mardidupin

記憶の欠片あるいは幻影の中の真実。

《紅葉》

2014-09-30 05:23:41 | 〈薄紅の部屋 (和歌)〉
小倉山しぐるる頃のあさなあさな昨日はうすき四方のもみぢ葉 /定家

もみぢ葉を今日は猶見む暮れぬとも小倉の山の名にはさはらじ /能宣

昨日より今日はまされるもみぢ葉の明日の色をば見でや止みなん /恵慶

今よりは紅葉のもとに宿りせじおしむに旅の日数へぬべし /恵慶

散りぬべき山の紅葉を秋霧のやすくも見せず立隠すらん /貫之

秋の夜に雨と聞えて降る物は風にしたがふ紅葉なりけり /貫之

朝まだき嵐の山の寒ければ紅葉の錦着ぬ人ぞなき /公任

秋霧の峰にも尾にもたつ山は紅葉の錦たまらざりけり /能宣

初しぐれ降るほどもなくしもとゆふ葛城山は色づきにけり /法親王覚性

おぼろげの色とや人の思ふらん小倉の山をてらすもみぢ葉 /道命法師

山姫に千重のにしきを手向けても散るもみぢ葉をいかでとどめむ /顕輔

もみぢ葉に月のひかりをさしそへてこれや赤地のにしきなるらん /後白河院

山おろしに浦づたひするもみぢかないかがはすべき須磨の関守 /藤原実定

もみぢ葉を関守る神に手向けおきて逢坂山を過ぐるこがらし /藤原実守

もみぢ葉のみなぐれなゐに散りしけば名のみなりけり白川の関 /平親宗

みやこにはまだ青葉にて見しかどももみぢ散りしく白川の関 /頼政

さざ波や比良の高嶺の山おろしもみぢをうみにのものとなしつる /刑部範兼

秋といへば岩田の小野の柞原しぐれも待たずもみぢしにけり /覚盛法師

けふ見れば嵐の山は大井河もみぢ吹きおろす名にこそありけれ /俊恵

大井河流れて落つるもみぢかなさそふは峯のあらしのみかは /道因法師

いまぞ知る手向けの山はもみぢ葉の幣と散りかふ名にこそありけれ /清輔

竜田山ふもとの里は遠けれどあらしのつてにもみぢをぞ見る /祝部成仲

吹きみだる柞が原を見わたせば色なき風ももみぢしにけり /賀茂成保

秋の田にもみぢ散りける山里をこともおろかに思ひけるかな /俊頼

もみぢ葉の散りゆくかたを尋ぬれば秋もあらしの声のみぞする /崇徳院

秋くれてふかき紅葉は山ひめのそめける色のかざりなりけり /定家

いろいろに紅葉をそむる衣手もあきのくれゆくつまと見ゆらむ /定家

くれてゆく秋も山地の見えぬまでちりかひくもれみねのもみぢば /定家

山姫のぬさの追風吹きかさねちひろのうみにあきのもみぢ葉 /定家

ま草刈る荒野にはあれど黄葉の過ぎにし君が形見とぞ来し /人麻呂

秋山の黄葉を茂み惑ひぬる妹を求めむ山道知らずも /人麻呂

秋山に散らふ黄葉しましくはな散り乱れそ妹があたり見む /人麻呂

経もなく緯も定めず娘子らが織る黄葉に霜な降りそね /大津皇子

秋山にもみつ木の葉のうつりなばさらにや秋を見まく欲りせむ /山前王

味酒三輪の社の山照らす秋の黄葉の散らまく惜しも /長屋王

しぐれの雨間なくし降れば御笠山木末あまねく色づきにけり /大伴稲公

大君の御笠の山の黄葉は今日のしぐれに散りか過ぎなむ /家持

雨隠り心いぶせみ出で見れば春日の山は色づきにけり /家持

春日野にしぐれ降る見ゆ明日よりは黄葉かざさむ高円の山> /藤原八束

雲の上に鳴きつる雁の寒きなへ萩の下葉はもみちぬるかも /高橋安麻呂

今朝鳴きて行きし雁が音寒みかもこの野の浅茅色づきにける /安倍虫麻呂

手折らずて散りなば惜しと我が思ひし秋の黄葉をかざしつるかも /橘奈良麻呂

黄葉を散らすしぐれに濡れて来て君が黄葉をかざしつるかも /久米女王

めづらしと我が思ふ君は秋山の初黄葉に似てこそありけれ /長忌寸娘

奈良山の嶺の黄葉取れば散るしぐれの雨し間なく降るらし /犬養吉男

黄葉を散らまく惜しみ手折り来て今夜かざしつ何か思はむ /犬養持男

あしひきの山の黄葉今日もか浮かび行くらむ山川の瀬に /大伴書持

奈良山をにほはす黄葉手折り来て今夜かざしつ散らば散るとも /三手代人名

露霜にあへる黄葉を手折り来て妹はかざしつ後は散るとも /秦許遍麻呂

十月しぐれにあへる黄葉の吹かば散りなむ風のまにまに  /大伴池主

黄葉の過ぎまく惜しみ思ふどち遊ぶ今夜は明けずもあらむか /家持


ちはやぶる神なび山のもみぢばに思ひはかけじうつろふものを /作者不明

秋風の吹きにし日より音羽山みねのこずゑもいろづきにけり /貫之

しら露の色はひとつをいかにして秋のこのはをちぢにそむらん /敏行

しら露も時雨もいたくもる山は下葉のこらずいろづきにけり /貫之

雨ふれど露ももらじを笠取の山はいかでかもみぢそめけん /元方

あめふれば笠取山のもみじばは行きかふ人の袖さへぞてる /忠岑

竜田河もみぢ乱れてながるめりわたらば錦中やたえなむ /作者不明

竜田川もみぢばながる神なびのみむろの山に時雨ふるらし /作者不明

わび人のわきてたちよる木のもとは頼むかげなく紅葉ちりけり /遍昭

もみぢ葉のながれてとまるみなとには紅深き浪やたつらん /素性

風ふけば落つるもみぢば水きよみちらぬ影さへ底に見えつつ /躬恒

立ちとまり見てを渡らんもみぢばは雨とふるとも水はまさらじ /躬恒

このたびは幣もとりあへず たむけ山もみぢの錦 神のまにまに /道真

遅く早く色づく山のもみぢ葉は遅れ先立つ露や置くらん /元方

かく許もみづる色の濃ければや錦たつたの山といふらむ /友則

葦引の山の山守もる山も紅葉させする秋は来にけり /貫之

唐錦たつたの山も今よりは紅葉ながらに常磐ならなん /貫之

唐衣たつたの山のもみぢ葉ははた物もなき錦なりけり /貫之

幾木ともえこそ見わかね秋山の紅葉の錦よそに立てれば /忠岑

秋風のうち吹からに山も野もなべて錦に織りかへす哉 /作者不明

などさらに秋かと問はむ韓錦竜田の山の紅葉するよを /作者不明

玉かづら葛木山のもみぢ葉は面影にのみ見えわたる哉 /貫之

鏡山山かきくもりしぐるれど紅葉あかくぞ秋は見えける /素性

ひぐらしの山路を暗み小夜ふけて木の末ごとに紅葉照らせる /道真

《秋の情景》

2014-09-27 01:42:59 | 〈薄紅の部屋 (和歌)〉
押し照れる月夜さやけみ鳥網張る秋田の面に霧立ちわたる /節

霧立つや大沼近き宮柱 碧梧桐

群山の尾ぬれに秀でし相馬嶺ゆいづ湧き出でし天つ霧>かも /節

久方の天つ狹霧を吐き落す相馬が嶽は恐ろしく見ゆ /節

はり原の狹霧は雨にあらなくに衣はいたくぬれにけるかも /節

秋の霧身をまく時にくろ米の飯のにほひをおもひ合せつ /晶子

江上に月のぼりたる夜霧かな /蛇笏

杣の戸をしめきる霧の去来かな /蛇笏

さ夜ふかき霧の奥べに照らふもの月の下びに水かあるらし /赤彦

霧明りかくおぼろなる土の上にとほく別るる人やあるらん /赤彦

この朝け障子ばりする縁先の石のはだへにさ霧ふりつつ /赤彦

何の木か節細き木の木立より大文字山につづく霧かな /晶子

霧はるるかど田の上のいなかたのあらはれわたる秋の夕ぐれ /経信

鶉なく真野の入江の浜風に尾花なみよる秋の夕暮れ /俊頼

吹きわたる風も哀をひとしめていづくも凄き秋の夕ぐれ /西行

なにとなくものがなしくぞ見え渡る鳥羽田の面の秋の夕暮 /西行

ながむれば袖にも露ぞこぼれける外面の小田の秋の夕暮 /西行

心なき身にもあはれは知られけり鴫たつ澤の秋の夕ぐれ /西行

篠原や霧にまがひて鳴く鹿の聲かすかなる秋の夕ぐれ /西行

風の音にもの思ふわれか色染めて身にしみわたる秋の夕暮 /西行

さびしさはその色としもなかりけりまき立つ山の秋の夕暮 /寂蓮

村雨の露もまだひぬまきの葉に霧たちのぼる秋のゆふぐれ /寂蓮

詠れば衣手涼し久方の天の河原の秋の夕暮 /式子内親王

ふきむすぶ露も涙も一つにてをさへがたきは秋の夕暮 /式子内親王

蟲の音もまがきの鹿も一つにて涙みだるる秋の夕暮 /式子内親王

露深き野辺をあはれと思ひしに蟲にとはるる秋の夕暮 /式子内親王

見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕ぐれ /定家

虫のねにはかなき露のむすぼほれところもわかぬ秋のゆふぐれ /定家

うらめしやよしなきむしのこゑにさへひとわびさする秋のゆふぐれ /定家

うづら鳴くまくずが原のつゆわけて袖にくだくる秋の夕ぐれ /定家

年毎のつらさと思へどうとまれぬただ今日あすの秋の夕ぐれ /定家

いくかへりなれてもかなし荻原やすゑこすかぜの秋のゆふぐれ /定家

さを鹿のなくねのかぎりつくしても いかが心に秋のゆふぐれ /定家

露おつる楢の葉あらく吹く風になみだあらそふ秋のゆふぐれ /定家

これもまた忘れじものを立ちわかれいなばの山の秋の夕ぐれ /定家

みむろ山しぐれもやらぬ雲の色のおくれうつろふ秋の夕ぐれ /定家

きよみがたひま行く駒もかげうすし秋なき波のあきの夕ぐれ /定家

なほざりのをのの浅茅におく露も草葉にあまる秋のゆふぐれ /定家

なにゆへとおもひもわかぬ袂かなむなしき空の秋の夕暮れ /良経

われのみやわびしとは思ふ花薄ほにいづる宿の秋の夕ぐれ /実朝

秋を経てしのびもかねに物ぞ思ふ小野の山辺の夕ぐれの空 /実朝

かくて猶たえてしあらばいかがせん山田もる庵の秋の夕ぐれ /実朝

なく鹿のこゑより袖にをくか露もの思ころの秋の夕ぐれ /実朝

秋霧の立ぬる時はくらぶ山おぼつかなくぞ見え渡ける /貫之

花見にと出でにし物を秋の野の霧に迷て今日は暮らしつ /貫之

晴れずのみものぞ悲しき秋霧は心のうちに立つにやあるらん /和泉式部

穗に出づるみ山が裾のむら薄まがきにこめてかこふ秋霧 /西行

をしこめて秋の哀にしづむかな麓の里の夕霧のそこ /式子内親王

ながめする夕の空も霧立ちぬへたたりゆくはむかしのみかは /定家

秋のきて風のみ立ちし空をだにとふ人はなき宿のゆふぎり /定家

初雁のくもゐのこゑははるかにて明方ちかきあまのかはぎり /定家

さざなみやしがのうらぢのあさぎりにまほにも見えぬおきのともぶね /定家

飛鳥川ふちせも知らぬあきのきり何にふかめて人だつらむ /定家

山里はひとり音する松風をながめやるにも秋の夕霧 /良経

月よみに門田の田居に出て見れば遠山もとに霧たちのぼる /良寛

夕霧にをちの里べは埋れぬ杉たつやどに帰るさの道 /良寛

《馬追》

2014-09-09 10:09:45 | 〈薄紅の部屋 (和歌)〉
ある宵のあさましかりしふしどころ思ひぞいづる馬追啼けば /晶子

手にとれば青玉をもて刻まれし虫のここちに青きすいつちよ /晶子

薄青きかなしみ我す夜ごとにすいつちよの啼く秋の来れば /晶子

馬追が腰のあたりへ啼きに来ぬ草に倦きけん土に倦きけん /晶子

馬追はつひに来啼けりさ庭べの草むらなかに雨ふるおとす /茂吉

あかときはいまだをぐらしさむざむとわがまぢかくに馬追なけり /茂吉

あわただし明暮夜のまぐりさへ言問はぬかなや青き馬追 /茂吉

いつしかに耳に馴れたる馬追虫のこよひしとどに庭のうちに鳴く /牧水

やすらかに足うち伸ばしわが聞くや蚊帳に来て鳴く馬追虫を /牧水

家人のねむりは深し蚊帳にゐて鳴く馬追よこゑかぎり鳴け /牧水

川岸の草むらに居てつつましく三味をさらへぬ馬追虫は /晶子

馬追のすがしきこゑはこのゆふべ変りはてたる庭より聞こゆ /茂吉

月させば大きく光る芋の葉に馬追一つ鳴きいでにけり /耕平

《鈴虫》

2014-09-09 10:07:14 | 〈薄紅の部屋 (和歌)〉
いづこにも草の枕を鈴虫はここを旅とも思はざらなん /伊勢

年経ぬる秋にもあかず鈴虫のふりゆくまゝに声のまされば /公任

鈴虫の声の限りを尽くしても長き夜飽かず降る涙かな /源氏物語・桐壺

鈴蟲の聲ふりたつる秋の夜は哀にもののなりまさるかな /和泉式部

数ならでふりぬることを鈴虫のなきかはしても明かしつるかな /俊頼

おもひおきし淺茅が露を分け入ればただわずかなる鈴虫の聲 /西行

草ふかみ分け入りて訪ふ人もあれやふり行く宿の鈴むしの聲 /西行

鳥辺山ふり行くあとをあはれとや野辺の鈴虫つゆになくらむ /定家

音にのみ鳴かぬ夜はなし鈴蟲のありし昔の秋を思ひて /良寛

秋の野に誰れ聞けとてかよもすがら聲降り立てて鈴蟲の鳴く /良寛

秋風の夜毎に寒くなるなべに枯野に残る鈴蟲の聲 /良寛

飼ひ置きし鈴虫死で庵淋し /子規

鈴むしは釈迦牟尼仏の御弟子の君のためにと秋を浄むる /晶子

鳴かずなりしすず虫放ちわが童庭を見つめる小腰かがめて /窪田空穂

鈴虫のひげをふりつつ買はれける /草城

鈴虫に須磨の人とて遙かかな /かな女

雨来り鈴虫声をたたみあへず /亞浪

鈴虫を聴く庭下駄を揃へあり /虚子

夫とふたり籠の鈴むし鳴きすぎる /貞

太柱鈴虫の声飼はれゐて /静塔