今年はバブルブームだと再三書いている手前もあり、話題の映画を観て参りました。先日の『それでもボクはやってない』はシリアスでしたが、今回は笑える娯楽映画。それにしてもこの私が1ヶ月の間に2度も劇場で日本映画を観るのですから、「邦画バブル」というのは本当かもしれません。
小生、社会人になる前に泡が弾けてしまったのですが、学生時代に辛うじてバブリーワールドの一端を覗いています。本作は、80年代的ギョーカイ人、今は部長クラスになっているCXや電通の社員、毎夜のディスコパーティーにうつつを抜かしていた往時のブランド大学生などにとっては、まさにど真ん中のストライクで郷愁に浸れること請け合いですが、そういうコア層以外の人でも、エンターテインメントとしてそれなりに楽しめるものになっています。ハッピーエンドがなんだかなあという感じだし、タイアップが煩いのと内輪ウケの世界が過ぎるのも、いかにもホイチョイ映画らしく・・・でも、これはこれでいいのでしょう。
流行のファッションや風俗だけをプレイバックしたいのであれば、VTRで昔のトレンディードラマでも観ればよい。我が家にはないのですが、ケーブルTVで多チャンネルの視聴環境があれば、「80年代ドラマ特集」なんて常時放映していますから。ボディコン、紺ブレ、ディスコ、お立ち台、ユーロビート、太い眉に真っ赤な口紅、ソバージュ、ツーブロックなどなど、ある世代にとっては感涙ものですが、これは50代以上の人が「三丁目の夕日」で泣くようなもんですな。でもこの映画の見所は、2007年に22歳の今どきの女の子が、90年3月の東京に降り立ったときの「比較の視点」にあるわけです。
まあ娯楽ものですから、ストーリーの詳説は避け、印象的な場面の感想などをつらつらと。
ヒロイン広末涼子が阿部寛扮する若手大蔵官僚にディスコに連れられて行くシーン。場所はあのディスコの殿堂-六本木スクエアビル(最上階のCIRCUS懐かしい~)なんですが、ここは17年後に、ヒロインがバイトするキャバクラが入ることになります。そのスクエアビルのエレベーターから揉みくちゃにされながら吐き出された時、広末が思わず嘆息まじりに言うのですね。「人多すぎ・・・」と。 たしかに現代は、積年の人減らしの余波で、20~30代の会社員はハードワークでくたくたになっていて遊ぶ余裕が持てず、夜の街にあまり出没していません。バブル当時は業種限らず「ヤンエグ」なんて呼ばれて、若いサラリーマンが元気満々でしたよね。加えて学生のパーティーも多かったし、「黒服バイトは酒池肉林だ!」なんていって、ろくすっぽ学校に行かずにお水の世界から戻れなくなった学生も珍しくなかった。(柳沢きみお漫画みたいな世界ですが)とにかく街が喧騒状態にあったのは事実です。
それから夜の繁華街でなかなかタクシーがつかまらず、お札をヒラヒラかざしながら1台に群がるシーンもありました。強者になると道路の真ん中まで出て拾おうとするような・・・。こんな大争奪戦の様相は隔世の感があります。つい昨日も、衆院予算委員会で共産党の志位さんが質問のネタにしていましたが、タクシー業界は今やワーキングプアの代名詞みたいになっています。ここ数日、生産性と最低賃金の問題をアルファな方々が盛んに論じておられますが、これなんか典型的な「需要と供給」の論理で説明できる事例です。規制緩和による参入過多と利用者激減ということなんですが、この本などを読むと、効率的な走行を工夫して水揚げを増やそうとしているタクシードライバーも少なからずいて、加えて今はナビもありますから生産性は上がっているはずなのにこの惨状です。一方あの頃は、何も考えずに通りを流していれば、いとも簡単にロングの客がじゃんじゃん釣れたわけです。タクシーチケットという立派な金券が、まるでマクドナルドの割引券のように出回っていた時代です。この頃にタクシー中毒になって、その癖が未だに抜けず、何かといえばすぐタクろうとするおぢさん・おばさんが周囲にもいますけどね。
それにしても、この阿部ちゃんの役はインテリジェンスのある彼にしかできないハマリ役ですね。この役は江口洋介にも織田裕二にも三上博史にもできないと思いますよ。
中央大学理工学部在学中にモデルデビューして、86年の『メンズノンノ』創刊号から43号連続で表紙を飾ったという、まさに80年代・バブルの顔。その格好いい阿部ちゃん演じる下川路功に、妙なリアリティーがあるのは、あの頃は霞ヶ関に結構この手のこざっぱりした若手がいたんですよね。村上世彰やノーパンしゃぶしゃぶ接待で失脚した大蔵省の長野某とか、現衆議院議員で通産省OBの江田憲司とか。当時は「俺って東大っぽくないだろ」みたいな遊び好きで助平な官僚が幅を利かせていたのですが、90年代に大蔵・日銀の接待疑惑が扇情的なマスコミに叩かれまくったのと、ガチガチな年功序列が嫌われたのか、昨今では秀才で山っ気のあるトッポイ兄ちゃんたちが皆、外資系金融機関などに流れてしまっています。こういう艶と元気のある若手高級官僚がいなくなってしまったのが、霞ヶ関の凋落の遠因かも知れないとも思ってしまいました。
それから、思わずしみじみとしてしまったのは、幾人もの登場人物の口から漏れる「銀行がつぶれるわけないだろ」というセリフ。2007年の未来から来た広末がいくら説明しても信じないのです。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主人公が、未来の大統領はロナルド・レーガンだと言ったら、「冗談はよせ」とばかりに思いっきり嘲笑される場面を彷彿させますが、かように人々の銀行の不倒神話は根強かったわけです。
そして、これは観ていない人も大体予想がつくでしょうが、本編は何といっても携帯電話が重要な小道具になっています。当時のトランシーバーみたいな移動電話やポケベルはご愛嬌としても、ケータイの本格的普及は大体94年頃からだと記憶していますから、これが最も事情が違う点です。長い不況期に育ったお気楽ギャルのヒロインは、何が起こってもめげることはないのですが、唯一ケータイが壊れたときには、この世の終わりとばかりに、がっくりと消沈してしまいます。ケータイは現代の若者の生命線で、その喪失は死にも等しいのでしょうか。「コミュニケーションツール」や「多機能化」といった凡庸な概念を超えた、ある種の精神性を帯びた存在になっているといったら大袈裟でしょうか。
個人的には、大蔵省局長秘書役の伊藤裕子がツボでした。ワンレンでもソバージュでもなく何ていうんでしょう、あの前髪カーラー巻きのバブル期独特のヘアスタイル! 学生時代に好きだった女性が、まんまあの髪型してたもんで・・・。
うーん、やっぱり懐かしい。
小生、社会人になる前に泡が弾けてしまったのですが、学生時代に辛うじてバブリーワールドの一端を覗いています。本作は、80年代的ギョーカイ人、今は部長クラスになっているCXや電通の社員、毎夜のディスコパーティーにうつつを抜かしていた往時のブランド大学生などにとっては、まさにど真ん中のストライクで郷愁に浸れること請け合いですが、そういうコア層以外の人でも、エンターテインメントとしてそれなりに楽しめるものになっています。ハッピーエンドがなんだかなあという感じだし、タイアップが煩いのと内輪ウケの世界が過ぎるのも、いかにもホイチョイ映画らしく・・・でも、これはこれでいいのでしょう。
流行のファッションや風俗だけをプレイバックしたいのであれば、VTRで昔のトレンディードラマでも観ればよい。我が家にはないのですが、ケーブルTVで多チャンネルの視聴環境があれば、「80年代ドラマ特集」なんて常時放映していますから。ボディコン、紺ブレ、ディスコ、お立ち台、ユーロビート、太い眉に真っ赤な口紅、ソバージュ、ツーブロックなどなど、ある世代にとっては感涙ものですが、これは50代以上の人が「三丁目の夕日」で泣くようなもんですな。でもこの映画の見所は、2007年に22歳の今どきの女の子が、90年3月の東京に降り立ったときの「比較の視点」にあるわけです。
まあ娯楽ものですから、ストーリーの詳説は避け、印象的な場面の感想などをつらつらと。
ヒロイン広末涼子が阿部寛扮する若手大蔵官僚にディスコに連れられて行くシーン。場所はあのディスコの殿堂-六本木スクエアビル(最上階のCIRCUS懐かしい~)なんですが、ここは17年後に、ヒロインがバイトするキャバクラが入ることになります。そのスクエアビルのエレベーターから揉みくちゃにされながら吐き出された時、広末が思わず嘆息まじりに言うのですね。「人多すぎ・・・」と。 たしかに現代は、積年の人減らしの余波で、20~30代の会社員はハードワークでくたくたになっていて遊ぶ余裕が持てず、夜の街にあまり出没していません。バブル当時は業種限らず「ヤンエグ」なんて呼ばれて、若いサラリーマンが元気満々でしたよね。加えて学生のパーティーも多かったし、「黒服バイトは酒池肉林だ!」なんていって、ろくすっぽ学校に行かずにお水の世界から戻れなくなった学生も珍しくなかった。(柳沢きみお漫画みたいな世界ですが)とにかく街が喧騒状態にあったのは事実です。
それから夜の繁華街でなかなかタクシーがつかまらず、お札をヒラヒラかざしながら1台に群がるシーンもありました。強者になると道路の真ん中まで出て拾おうとするような・・・。こんな大争奪戦の様相は隔世の感があります。つい昨日も、衆院予算委員会で共産党の志位さんが質問のネタにしていましたが、タクシー業界は今やワーキングプアの代名詞みたいになっています。ここ数日、生産性と最低賃金の問題をアルファな方々が盛んに論じておられますが、これなんか典型的な「需要と供給」の論理で説明できる事例です。規制緩和による参入過多と利用者激減ということなんですが、この本などを読むと、効率的な走行を工夫して水揚げを増やそうとしているタクシードライバーも少なからずいて、加えて今はナビもありますから生産性は上がっているはずなのにこの惨状です。一方あの頃は、何も考えずに通りを流していれば、いとも簡単にロングの客がじゃんじゃん釣れたわけです。タクシーチケットという立派な金券が、まるでマクドナルドの割引券のように出回っていた時代です。この頃にタクシー中毒になって、その癖が未だに抜けず、何かといえばすぐタクろうとするおぢさん・おばさんが周囲にもいますけどね。
それにしても、この阿部ちゃんの役はインテリジェンスのある彼にしかできないハマリ役ですね。この役は江口洋介にも織田裕二にも三上博史にもできないと思いますよ。
中央大学理工学部在学中にモデルデビューして、86年の『メンズノンノ』創刊号から43号連続で表紙を飾ったという、まさに80年代・バブルの顔。その格好いい阿部ちゃん演じる下川路功に、妙なリアリティーがあるのは、あの頃は霞ヶ関に結構この手のこざっぱりした若手がいたんですよね。村上世彰やノーパンしゃぶしゃぶ接待で失脚した大蔵省の長野某とか、現衆議院議員で通産省OBの江田憲司とか。当時は「俺って東大っぽくないだろ」みたいな遊び好きで助平な官僚が幅を利かせていたのですが、90年代に大蔵・日銀の接待疑惑が扇情的なマスコミに叩かれまくったのと、ガチガチな年功序列が嫌われたのか、昨今では秀才で山っ気のあるトッポイ兄ちゃんたちが皆、外資系金融機関などに流れてしまっています。こういう艶と元気のある若手高級官僚がいなくなってしまったのが、霞ヶ関の凋落の遠因かも知れないとも思ってしまいました。
それから、思わずしみじみとしてしまったのは、幾人もの登場人物の口から漏れる「銀行がつぶれるわけないだろ」というセリフ。2007年の未来から来た広末がいくら説明しても信じないのです。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』で主人公が、未来の大統領はロナルド・レーガンだと言ったら、「冗談はよせ」とばかりに思いっきり嘲笑される場面を彷彿させますが、かように人々の銀行の不倒神話は根強かったわけです。
そして、これは観ていない人も大体予想がつくでしょうが、本編は何といっても携帯電話が重要な小道具になっています。当時のトランシーバーみたいな移動電話やポケベルはご愛嬌としても、ケータイの本格的普及は大体94年頃からだと記憶していますから、これが最も事情が違う点です。長い不況期に育ったお気楽ギャルのヒロインは、何が起こってもめげることはないのですが、唯一ケータイが壊れたときには、この世の終わりとばかりに、がっくりと消沈してしまいます。ケータイは現代の若者の生命線で、その喪失は死にも等しいのでしょうか。「コミュニケーションツール」や「多機能化」といった凡庸な概念を超えた、ある種の精神性を帯びた存在になっているといったら大袈裟でしょうか。
個人的には、大蔵省局長秘書役の伊藤裕子がツボでした。ワンレンでもソバージュでもなく何ていうんでしょう、あの前髪カーラー巻きのバブル期独特のヘアスタイル! 学生時代に好きだった女性が、まんまあの髪型してたもんで・・・。
うーん、やっぱり懐かしい。
懐かしいですよね☆
伊藤裕子のこのヘアスタイルも
一時の聖子ちゃんカットのように、たくさんいましたよね
タクシー乗務員もバブルの夢を捨てきれない人は組合あたりに集結して共産党さんにも泣きついているようですが、まじめにやっている方はお客様からも評価されています。運賃改定をばねに生活も取り戻してくれるはずです。
ホイチョイプロダクションズに在籍していらしたんですね。ホイチョイ映画で唯一の社会派?映画ですかね。
>VEMさん、いつもありがとうございます。
話は変わりますが、VEMさんのコメントにはよく「組合」というフレーズが出てきましたが、組合の強い会社にお勤めなんですか?
その本を読んでからというもの、タクシーを見るたび複雑な思いになります。
短距離で乗るのは申し訳ないなあ・・・などいろいろ・・。
荻原浩の著作は、映画になった『明日の記憶』よりも上記の本や『オロロ畑でつかまえて』など、現代社会の問題を突きながらも笑えるもののほうがおもしろいし、救いがあると思います。
こちらの本を映画やドラマにしてほしい私です。
荻原さんも、青春時代をバブル期に過ごした方ですよね。
言われてみれば確かに組合という言葉を良く使っていると思います。
タクシーという業界は売上高に対する人件費が80%を超える事業です。うちの会社では数年前には97%を超えたこともあります。強い弱いはともかく、組合との付き合いがとても大切になります。業界の中で話していると、組合という単語を日常的に使いますから、WEB上の書き込みにも自然と多発するのだと思います。
それよりもなによりも、私のそんなくせに気づかれた音次郎さんがすごいと思います。
ちょうど今日、ここ数日の通勤電車の友だった『噂』を読了したところです。奥田英朗も然りですが、広告業界出身の作家は、プレゼン力があるのと、構成が巧みですね。荻原浩が気に入ったので、早速『神様から一言』を買ってきました。
>VEMさん、毎度ありがとうございます。
JALなどもそうですが、属人的な業界はユニオンの影響が大きいですよね。あまり気になさらないでくださいませ。