mardidupin

記憶の欠片あるいは幻影の中の真実。

《かもめ》

2014-10-13 03:13:46 | 〈からくり時計の小部屋〉
          

おいらが恋した女は
港町のあばずれ いつも
ドアを開けたままで着替えして
男達の気を引く浮気女
かもめ かもめ 笑っておくれ


おいらは文無しマドロス
バラ買うゼニも無い だから
ドアの前を行ったり来たりしても
恋した女じゃ手も出ない
かもめ かもめ 笑っておくれ
                    




ところがある夜突然
成り上がり男が一人
バラを両手一杯に抱きかかえて
ほろ酔いで女のドアをたたいた
かもめ かもめ 笑っておくれ


女のまくらもとにゃバラの
花がにおって 二人
抱き合ってベッドにいるのかと思うと
おいらの心はまっくらくら
かもめ かもめ 笑っておくれ
                    

         


おいらは恋した女の
まくらもとに飛び込んで ふいに
ジャックナイフをふりかざして
女の胸に赤いバラの贈り物
かもめ かもめ 笑っておくれ


おいらが贈ったバラは
港町にお似合いだよ たった
一輪ざしで色あせる
悲しい恋の血のバラだもの
かもめ かもめ 笑っておくれ


かもめ かもめ さよなら あばよ










浅川マキ
(作詞:寺山修司)

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《薔薇の花びらであれば》

2014-08-26 06:31:12 | 〈からくり時計の小部屋〉
         
Жил-был художник один,
Домик имел и холсты.
Но он актрису любил,
Ту, что любила цветы.
Он тогда продал свой дом,
Продал картины и кров
И на все деньги купил
Целое море цветов.

Миллион, миллион,
Миллион алых роз
Из окна, из окна,
Из окна видишь ты.
Кто влюблён, кто влюблён,
Кто влюблён, и всерьёз,
Свою жизнь для
тебя
Превратит в цветы.

Утром ты встанешь у окна,
Может, сошла ты с ума, -
Как продолжение сна,
Площадь цветами полна.
Похолодеет душа:
Что за богач здесь чудит?
А под окном, чуть дыша,
Бедный художник стоит.

Миллион, миллион,
Миллион алых роз
Из окна, из окна,
Из окна видишь ты.

Кто влюблён, кто влюблён,
Кто влюблён и всерьёз,
Свою жизнь для тебя
Превратит в цветы.

Встреча была коротка,
В ночь её поезд увёз,
Но в её жизни была
Песня безумия роз.
Прожил художник один,
Много он бед перенёс,
Но в его жизни была
Целая площадь цветов.

Миллион, миллион,
Миллион алых роз
Из окна, из окна,
Из окна видишь ты.
Кто влюблён, кто влюблён,
Кто влюблён и всерьёз,
Свою жизнь для тебя
Превратит в цветы.


Миллион алых роз
(Р.Паулс, А.Александров)より





          
【薔薇の花びらであれば】




俺は親父の遺してくれたアトリエ付きの家で暮らしていた

星と花の絵を画いて
街へ売りに行って
なんとか毎日をやり過ごしていた

彼女はその絵を時々買って行った

選びもせず無造作にカバンに入れて

若い女性がそうであるように

彼女も紅い薔薇の絵を好んだ


しだいに彼女の好きそうな紅い薔薇だけを探し画いた

できあがると街へ売りに行った

その日は十枚のスケッチと五枚の油絵と額入りの女の絵を並べて彼女が通るのを待っていた

星が輝くころになり
彼女は数人の若い男に囲まれて俺の前を通り過ぎた

いつもより美しい顔の彼女だった


その時に気がつけば良かった
  彼女が女優である事を

いつもの笑顔も仮面だという事を


あの安っぽランプの下で笑う娼婦にも

赤い絨毯の敷かれた階段で微笑む貴婦人にも

そして泣き叫ぶ奴隷女にも

全てが彼女の顔であり

彼女の真実の姿ではないのだと






その日は雨が降っていた

傘があっても無駄なように酷く激しい雨だった

俺は街へ行くのを諦めて

記憶から彼女の輪郭を取り出して画いていた



雨が強さ増しアトリエの硝子窓を叩くので
雨戸を閉めようとしたとき


雨の中に彼女がいた

全裸にちかい身なりで佇んでいた

俺は彼女を家に入れココアとバスタオルを与えた


女は黙っていた
  ただ泣いていた

俺にはわかった
  この女は欲しいものを手に入れるために自分を

自分の体を提供したのだ


今 此処に居る女は薔薇ではない
  棘は削られ花びらに雫もなく枯れようとしている




女が口をひらいた
  「わたしを描いてください」


俺はキャンバスに女を映した

この哀しみに沈んだ女は
  俺の心を揺らすことはなかった


女の仮面は壊れてはいない
  女は今も

哀しい女を演じている女優なのだ








女は絵が完成すると出て行った

  女優に戻るために




・・・・・・・・・・・・・・


優しい絵描きさん!

わたしは貴方のアトリエに帰って来ます

この花びらをすべて散らしたら




わたしは
  いつも貴方の前を通っていました


ずっと前から





・・・・・・・・・・

一部画像につき
原画BIackMagicさんより

《白い傘》

2014-07-31 03:56:37 | 〈からくり時計の小部屋〉
                    
僕はたかが愛に迷い
  そしてたかが愛に立ちどまらされても
捨ててしまえない
  たかが愛
傷つきあったさよならだけが
  形に残るものだとしても
たしかにあった
  あのときめきが
いつか二人を癒してくれる
あぁ この果てない空の下で
独りでも寂しくない人がいるだろうか


たかが愛(抜粋)
詞:中島みゆき








俺は、その言葉を待ち構えていた
てぐすねひいて

「戻って来られたら連絡するね」

未練たっぷりの甘い台詞を並べたてた後で女が言った


特に鎌倉を選んだわけではなかった
紫陽花を見たいという女の希望を受け入れただけの事
 それが東慶寺だった


映画のように雨が降り白い傘で顔を隠した女は別れ道を歩いていった


女の思いが錯覚を起こし妄想に変わったのだろう

俺を穽に嵌まらせたかったのか

たかが愛に佇んだのか

寂しさを演ずるには十分過ぎる美しい女優だった




その後、女は
  この世
の幸福を手に入れ幻想のなかで死んだらしい







二年が過ぎた

俺に
  その時の傷痕はない

俺のなかには何年もまえから俺の女が棲みついていて
時折
  狂気の如く暴れ深い蛇の痕跡を残す

愛など受け入れない魂が蝕まれて崩れていく肉体を待っているのだ


他の傷などかすり傷なのだろう


二年どころか白い傘を見送る時間に消えていた








今宵は月が綺麗だ
・・・・・・・・・・・・・・



画像:一部@BIackMagicさんより

《雨の鬼灯》

2014-07-10 22:34:24 | 〈からくり時計の小部屋〉
うたたねの唇にある鬼灯かな/鷹女


鬼灯は暮れてなほ朱のたしかなり/貞





【四万六千日のご縁日】
雷除の実を抱き
はぐれた人を探す
二度と逢えなくなる気がして
裏門を抜けた。
雨が強くなってきた。


あの日も雨だった。
記憶が色づいてきた。同じ事の繰り返しになるのか。
次々に開く傘が邪魔だった。

このたくさんの傘から出られなくなった。


雨の日の鬼灯市とは人が消えていくらしい。


そして今年も雨になった…

《鬼灯》

2014-07-10 05:02:53 | 〈からくり時計の小部屋〉
陽がとどけば草のなかにてほほづきの赤さ/山頭火


染め分けて鬼灯は夜のものならず/かな女





鬼灯は時おり違った表情を見せる。
「雨の日に鬼灯の数を数えてはいけませんよ。」
言われて、
人差し指が止まった。
やっと数を覚えたばかりの子どもの頃の事で庭の赤く染まった鬼灯の実を数えていた。
「雨の鬼灯は恐いのですよ。数違うと大切なものを失いますから」
笑った母の顔が白狐に見えた。