寿司屋デビュー

それまでは寿司とは高級で高額というイメージしか持ち合わせていなかった。
外食はほとんどなかったんで、行ってもラーメン屋くらいだった。
近所に寿司屋があり、誰かの誕生日などのイベント時に奮発して注文する程度。
1人前じゃ足りないんで2人前を頼むからいつも「並」。
一度くらいは寿司屋で直接食ってみたいなと思っていた。
就職して給料もらって、一度オヤジを連れて行ったことがあったけど。
さすがに2人とも気を使って「並」。

結婚して盛岡に転勤になってアパート暮らしだった。
そのアパートの隣には寿司屋があった。
いつかは行ってみたいなと思いつつ、どうも高価の感が拭えない。

連休の前日、仕事が終って実家に帰る予定だった。
バイクでアパートに帰ると車の前によその車が置かれていた。
どこの車だろうと。
ドアはロックされてるし出るに出られない。
クラクション鳴らしたら他のアパートの住民が顔を出した。
こりゃうるさいって言われるなとしばらく待っていたが運転手が来ない。

1時間待ったけど誰も来ないんでしょうがないから飯にしようと。
途中でなんか食う予定だったんで晩飯がない。
そんじゃ思い切って寿司屋に行こうと。
恐る恐るドアを開けると、「らっしゃい～！」と威勢のいい声。
カウンターにかみさんと座り、顔を見合わせ目配せ。

え～いこの際どうにでもなれと「上2人前」。
回転ずしなど一般的じゃない時代。
頭の中では並で700円くらいだろうから上なら1500円もするんだろうかと。
小さなまな板のような器を目の前に置かれ、はらはらドキドキ。

お待ち！と出された巻物。
キュウリ巻きやカンピョウ巻きくらいが関の山だったけど、出されたのは鉄火巻き。
う・うまい

次に出てきたマグロを見て驚いた。
なんと15cmはあろうかというビッグサイズ。
でけー
それから20cmほどもあるお頭付きの生エビ。
こ・これエビですか？と聞くと、それちょっと小さかったかもと大将。
今日はでかいの出ちゃったからと。
数の子だのヒラメだの、どれもこれもやたらとでかい。
しゃりがつぶれて小さくなろほどネタがでかい。
後から聞いたんだが、そこはネタのでかさが売りの店。

かみさんと顔を見合わせて、こりゃいくら取られるんだと。
万超えちゃうんじゃないかと心配でゆっくり食っていられない。
小声で「おあいそ」
出されたレシートには「2200円」桁見まちがえたかと思った。

安い。

配達もしますよと。
メニューパンフ渡されて、よく見るとセットもある。
3.5人前2800円スープ茶碗蒸付き
おお！！
それが誰か遊びに来たときの定番になった。

秋田に帰って近所の菊寿司の常連となったのはもっとずっと後の話だが。