音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

フィーリング裁判員

2008-05-12 23:58:34 | 時事問題
裁判員制度の続きです。この制度が何故導入されるのか、未だようわからんのですよ。なにかと批判の多いロースクールの方は何となく理解ができるんです。要は昨今のM&Aの隆盛やコンプラ重視で、リーガルコストが馬鹿にならなくなっており、産業界からの強い要請があったと。特に多国籍企業からは「日本の弁護士高えーなー」と相当な不満があり、弁護士の数をグーンと増やせば価格が下がると考えたのでしょう。今の時代、これは買い被りとも思いますが、人権の砦としての弁護士業界の弱体化を権力側が企図しているということも一部では囁かれています。

今日もこんなニュースを見かけました。

来年5月の裁判員制度導入に向け、最高裁は、殺人事件などの審理で精神的ショックを受けた裁判員を対象に、24時間態勢の無料電話相談窓口や心理カウンセラーによる面談を受けられる「心のケア・プログラム」を設ける方針を決めた。(産経新聞)

ここまで金と手間をかけて導入する意味はあるのかなあ・・・。日本の裁判員制度は、ここにあるように、英米の「陪審制」と欧州の「参審制」のいわば中間に位置しています。担当する案件は殺人事件などの重大事件に限られていて、本職の裁判官を含む合議体とはいえ、ここで事実認定から量刑まで決まることになります。つまり喩えていうなら、素人が何のトレーニングも知識もない状態で、心臓や脳の手術をドクターと共にメスを握って執刀するようなものなのです。

そう考えると、かなり恐ろしい制度なのですが、先のエントリーで、実際は裁判員の選抜にはいくつかのスクリーニング(絞り込み)装置が設けられているようだと書きました。私が裁判員を選ぶ立場なら、たぶんデシジョンメイキングに慣れた多忙なビジネスマンを選ぶだろうと推察したのです。逆に全くの無作為抽出をするとどうなるかというのは、なかなか想像できないかもしれませんが、実は良い教材があるのです。

『12人の優しい日本人』は三谷幸喜の傑作コメディーです。もともと戯曲として書かれたものが映画化されたのは1991年でしたから、劇中の雑談の話題が「貴花田と若花田のどちらが先に横綱になるか?」だったり、やたら会議室で煙草を吸う人が多いのが時代を感じさせます。しかし内容は色褪せないどころか、裁判員制度の施行を1年後に控えた今だからこそ必見のDVDだと思います。(まだ無名の頃のトヨエツがいい味を出してます)

この映画は、もし日本に陪審制があったならという架空の設定で、ある殺人事件を評決するまでを描いているのですが、もちろん元ネタはヘンリー・フォンダの『十二人の怒れる男たち』。ほぼ12人のセリフだけで構成される密室劇ですが、117分全く飽きさせることのない三谷ワールドはさすがで、最初観たときは抱腹絶倒でした。しかし二度目に観たときも面白かったのですが、もう私も社会人になっていたので、リアルすぎて身につまされ、笑うに笑えませんでしたね。

日本の選挙人名簿から何にも考えずに無作為抽出したら、きっとあんな感じになるだろうと思いますよ。横並び、付和雷同、優柔不断、長いものに巻かれろ主義、無責任、いい加減さ・・・etc. 勤務先の会議でも、ちっとも先に進まず、あげく権力者の一声や声の大きな人に引きずられた結果、どう考えても合理的でない結論になってしまう経験をされた方も多いと思います。

この映画の陪審員たちは、結局は個人的感情を持ち込みまくっているのですが、それよりも気になったのは、そこで連発される「何となく」「フィーリングで」というセリフです。根拠を問われても、それを説明することができない、というより考えていないんですね。世の中の多くのブログや掲示板を読んでもわかるように、「楽しかった」「面白かった」「酷い」「けしからん」「退屈だった」「美味しかった」等々、感想は誰でもみんな書けるんですよ。でも何故そうなのかを掘り下げて論考しているものは極めて少ないのです。

司法に市民感覚を取り入れるというコンセプトからして、深い人生経験をお持ちの方の直感や第六感は、もしかしたら傾聴に値するものもあるのかもしれません。さらに「法令を知らなくても心配不要」と最高裁自身が高らかに宣言しているのですから、日本の裁判は罪刑法定主義から大きく転換しようとしているといっていいでしょう。でも自分が被告の立場だったら、こういう裁判員たちに裁かれるのはご免です。だって私などは人相が悪いだの犯罪者みたいな顔と散々言われてきたクチですから、「根拠はないけど、あの人目つきが悪いから絶対やってるわ」などと判定されたらたまりませんから(;´Д`)/


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