再帰代名詞の謎について
まず英語は、歴史的に以下の3つに分類されることが通例である(C.T. Onionsによる):
(1)古期英語(Old English, OE.): AD 700年~AD1100年(Beowulfという叙事詩が書かれた時代)
(2)中期英語(Middle English, ME.): AD 1100年~AD 1500年(Chaucerの英語はこの時代のもの)
(3)近代英語(Modern English, ModE.): AD 1500年~現代まで(Shakespeareから現代まで)
古期英語では、形容詞 self が名詞・代名詞と並置される形で名詞・代名詞の意味を強調する目的で用いられる。
(例1) He selfa hit segÞ.(He himself says it.) *Þ=th
また、人称代名詞の「与格」(dative:「~に」の目的語の格)が主要部名詞句とself の間に入ることも多い。つまり、「名詞句+与格+self」の語順。
(例2)He him selfa hit segÞ. (He himself says it.)
やがて、再帰代名詞の形が2つに分かれることになる。
<Ⅰ型> 与格+self型
himself, herself, themselves, itself
<Ⅱ型> 所有格+self型
myself, ourself, ourselves, thyself, yourself, yourselves, itsself (17~18世紀), hisself, theirselves
なぜ、<Ⅱ型>が生じたかというと、herselfにおけるher が本来は与格であるにもかかわらず、所有格と認識され、また本来形容詞であるはずの self が名詞であると誤解されて、「所有格+名詞のself」の類推(analogy)が働いたためである。
以上の議論は、G.O. CurmeのSyntax, pp.515 ff.に基づいた。