音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

裁判員にならない方法

2008-05-11 19:28:34 | 時事問題
司法制度改革については人並みに関心はあるのですが、来年から始まる裁判員制度については、今までよく知りませんでした。最近ある本を読んで、このテーマについて考えるようになりました。色々な論点があり、全体に言及するととめどなく長くなってしまいますので、今後折に触れてこの問題について気のついたことを書いていこうと思います。

本日のお題は「裁判員の選定」についてです。試算によれば、全国で1年当たり、裁判員候補者として裁判所に呼ばれるのは約330人~660人に1人程度(0.15~0.30%)、実際に裁判員又は補充裁判員として刑事裁判に参加するのは約4,160人に1人程度(0.02%)だといいます。

巷では辞退理由とか辞退可能な職業などが話題になっているようですが、それよりも問題なのは、裁判員の「能力」ではないかと思うのですがどうでしょうか。最高裁のホームページによると、裁判員は法令を知らなくても、裁判官が丁寧に説明してくれるので大丈夫だと謳っています。でも、世間には何度同じことを説いても理解できないという、そもそもの能力が著しく欠如している人、本質とは別に、とにかく人と違う意見を言うことに生きがいを見出すような変わり者がいることを、私たちは経験上知っています。本当に大丈夫なんでしょうか?

裁判員制度では、その選定は基本的に無作為抽出です。これは公平性の面からも正しいと思います。よく世論調査で8割の人が裁判員になりたくないと回答していることを根拠に反対の論陣を張っている識者がいますが、こういうボランティア度の高い責務について尻込みをする方が一般市民としての正しい反応であって、これをもってダメな制度だと決め付けるのは早計です。むしろ、こういうシリアスかつ責任重大な役割を担うことについて、ハイ!ハイ!ハイ!と志願の手を挙げる人の方がちょっと胡散臭かったりするという、一種のサンプルバイアスがあるわけです。自治会や組合、PTA活動などを見ても、往々にして「やりたい人」より「やりたくない人」の方が、ひとたび覚悟を決めれば良い仕事をするものだし、特別意識の高くなかった人が、刑事裁判にコミットするという稀有な体験をすることで、何かを得ることができるというのは、制度趣旨にも叶うものです。

裁判員を選ぶための手続きを見ていくと、

①各地方裁判所ごとに,管内の市町村の選挙管理委員会がくじで選んで作成した名簿に基づき,翌年の裁判員候補者名簿を作成

②裁判員候補者名簿に記載されたことを各人に通知。また、就職禁止事由や客観的な辞退事由に該当しているかどうかなどをたずねる調査票を送付。調査票を返送し、明らかに裁判員になることができない人や、1年を通じて辞退事由が認められる人は、裁判所に呼ばれない

③事件ごとに裁判員候補者名簿の中から,くじで裁判員候補者が選定。通常は1事件あたり50人から100人程度

④くじで選ばれた裁判員候補者に質問票を同封した選任手続期日のお知らせ(呼出状)を送付。質問票を返送し、辞退が認められる場合には、呼出しを取り消されるので、裁判所へ行く必要なし

⑤裁判員候補者は,選任手続の当日に裁判所へ行く。裁判長は候補者に対し、不公平な裁判をするおそれの有無、辞退希望の有無・理由などについて質問。候補者のプライバシーを保護するために、この手続は非公開。

⑥ 最終的に事件ごとに裁判員6人が正式選任(必要な場合は補充裁判員も)通常であれば午前中に選任手続を終了し、午後から審理開始


以上が裁判員選任までのフローですが、導入初期は辞退率のデータがなく歩留まりが読めないので、多めに候補者を抽出することが予想されます。③の段階で1事件あたり50~100人としていますので、100人近く確保するのではないかと思われます。そして呼び出し状が送付された候補者の100人のうち、仮に30%が辞退を認められたとして、残り70人が⑤の段階に進むことになります。そして⑤において候補者70人がここで6人に絞り込まれ、裁判員が確定するわけです。

よって、⑤の裁判長による面接というのがポイントになります。なぜなら、サイトを見る限りは、②の調査票と④の質問票のいずれも、もっぱら辞退事由に抵触するか否かを確認するためのものになっていて、この時点まで本人の能力や適性を直接はかる機会がないのです。裁判所にどれだけ人を見極める眼力があるかわかりませんが、おそらくは、勤務先などの属性情報や、面接での受け答えなどを総合的に勘案して選定するつもりでしょう。案の定この面接は非公開でブラックボックスとなっていますから、裁判所はここでスクリーニングを行うつもりなんでしょう。

私がもし裁判長の立場であれば、どのような人を選ぶか(どのような人を落とすか)想像してみました。そもそも今回の裁判員制度の趣旨が審理の迅速化にありますし、そのような要請がないにしても、なるべく余計な負荷がかからないように、事を手際よく進められるメンバーを極力選ぼうとするでしょう。法律の素養がなくとも、限られた時間と資料の中で要点を掴み「決められる」人たちです。事実認定と判決(量刑以外にも執行猶予、保護観察、未決拘留日数の算入など)という重要かつ難易度の高い課題を短時間で要領よく消化していくには、論理的思考力と相応の実務処理能力が必要です。ペーパーテストをするわけでなく、どうせ学歴などの個人情報は伏せられるのでしょうから、勤務先の役職などを見て、ビジネス社会である程度の大きな組織で管理職をしている人などが好まれるのではないかと。こういう忙しい人が都合いいのは、仕事をたくさん抱えていますから、目の前の案件をちゃっちゃと終わらせたいという習性があることです。逆にインテリであってもリタイア後の老人や無職の人などは厄介で、暇だから議論のための議論を楽しもうなどと考えがちです。また自説に固執して物事を進められない面倒な人、こういった類の輩は裁判をハンドリングするうえで邪魔な人材です。(あくまで裁判所サイドに立った場合ですよ)

もちろん、有能なビジネスマンばかりにメンバーが偏るわけにはいかず、見た目のバランスも必要ですから、あとはお上のいうことに唯々諾々と従うだけのおばちゃんとか、厄介なことには深入りしようとせず、「どうぞよしなにやってください」という毒にも薬にもならないような人材を適当にまぜて、6人の裁判員を編成することになるでしょう。こういう選定をする制度に意味があるのかという議論は、ひとまず置いておきます。実際はこうなるんじゃないかというシュミレーションです。

裁判長が各候補者にどんなインタビューを行うのかは、サイトのどこにも書かれていないので不明なのですが、司法問題に詳しい保坂展人衆議院議員が、次のような指摘をしています。

例えば、裁判員の選任の際に、検察側も弁護側も裁判長を通じて候補者に質問をすることが認められている。もともとは公正な裁判を期するために、原告や被告の知人や利害関係者などを排除することを想定しての制度だが、そこでの質問には、「警察を信用するか、しないか」や「死刑制度に賛成か、反対か」などの、実質的に裁判員となる人の思想信条にまで踏み込むような質問も含まれることが、最高裁が作成した想定問答集で明らかになっている。その結果、「不公平な裁判をする恐れがある」と判断されれば、その人は裁判員から除外される。


つまり⑤の段階における面接は、当然ながら能力以外も、候補者の思想・メンタリティーを問うものになるわけです。

サイトのQ&Aでは、

●質問票に虚偽の内容を書いたり,選任手続における質問に対して嘘を言った場合,罰せられることはあるのですか。

A.法律上、裁判員候補者が、質問票に虚偽の内容を書いたり、裁判員等選任手続における質問に対して嘘を言ってはいけないこととされています。これに違反して質問票に虚偽の記載をしたり,裁判員等選任手続における質問に対して嘘を言った場合には、30万円以下の過料(行政処分としての制裁)に処せられることがあります。また、質問票に虚偽の記載をして裁判所に提出したり,質問に対して嘘を言った場合には、50万円以下の罰金に処せられることもあります。


面接で嘘をつくことには罰則規定があります。でも、「自分は教員(辞退が認められている職業)である」とか「介護しなければならない家族がいる」とかファクトに関する虚偽申告は禁止されていても、自分の心の中のことは、いかようにも言えるんじゃないでしょうか。だから、わざと極端なことをしゃべって、面接者である裁判長に「この人とはやっていけないな」と嫌われればいいわけで、いわば就職面接の逆をいけばいいのです。よって、どうしても裁判員になりたくないと考える人がいたら、その人は安心してもいいのではないでしょうか。





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1 コメント

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郵便物を受け取るな (日下宏)
2008-11-28 11:30:31
通知を受け取り拒否すればいい。
そうすれば届いていないから罰金もないよ。
ある経営雑誌に大学教授が書いていた。

または、住民票を不明にして選挙人名簿から抹消するとか、海外移転したことにするなどの方法もある。
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