音次郎の夏炉冬扇

思ふこと考えること感じることを、徒然なるままに綴ります。

工藤を槙原が取材

2009-05-14 03:22:52 | スポーツ
先日の日曜でしたか、TBSのJスポとかいうスポーツ番組で、コメンテーターの槙原寛己が横浜ベイスターズの工藤公康を球場に訪ねてインタビューするという企画をやっていました。この二人は愛知県出身の同学年で、ティーンエイジャーの頃からお互いを知っています。最後には巨人でチームメイトになった関係でもありますから、つい興味深く観てしまいました。

1981年は春が大府の槙原、夏は名古屋電気(現・愛工大名電)の工藤と、愛知県の誇る二人の超高校級投手が甲子園を沸かせました。練習試合も含めたら高校3年間でもっとガンガン直接対決していたのかと思っていましたが、コレを読むと投げ合ったのは1度きりのようですね。

槙原は巨人のドラ1で入団、工藤もドラフト6位ですが、これは熊谷組に入るとみせかけて獲ったいわゆる根本マジックであり、実質1位待遇だったといいます。第一線に出てくるのは槙原が少し早かったですが、80年代は何といっても西武の黄金時代ですから、日本シリーズなどの大活躍により工藤も全国区の人気者でした。同郷出身の高卒同期ですから、プロ入りしてからも「工藤の成績は常にチェックしていた」と大いに意識していたのを槙原も認めています。現在のように交流戦もありませんでしたから、投げ合う舞台は日本シリーズだけです。二人の球歴を見ていくと、プロ15年目の1996年までは槙原が常に勝利数をリードしていましたが、翌年の97年シーズン終了時点に、通算149勝で遂に両者が並んだのです。

槙原は98年から長嶋監督の意向でストッパーに転向したため200勝に届きませんでしたが、「最後の完全試合男」(あの一茂がサードを守っていた試合でパーフェクトやったのは価値がある)であり、日本シリーズでは度々快投をみせ、球史に残る名投手だったことは疑いようがありません。93年のFAで中日に行っていたら良かったのかどうかはわからない。少なくともFA残留後の数年間は好成績でしたからね。

一方の工藤は、FAでダイエーに移ってからは三味線かどうかわかりませんが、無理せず隔年で成績を上げるマイペースぶりと、稀少なサウスポーというのを武器に常に高額契約を勝ち取り、平成の優勝請負人として君臨しました。そして三本柱(斎藤・槙原・桑田)が斜陽になった巨人から、2000年のFAで三顧の礼を尽くして招聘されました。巨人投手陣、特に高校時代から因縁のある槙原は心中穏やかでなかったでしょう。力の衰えた生え抜きスターがリリーフにまわされているのを尻目に、宿敵球団の元エースが入ってきて、良いポジションと破格の報酬を得ているわけですからね。

TVのインタビューにも微妙な緊張感が漂ってました。例えば西武黄金期やんちゃトリオの工藤・久信・清原の鼎談であれば、もっとくだけた同窓会的な雰囲気になるのでしょうが、工藤と槙原の場合はチームメイトであった時期はあれど、お互いを昔から強烈に意識してきたタメ同士、少なくとも画面からは「やあやあやあ」という馴れ合った感じは伝わってきませんで、そこに彼らの矜持が現れているようでむしろ好ましい。とても真面目なやりとりでした。

主に槙原が「222勝もして功なり遂げた大投手が、何故二軍で投げたり、中継ぎを受け容れたりできるのか?」と迫っていましたが、工藤の方は淡々と、「使ってもらえるだけで幸せ」と語り、最後に「体を壊さないで頑張ってください」と締めようとした槙原に対して、「体壊したら次の人(後進の若手という意味か)が出てくるだけですよ」と達観した風情で返していました。それでも46歳で新球(シュート)にチャレンジしたり、高校時代から変わらないフォームとリリースポイント、顔がぺたっと地面につくストレッチはたゆまぬトレーニングの賜物であり、若い頃から怪我に泣かされてきた槙原は心底羨ましそうな顔をしていました。スポーツの世界は現役が一番偉いのです。

槙原の方もトークの才能に恵まれていて、TVの世界で活躍しています。気さくな人柄で、現役時代から面倒見がよく後輩に慕われていたそうですからコーチもできるんでしょうが、弁舌さわやか、当意即妙で求められる役割を演じられるので、どちらかというとメディアに重宝される江川タイプなんでしょう。食うに困らない人材とみました。

それにしても、こういう企画はいいですね。恩讐の彼方へというか、色んなものが行間に滲み出てくるようでおじさんプロ野球ファンにとっては非常に感慨深い。普通の女子アナが通り一編でレポートすれば平板なものにしかならないでしょうが、中継ぎで奮闘する工藤の聞き手に槙原をもってくるという妙。こういうマッチングが編集機能と共にメディアに期待されているものだと思います。



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