mardidupin

記憶の欠片あるいは幻影の中の真実。

《秋の虫たち》

2014-09-09 07:12:41 | 〈薄紅の部屋 (和歌)〉
浅茅生の秋の夕暮鳴く虫はわがごと下に物や悲しき/兼盛

蟲の音ぞ草むらごとにすだくなる我もこのよはなかぬばかりぞ/好忠

人は来ず風に木の葉は散りはてて夜な夜な蟲は声弱るなり/好忠

身の憂きも誰かはつらき浅茅生とうらみても鳴く蟲の聲かな /俊成

あき風に穗ずゑ波よる苅萱の下葉に虫の聲亂るなり /西行

あきの夜に聲も惜しまず鳴く虫を露まどろまず聞きあかすかな /西行

そこはかと心にそめぬ下草も枯るればよわる蟲のこゑごゑ /定家

七夕の手だまもゆらにおるはたををりしもならふ虫の声かな /定家

庭ふかきまがきの野辺の虫のねを月と風との下にきくかな /良経

庭草の露の数そふむらさめに夜ふかき蟲のこゑぞかなしき /実朝

我が待ちし秋は来ぬらしこの夕べ草むら毎に蟲の聲する /良寛

ともしびのきえていづこに行くやらん草むら毎に蟲のこゑする /良寛

我が庵は君が裏畑夕さればまがきのすだく蟲のこゑごゑ /良寛

草まくら薄の本の露しげみ袂の上に蟲ぞなくなる /子規

もろともに涙あらそふ心地して枕に絶えぬむしのこゑかな /一葉

夕されば荻のうは葉にふく風のそよ音にたてて虫も鳴なり /一葉

来ん人もいまは待たじの雨の夜になのりもつらき虫の音ぞする /一葉

なきよわる庭の虫のねたえだえに夜はあけがたが悲しかりけり /一葉

有明の月かげ残る庭草の露にわかるる虫の声かな /一葉

名を知らぬ末枯草の穗に茂き甍のうへに秋の虫鳴く /節

雨晴れの石のあはひの夕のいろ静けき土に蟲なけるかも /憲吉

蟲が来てランプに鳴きぬ夜の室の古き畳に寝反れる子どもら /赤彦

山にしてはや秋らしく鳴く蟲を抱きてやりたき宵ごころかな /赤彦

山にして蟲なくなべに峡の底家も沈みて行く心地かも /赤彦

ゆふぐれて山をくだれば蟲のこゑ道もせにして頻りに鳴くも /憲吉

蟲野来てうしろになりし水音かな /亞浪

耳は耳目は目からだがばらばらに離れて虫をきいてをるものか /牧水

踞して友の額に微光や虫を聞く /石鼎

ほそぼそとまた二ところ庵の虫 /石鼎

虫なくや我れと湯を呑む影法師 /普羅

おこたりて草になりゆくひろにはのいりひまだらにむしのねぞする /八一

はてもなき大地の月夜そことなく浮きただよへる虫の声かな/晶子

同じ音に同じところや夜々の虫 /石鼎

ほそほそととほりて鳴ける蟲が音はわがまへにしてしまらくやみぬ /茂吉

ほそほそと土に沁みいる蟲がねは月あかき夜にたゆることなし /茂吉

裏戸出でてもとほり聞けば虫繁し納屋の中にも一つ鳴きたり /耕平

磯波の音もとだえし夜のしづみ洋燈の笠にとまる虫あり /耕平

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