涯、特定の人を愛しぬくことは可能である。動詞の表す状況が一生続くものを「状態動詞」と言う。
< 確認 > 
 動作動詞は be + ing にできる。
 状態動詞は be + ing  にできない。

問題 各文の誤りの箇所に下線を引き、正しい語句を書きなさい。
(1) This chocolate is tasting bitter.
(2) I am knowing Ken's brother and sister.
(3) He is belonging to the tennis club.
(4) She is believing the story.

< 考え方 >
(1) 「苦い味がする」のはこのチョコレートの「属性」である。その属性は、チョコレートが食べられてなくなってしまうまで存続するので「状態動詞」。したがって、
This chocolate tastes bitter. とする。
(2) たとえば、一生涯宝物のありかを自分ひとりだけの秘密にしておいて、死んでしまった海賊の話がある。「~を知っている」という状況は一生涯続くので「状態動詞」。したがって、I know Ken's brother and sister.とする。
(3) 人間は社会的動物。何かに属して一生生きていくものだ。したがって、He belongs to the tennis club.とする。
(4) 一生涯特定の人を信じて生きることはよくある話。したがって、She believes the story.とする。


時・条件を表す副詞節(2)

2008-05-26 17:06:06 | 英語の学習と研究
 前回「指技」を披露したが、すべてがうまくいくわけではないので追加説明をすることにする。
問題 (   )内の動詞を、最適な形に直しなさい。
(1) Please let me know as soon as the President  ( come ) back to D. C.
(2) Please let me know if he ( come ) to the party tomorrow.
 指で下線部を隠して、隠れていない部分について考えてみる。
 Please let me know.は完全な文とも言えるし、不完全な文だとも言える。
A.完全な文と考えられる場合:「連絡してください」の意味。
B.不完全な文と考えられる場合:「(~かどうか)を教えてください」の意味。
 (1)については、「大統領がワシントンに戻り次第ご連絡下さい」の意味以外は考えられないので、下線部は副詞節。答えは comes。
 一方、(2)は、「もし明日彼がパーティに来たら連絡してください」にも「彼が明日パーティに来るかどうか教えてください」にも解釈できる。前者であれば副詞節なので答えはcomes。後者であれば名詞節なので答えはwill come。

類例
(3) Tell me when you'll be ready.(いつ支度ができるのか教えてください)<名詞節>
(4) Tell me when you are ready. (支度ができたら教えてください)<副詞節>

時・条件を表す副詞節

2008-05-25 10:40:13 | 英語の学習と研究

 1年生の英文法で、第一の関門は「時・条件を表す副詞節」ではなかろうか?
問題 下線部に注意して、(   )内の動詞を最適な形に直しなさい。
(1) He'll call you when he ( finish ) his homework.
(2) Please remain seated until the plane ( come ) to a complete stop.
(3) We will go on a hike if the weather ( be ) good tomorrow.
(4) Do you know what time he ( come ) back to the office tomorrow?
(5) I'm not sure if he ( join ) us tomorrow.

 「時・条件を表す副詞節」における動詞は、「これからの事柄」を表す場合でも、現在形または現在完了(=動作動詞の場合)にする、というのが鉄則である。問題は、「時・条件を表す副詞節」とは何かいまひとつすっきりしない。「もし~ならば」とか「~した時」と訳せるものは時・条件を表す副詞節である。「いつ~か」、「何時に~か」とか「~かどうか」と訳せるものは文の要素に組み込まれている名詞節なので、時・条件を表す副詞節のルールは適用されない。「これからの事柄」は単純に未来表現であらわせばいい。 

 したがって、上記問題の正解はそれぞれ以下のようになる:
(1) finishes または has finished: 彼は宿題を終えたら君に電話をするそうです。
(2) comes または has come: 当機が完全に停止するまでお席を立たないでください。
(3) is: 明日天気がよければハイキングに出かけましょう。
(4) will come: 明日の何時にオフィスに戻るかご存知ですか?(名詞節)
(5) will join: 彼が明日僕たちに合流するかどうかよくわからない。(名詞節)

 この解説で分からなければ、極秘の必殺技を教えよう。

<必殺技その一:指技>

 上記問題における下線部を指で隠してごらん
 指で隠れていない英語が完全な英語であれば、指で隠した部分は「副詞節」。一方指で隠れていない英語が不完全な英語であれば、指で隠した部分は「名詞節」。
 この技は「指技」と称し、門外不出の必殺技である。

 


形容詞と副詞の意味の不均衡な関係について(4)

2008-05-15 17:58:11 | 英語の学習と研究

 標記の件について、もう少し周辺事項を確認しておきたい。
 通例 be afraid of + Gerund と be afraid + to-Infinitive はほぼ同じ意味だとして扱われるが、必ずしもそうではない。

   (1)   a. I am afraid to cross the road. (to- Infinitive) 
          b. I am afraid of crossing the road. (Gerund)

 10年以上前になるが、某女子高校のALT(カナダはケベック州出身)に、上の2つの英文の意味の差は何であるかと質問したことがあるが、ほとんど差はなく、そんなことを議論するのは、「1本の髪の毛をカミソリで縦長にスライスするような」議論だと一蹴されてしまったことがある。
 さて、形が違えば意味が違う、ということは語学にまじめに取り組む上では押さえておくべき重要なことだ。Wierzbicka (1988) によると、to不定詞は、原則として主語の意志でコントロールできる動作を表すという。従って、(1a)の意味は、「道路を渡りたいのだけれど、猛スピードで走る車が多くて、怖くてそれができない」ということになる。一方、(1b)ではto不定詞ではなく動名詞が用いられていて、道路を渡る意志の有無にかかわらず、ひょっとしたら過去に道路を横断中に交通事故にあってそれがトラウマになっているかもしれないが、「道路の横断は怖いから嫌」となる。
 次の例はどうか?

   (2)  a. # I am afraid to fall down. (to-Infinitive)
         b. I am afraid of falling down. (Gerund)

 「転ぶ」という動作は、自分の意志では制御できない、不意の事柄であるから(2a)は非文である。「転ぶのが怖い」の英訳として適切なのは (2b) という事になる。
 
 以上議論した to-Infinitive と Gerund は全くの別物であるので、互いに対称関係にはないが、しばしば、両者を「イコール」であるかのような、あるいは対称関係にあるような扱いをする向きもあるので確認した次第である。

参考書:
Wierzbicka, Anna. 1988. The Semantics of Grammar. Amsterdam: John Benjamins. 

 


形容詞と副詞の意味の不均衡な関係について(3)

2008-05-08 11:18:36 | 英語の学習と研究

再帰代名詞の謎について
 まず英語は、歴史的に以下の3つに分類されることが通例である(C.T. Onionsによる)
(1)古期英語(Old English, OE.): AD 700年~AD1100年(Beowulfという叙事詩が書かれた時代)

(2)中期英語(Middle English, ME.): AD 1100年~AD 1500年(Chaucerの英語はこの時代のもの)
(3)近代英語(Modern English, ModE.): AD 1500年~現代まで(Shakespeareから現代まで)
 古期英語では、形容詞 self が名詞・代名詞と並置される形で名詞・代名詞の意味を強調する目的で用いられる。
(例1) He selfa hit segÞ.(He himself says it.) Þth
 また、人称代名詞の「与格」(dative:「~に」の目的語の格)が主要部名詞句とself の間に入ることも多い。つまり、「名詞句+与格+self」の語順。
(例2)He him selfa hit segÞ. (He himself says it.) 
 やがて、再帰代名詞の形が2つに分かれることになる。
<Ⅰ型> 与格+self
 
himself, herself, themselves, itself
<Ⅱ型> 所有格+self
 myself, ourself, ourselves, thyself, yourself, yourselves, itsself (1718世紀), hisself, theirselves
 なぜ、<Ⅱ型>が生じたかというと、herselfにおけるher が本来は与格であるにもかかわらず、所有格と認識され、また本来形容詞であるはずの self が名詞であると誤解されて、「所有格+名詞のself」の類推(analogy)が働いたためである。
 以上の議論は、G.O. CurmeSyntax, pp.515 ff.に基づいた。


形容詞と副詞の意味の不均衡な関係について(2)

2008-05-07 18:24:11 | 英語の学習と研究
 誰も考えたことのない、正解が存在するのかどうかすら分からない問題について考える場合、手順としてはまず「仮説」(hypothesis)を立てるところから始めるのが学問の基本だ。この問題について、英語を通時的に見ることで解答が見つかるのではないか、という仮説を私は立てた。もしこの仮説のもとで文献を渉猟しても手がかりが得られなければ、仮説そのものが間違っていることになるので、別の仮説を立てなければならない。
 なぜ、英語を歴史的にさかのぼることで、手がかりが得られそうだと考えたか?その理由は、この4月に入学した新入生の質問に触発されて、問題の所在について、漠たるものではあるが、手応えを感じたたからだ。その質問とは、再帰代名詞の myself, ourselves, yourself, yourselves は「所有格+self/ selves」なのに、himself, herself, themselves, itself は「目的格+self/ selves」。規則性がないのはなぜですか?というものだった。この質問に私は23年ぶりに感動すると同時にタイトルに示した問題の糸口が見えたのである。
 今日的な観点、つまり共時的に見ると、確かに不思議な事例であるが、実は英語の歴史をさかのぼると、答えが見えてくる。(この稿続く)

形容詞と副詞の意味の不均衡な関係について(1)

2008-05-02 18:22:45 | 英語の学習と研究
 最近、東大の黒田玲子先生のお書きになった『生命世界の非対称性』(中公新書)という本を通勤の新幹線で再読している。以前先生を一目見て、ビビッと来るものがあり、思わず書店で購入したものであるが、全く歯が立たず、机に積ん読状態になっていた本の一冊だ。
 左右対称という意味においてであるが、一見世界はすべて対称性が保たれていると考えられているが、実はそうではないのが生命世界。素粒子のレベルで考えるとそのバランスは完全に崩れているという。
 実は、言語においても対称性が崩れていると考えられる事例がある。卑近な例では英語の形容詞と副詞の意味の関係である。

1.対称性が保たれている例
(1) easy(簡単な) - easily(簡単に)
(2) beautiful(美しい) - beautifully(美しく)
(3) quiet(静かな) - quietly(静かに)
 英語の形容詞・副詞のペアを見ると意味の対称性が保たれている例の方がそうでない場合よりも圧倒的に多い。一方、次のような場合もある。

2.対称性が保たれていない例
(1) apparent(明らかな) - * apparently(見たところでは)
(2) high(高度・位置・質などが高い) - * highly(非常に・大いに)
   cf. Birds are flying high in the air.(鳥たちが空高く飛んでいる) 
(3) cheap(値段などが安い) - * cheaply(安っぽく)
       cf. I bought this sweater very cheap.(このセーターはとっても安く買いました)
 このような対称性が保たれていない、一見理不尽にも見える事例はどう説明したらいいのか?この問題は以前はたいして気にもとめなかったが、最近急に気になりだしたのでしばらく考えてみたいと思う。