数学教師の書斎

自分が一番落ち着く時間、それは書斎の椅子に座って、机に向かう一時です。

読み進まない本

2020-08-11 21:45:06 | 読書
 日頃、読んでいてもなかなか読み進まない本んがあります。最近の私では、この本です。
 
 鶴見俊輔の右の本です。昔から気になっていた哲学者ですが、その盟友小田実との共著で、小田実の文章も入っていますが、小田実亡き後に、小田が生きていたらという
想定で、鶴見が小田との対話を考えたりした内容ですが、なぜか読み進められない。

 小田実に関してはベ平連の創始者で、その活動は私の少し上の世代、団塊の世代に通づるものがあります。小田実は、予備校の代ゼミでも講義を行っていて、寮長もしていたとか。そんな経験を書いたのが、上記の左の本です。私が買ったのが高校教員になったばかりの頃の昭和59年です。書いてあることも、わかるのですが、なぜか印象が薄い。どうしてなのか?優秀な人が上から目線で書くと読み手は引いてしまうのか、そんなことを考えてしまう自分が少し寂しいです。

 逆に、一気に読み進めて、実は、書店で立ち読みで全部読み切った本が1冊あります。それが、下の本です。



 東京に行った際に、いつものように神田神保町の三省堂に入って、何気なく新書コーナーで手に取った本です。第一印象が素直に書かれた本で、素朴な大学生が研究に打ち込んでいく過程をこんなに素直に書いてある本がお目にかかったことがないという気持ちで、読みながら、頑張れと言いたくなるそんな気持ちで一気に立ち読みで読んでしまった本ですが、読み終わって買った本としては初めてです。こんな気持ちにさせてくれた本というだけでなく、これから大学生になる高校生や大学生にも是非読んでほしい本です。」特に優秀ではないと劣等感を抱いている大学生などに何か光を与えてくれる本です。自分に振り返って、今悩んでいる社会人でも、自分を変えるきっかけになるヒントがこの実話にはあるかもしれません。

 この作者の指導教授が、実は以前紹介した、物理学者の佐藤文隆の

にも登場する杉本太一郎教授です。京大の工学部に電子工学科ができた時の一期生らしいです。この時の電子工学科の入試の最低点は医学部を上回ったとか。

 受験も世相を反映すると言われますが、学部ごとの難易度に関しては、時代とともに変わるものです。長く受験に携わってきて、ふと自分が話す内容に若い先生との認識のズレを感じたりするのも、学部への印象度などが挙げられます。私の時代で言えば、京大は理系は900点満点で、問題も共通なので、学部ごと、また工学部と農学部では学科ごとに最低点が公開されていて、単純に難易度がわかりました。今ほど薬学部も難しくなかったし、農学部に至っては京大に入りたいから農学部を受けたという知り合いもいるくらい最低点は低かったようです。理学部で550点くらいで、農学部は450点くらいだった印象があります。ちなみに医学部は600点を超えていて、工学部は560点くらいから450点くらいまで、学科に難易度の差がありました。理学部ではほとんどの学生が物理、数学志望で、湯川秀樹などのノーベル賞受賞の影響や広中平祐フィールズ賞受賞の影響が強かったのでないかと思います。
 
 


数学の授業

2020-08-11 21:45:06 | 数学 教育
 予備校の授業の印象と言えば、テキストの問題を解説していくことが中心というか、それがすべてのような印象です。高校でも、今の時期は夏期講習期間として、数学では、タイトルはいろいろあるものの、形式は問題を集めた冊子の問題解答解説がほとんどです。そんなものかなと思いながらも、経験を積むにしたがって、その形式に疑問を感じることが多くなってきました。

 ある時期、1990年代頃からでしょうか、母校京大などでは高校生向けや一般向けの数学講座が開かれて、夏休みや冬休みにそれに参加してきました。当時の上野健爾教授によるボランティアともいえる手弁当での講座でした。余りにも受験的な高校数学教育への警鐘を鳴らす意味もあったのかと感じるとともに、高校数学教育に携わる者として、大きなショックを受けるとともに、数学教師としての自らのあるべき姿を考えさせられました。

 そんな縁もあって、その後、勤めていた高校へ上野先生が講演に来ていただき、生徒向けに貴重な講演をしていただきました。当時、教育基本法の改定の時期で数学のみならず、教育全般にかかわっての先生の講演内容でした。当日は県教育委員会からもたくさん参加して、会場の体育館は満席の盛況でした。ある先輩の先生は、「よく上野先生が来てくれたなあ」と感心していました。先生の気さくな性格に便乗して、京大での数学講座に参加した際に、無礼にもエレベータの中でお願いしたことをいまだに恥ずかしく思い出しますが、それにつけても数学者だけでなく、教育者としての上野先生の姿勢には頭を下げる以外ありません。学生時代は上野先生の講義は受けたことはないのですが、知り合いの数学者に聞いても、上野先生は秀才だといわれていますが、代数幾何の分野で、日本で最初にフィールズ賞を受賞した小平邦彦先生の小平スクールの系譜にあり、同じ代数幾何の数学者の飯高茂先生などとともに、世界的な代数幾何学者としてその名は世界に知られています。私の大学時代には直接先生の講義を受ける機会はありませんでしたが、たぶんそのころにちょうど京大に来られたとは思います。
 実は、飯高茂先生にも以前、地元の三重県で高校の数学教員向けに講演をしていただいたことがあります。1990年頃の当時、三重県の高等学校数学教育研究会で飯高先生の言講演を依頼して、講演のテーマをどうするかで研究会で話していて、ある教員がコンピュータの話をと提案したのですが、せっかく代数幾何の世界的な数学者に来ていたくというのだから、先生の専門に関して、高校教員にもわかる範囲での代数幾何の分類につての話をしていただくことになりました。土曜日の午後に講演していただき、日曜は、お前が先生を松阪でも案内しろと言われ、本居記念館を案内した覚えがあります。先生を案内すると数学の話題になった時、ついていけないからお前がやれと言われ、何とも言えない気分でした。それでも、素朴な気持ちで、いろいろ先生にお話しする中で、短い時間の中でも貴重なお話をきかせていただきました。その際、少し前に発刊された岩波の基礎数学講座の「代数幾何」の本にサインをして頂きました。先生の書かれた日付が1日間違っていたので、それを指摘したら、昨日の日付に1日足したが、昨日の日付そのものが間違っていましたという先生の言葉に思わず吹き出してしまいました。これが当時のサインです。



 さて、たとえ高校生向けの講座であっても、講師の先生(数学者)は、あるテーマに従って、数回分のまとまった講義をして、講義録も配布するなど、高校や予備校での数学の講義とは一線を画すというものです。そこには、テーマに従って、数学のストーリーがあり、それを聞きながら、頭で考えながら、書きながらの数学のシャワーを浴びている状況です。終了後のすっきり感と見通しの良い道があることの実感は特別な感覚です。高校や予備校での数学の授業でもそんなストーリーのある講義をしてみたいと思いがだんだんと強くなってきました。

 最近の大学の講義では、講義録もウエブ上で公開されたりして、私の大学時代とは違って、非常に親切になって来ています。パソコンで原稿を書くようになり、Texで書くことで、きれいに早く原稿が書けるようになったのも、その大きな要因といえます。私も遅ればせながら1999年から本格的にTexで原稿を書くことになりましたが、もう20年以上になりますね。その割には進歩が少ないのが残念です。

 実際の授業ではなかなか講義録を作るまでは出来ていませんが、春休みや夏休みの特別講座では、その講義録を作るようにしています。上記のこれまでの経験等を踏まえ、ストーリーのある講義を心がけ、問題を解くことは数学的な概念を理解するためのものであるという基本的なスタンスと大切にして、問題演習のための問題演習にならないように心掛けています。

 でも普段の予備校の講義では、なかなか講義録を作る余裕もないのですが、気になった事柄に関してはノートに問題を解く中で、別途調べたりしながら、原稿を書いたりしています。講義を一つするたびに何かしら気になる数学的な事柄があり、そのことは大事にして、それが自らの課題と思っています。

 昨日の講義のために意識していたのが、数学Ⅲの教科書にある2次曲線の内容で、教科書では配列の関係で微分は使えないという制約のため、2次曲線の接線の公式が証明されずに「知られている」という、高校の数学の教科書で逃げに使われる言葉で記述されています。私は、そこで、合成関数の微分をその場で生徒に証明して、そこから接線の方程式を導くことにしていますが、その合成関数の微分の公式の証明にΔz/Δx=(Δz/Δy)×(Δy/Δx)を使うと簡単に証明できますが、そこでは、Δy=0の場合のことが欠けていて厳密性に欠けるので、どうすればいいのか、いろいろ微積分の教科書を調べてみます。こんな状況はよくあり、こんな時が一番楽しい時間でもあります。微積分の教科書もたくさんある中で、いろいろ調べてみると数学者の思いがそこには反映されていたりして、それを垣間見ることでの楽しさもあります。今回調べた本で一番親切な解説だったのが、以下の斎藤先生の本です。
特にこの本では、この合成関数の微分公式の証明にランダウの記号が使われていたりして、分かりやすく、いろいろ工夫がある本です。今後もお世話になる本だと思います。
また、一様連続の説明のところも分かりやすく、このところカバンに入れて持ち歩いています。また、空間ベクトルの所で、外積や平面の方程式などを生徒に説明するときには、大学1年の時の教科書で、滝沢精二先生の「最新 代数学と幾何学」をいつも参考にしています。
 右側が軽装版の大学1回生の時の本ですが、背表紙が擦り切れて、ボンドで補修していますが、使いにくく、左の上製本の同じ本を使っています。この本では、付録の記述に参考にさせてもらうことも多く、代数学の基本定理の証明や対称式、交代式のことなど、高校の数学教育でも言及することが多い内容に関して、参考になることが多くあります。また、空間における直線の方程式の説明でも、教員として参考になることがあり、いつも座右において参考にさせていただいています。当時1回生の時、数学2という科目での線形代数の授業だったのですが、この教科書を使って、担当の先生は、この本の著者と同じ微分幾何が専門の松本誠教授でしたが、非常に誠実な先生で板書も綺麗で、たまに話していただく雑談では矢野健太郎の話が今も頭に残っています。