ことばと学びと学校図書館etc.をめぐる足立正治の気まぐれなブログ

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コリン・ウィルソンはオカルティズムの代弁者ではなく、新しい「知」の伝道者だった

2013年12月15日 | マミム・メモ

 

 『アウトサイダー』や『オカルト』など、多くの著作で知られるイギリスの小説家で評論家でもあるコリン・ウィルソンさんが今月5日、82歳で亡くなった。ぼくよりちょうど10歳年上だ。
 30歳前後だった頃、「意識の進化(あるいは拡大)」をテーマとする彼の作品に興味をもって読んでいたぼくにとって、とりわけ印象深かったのは『賢者の石』(中村保男訳、創元推理文庫、1971)だった。SF小説ではあるが、主体と客体が統合されたダイナミックな実在を「直感」する意識のありようを求める姿勢に魅かれた。そして、小説の中で展開される著名な作曲家や指揮者に対する批評を読んで、ぼくの音楽に対する意識は大きく変わった。それまで敬遠していたブルックナーやマーラーを好んで聞くようになり、フルトヴェングラーのレコードもいろいろ買ってみた。
 1988年の秋、40歳代後半になったぼくがサンフランシスコ近郊に一年間滞在していたとき、よく出入りしていたCIIS (カリフォルニア統合学大学院California Institute of Integral Studies)でコリン・ウィルソンの講演とワークショップがあることを知り、懐かしい思いで参加した。
 その時のメモを帰国後に『甲南英語通信4』(1991)に寄稿していたのを探し出すことができたので、在りし日のコリン・ウィルソンさんを偲んで、ここに採録し、ぼくなりの哀悼の意を表わしたいと思います。(表記や字句を若干変更してあります)

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 等身大のコリン・ウィルソンは、でっぱったお腹からずりおちそうなズボンのために、どこかしまらない感じをうける英国紳士だった。楽天的でウィットに富んだ語り口と、中学時代にリンガフォンのレコードで聞いた懐かしいブリティッシュ・イングリッシュの響きにのって展開される合理的な論理。こうした彼の風貌と語りは、知的満足感と親近感と安堵感をあたえてくれはしたが、期待していた「超常」や「神秘」とはほど遠い感じがした。
 1988年10月10日と11日の二日間、サンフランシスコのCIIS (カリフォルニア統合学大学院California Institute of Integral Studies)で延べ11時間以上におよんだ講演とワークショップで、コリン・ウィルソンは、とかく東洋思想の範疇に押し込められがちな意識の問題を西洋の言葉でわかりやすく語った。
 これまでの彼の著作になかった目新しいことの一つは、その日はまだ出版されていなかった"Beyond the Occult”(Carroll & Graf, 1989、邦訳『超オカルト』)でおこなったように意識のレベルを8つに分けて説明したこと。1.夢の中の意識、2.夢から覚めたときの意識、3.退屈な日常的な意識、4.何かものごとに打ち込んでいるときの意識、5.春の朝の気分が浮き浮きするときの意識(至高体験peak experience)、6.至高体験が持続している状態、7.時間と空間を超えて知識やイメージがリアリティをもつ状態(アーノルド・トインビーに歴史のリアリティをあたえたと『オカルト』で説明しているFaculty Xが働いている状態)、8.主観と客観の区別がつかず「自分」がなくなる状態(グルジェフやウスペンスキーがとりあげた意識。cf. Ouspensky “A New Model of the Universe”、邦訳『新しい宇宙像』)
 これら8つのレベルは順を追って段階的に達するものではなく、われわれは意図せずにいろんな意識の状態を経験している。もしも、何もかもがお互いに絡み合って時間と空間を超えてつながっているという高いレベルの意識を人々が意識的に経験するようになれば、大衆が文字を使えるようになって以来の大きな意識革命を人類は経験することになるだろうと、ウィルソンは熱っぽく語った。これらの意識の状態は右脳と左脳の関係によって生じるので、意識状態を高いレベルに保つには左脳の仕事に明かりを灯し、それにリアリティをあたえる右脳の働きを活発にすること。それには、ライヒ式の呼吸法とユングのアクティブ・イマジネーション(Active Imagination)を組み合わせた簡単な方法を毎晩寝る前の短い時間試みるのがいいと勧めた。
 手にもったペンとか顔の筋肉とかに強く意識を集中して息をいっぱい吸い込み、吐くときはエネルギーをからだの隅々にまで(とくに生殖器に)行きわたらせるように”out, down, through”と声に出して言い聞かせながらやる。これを繰り返して、しだいにからだをリラックスさせ、眠ってしまいそうになるところでアクティブ・イマジネーションをはじめる。ワークショップでは、いくつもの扉を開けながら暗いところや明るいところ、あるいはエレベーターでいろんな階の部屋へ行くイメージと、からだがどんどん上の方に浮いて宇宙の彼方まで行ってしまうイメージを使った。ぼくは、後の浮かぶイメージがとても気持ちがよかった。呼吸については、息を吐くごとにからだが溶けてゆき、からだ全体に気が充満してくる感じだった。
 ウィルソンは、左脳の「意志」によって右脳の働きに「集中」することを強調して、大げさな感じを受けたが、何気ないことばやふと思ったことが右脳に影響をあたえることや、アブラハム・マズローの学生たちが至高体験について思ったり話したりしただけで常にそれを経験できるようになった(“The Essential Colin Wilson” p.252, 264)ことなど、いろんな事例がウィルソンの著作には紹介されているので、それらを上手く利用する手もあるだろう。

ETV特集 コリン・ウィルソン 立花隆~未知への対話~(2009)
Colin Wilson - Beyond the Occult 1/5 
Colin Wilson - Beyond the Occult 2/5
Colin Wilson - Beyond the Occult 3/5
Colin Wilson - Beyond the Occult 4/5
Colin Wilson - Beyond the Occult 5/5

The Essential - Colin Wilson

賢者の石 (創元推理文庫 641-1)
コリン・ウィルソン
東京創元社

Beyond the Occult
Colin Wilson
Carroll & Graf Pub
新しい宇宙像〈上〉
ウスペンスキー
コスモスライブラリー

 

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