mardidupin

記憶の欠片あるいは幻影の中の真実。

《夏の花たち》そのニ

2014-08-02 15:16:34 | 〈薄紅の部屋 (和歌)〉
羽ならす蜂あたゝかに見なさるゝ窓をうづめて咲くさうびかな/曙覧

たまたまに窓を開けば五月雨にぬれても咲ける薔薇の赤花/子規

愛に酔ふ雌蕊雄蕊を取りかこむうばらの花をつつむ昼の日/利玄

さうび散る君恋ふる人やまひして密に知りぬ死の趣を/晶子

若き子の香ばしきこと云ふ中にまじらむと咲くうす色さうび/晶子

薔薇咲くしろくはた黄にうす紅に刑の重きは墨色に咲く/晶子

船に居て青き水よりいづる月見しここちするうす黄の薔薇/晶子

木によりて匂へる薔薇秋山の蔦にまさりてはかなき薔薇/晶子

しづかなる森に向ひて丘めぐりきざはしのごと花薔薇さく/晶子

驚きてわが身も光るばかりかな大きなる薔薇の花照りかへる/白秋

午過ぎてますます紅き薔薇の花ますます重く傾きゆくも/白秋

大きなる何事もなき薔薇の花ふとのはずみにくづれけるかも/白秋

わが君に恋のかさなる身のごとし白き薔薇も紅きさうびも/晶子

初夏の空の光に従ひて恋のこころの花さうび咲く/晶子

白くして火よりも熱き香を放つ薔薇を皐月がかたはらに置く/晶子

夕闇に透かし見るなり薔薇の花いまだ生れぬ世界のごとく/晶子

むさし野の蒲田の薔薇の園を行く夕闇どきの水の音かな/晶子

山川の岩にかかれる白波のさましておつる夕ぐれの薔薇/晶子

逆しまに青き空をば抱く薔薇ルノワアルをば仰ぎたる薔薇/晶子

金閣寺北山殿の林泉にいつ忍び入り咲ける野薔薇ぞ/晶子

鮮らしきばらの剪花朝園の鋏の音をきくここちする/利玄

恋すればうら若ければかばかりに薔薇の香にもなみだするらむ/龍之介

君をみていくとせかへしかくてまた桐の花さく日とはなりける/龍之介

いつとなくいとけなき日のかなしみをわれにおしへし桐の花はも/龍之介

いととほき花桐の香のそことなくおとづれくるをいかにせましや/龍之介

さしむかひ二人暮れゆく夏の日のかはたれの空に桐の匂へる/白秋

桐の花ことにかはゆき半玉の泣かまほしさにあゆむ雨かな/白秋

桐の花露のおりくる黎明にうす紫のしとやかさかな/利玄

桐の花雨ふる中を遠く来し常陸の國の停車場に咲く/利玄

風木木の梢にどよみ桐の木に花さくいまはなにをかいたまん/宮沢賢治

雲はいまネオ夏型にひかりして桐の花桐の花やまひ癒えたり/宮沢賢治

若葉のかげ漸く深し桐の花日ねもす落ちて人はかへらぬ/赤彦

からみあふ花びらほどくたまゆらにほのかに揺るる月見草かな/利玄

日は見えてそぼふる雨に霧る濱の草に折り行く月見草の花/節

君が背戸や暗よりいでてほの白み月のなかなる花月見草/牧水

あめつちにわが跫音のみ満ちわたる夕さまよひに月見草摘む/牧水

月見草花のしをれし原行けば日のなきがらを踏むここちする/晶子

花引きて一たび嗅げばおとろへぬ少女ごころの月見草かな/晶子

大和川砂にわたせる板橋を遠くおもへと月見草咲く/晶子

河土手に蛍の臭ひすずろなれど朝間はさびし月見草の花/白秋

月見草雨に濡るるがいたげやと庭を見さして夕より寝し/晶子

昨夜の花をととひの花露に濡れあしたにそよぐ月見草かな/晶子

月見草雨ののちなる山松のしづく散るなり黄にひらく時/晶子

やごとなき御仏たちに供へたる火皿と見ゆる月見草かな/晶子

暑かりしひと日は暮れて庭草の埃しづもり月見草咲けり/牧水

あめはれしきりのしたばにぬれそぼつあしたのかどのつきみそうかな/八一

心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花/源氏物語・夕顔

寄りてこそそれかとも見めたそかれにほのぼの見つる花の夕顔/源氏物語・夕顔

山がつの折かけ垣のひまこえてとなりにも咲く夕がほの花/西行

あさでほす賤がはつ木をたよりにてまとはれて咲く夕がほの花/西行

山賤の契のほどや忍ぶらん夜をのみ待つ夕顔の花/寂蓮

むぐらはふ賤が垣根も色はへて光ことなる夕顔の花/有家

くれそめてくさの葉なびく風のまにかきねすずしき夕顔の花/定家

山のかげおぼめく里にひぐらしのこゑたのまるる夕顔の花/定家

渡するをちかた人の袖かとやみづのにしろき夕顔の花/定家

木の間もる垣根にうすきみか月の影あらはるる夕顔の花/定家

煙立つ賤が庵が薄霧のまがきに咲ける夕顔の花/家隆

小車の跡こそみゆれ夕がほの花咲にほふ賎が門べに/一葉

板びさしあれてもりくる月かげにうつるも涼しゆふがおの花/一葉

山下の古井を汲みてそそぎをり萎れむとする夕顔の根に/赤彦

夏の夜の朝あけごとに伸びてある夕顔の果を清しむ我は/赤彦

眼力けだし敢なし夕顔の色見さだめむ睫毛觸りたり/白秋

夕顔は端居の膳に見さだめて月より白し満ちひらきつつ/白秋

手を伸す水の少女か一むらの濃き緑より睡蓮の咲く/晶子

水に焚く夏の香炉のけぶりたるうす紫の睡蓮の花/晶子

恋するや遠き国をば思へるやこのたそがれの睡蓮の花/晶子

睡蓮の花びらの先苦しくも少し尖れりわが心ほど/晶子

紫の睡蓮の花ほのかなる息して歎く水の上かな/晶子
              
廐戸にかた枝さし掩ふ枇杷の木の實のつばらかに目につく日頃/節

枇杷の木に黄なる枇杷の實かがやくとわれ驚きて飛びくつがへる/白秋

枇杷の實をかろくおとせば吾弟らが麦藁帽にうけてけるかな/白秋

海にむきて高き斜面の枇杷の山枇杷をもぎゐるこゑきこゆなり/千樫

近よりてわれは目守らむ白玉の牡丹の花のその自在心/茂吉

白牡丹つぎつぎひらきにほひしが最後の花がけふ過ぎむとす/茂吉

いちじろくひときのつぼみさしのべてあさをぼたんのさかむとするも/八一

甕の中に紅き牡丹の花いちりん妻がおごりの何ぞうれしき/千樫

うつし身のわが病みてより幾日へし牡丹の花の照りのゆたかさ/千樫

くれなゐの牡丹花深みおのづからこもれる光澤の見るほどぞ濃き/利玄

朝風や鸚鵡の鳥に似る牡丹草分けて切る小き牡丹/晶子

わが夢を襲はむものの色したる牡丹の花もくづれけるかな/晶子

牡丹切れば気あり一すぢ空に入る/龍之介

天つ日が光を収めあるさまのこき紫のわが牡丹かな/晶子

牡丹花は咲き定まりて静かなり花の占めたる位置のたしかさ/利玄

花になり紅澄める鉢の牡丹しんとしてをり時ゆくままに/利玄

君に似し白と濃紅とかさなりて牡丹ちりたるかなしきかたち/晶子

白きちさき牡丹おちたり憂かる身の柱はなれし別れの時に/晶子

琴とればよき香いざよひ牡丹ちる紅の瑪瑙の花づくゑかな/晶子

牡丹こそ咲かば諸王にまゐらせめ誰れに着せましわが恋ごろも/晶子

その白さそこひも知らぬ尊さの大き牡丹はまぼろしを生む/晶子

甕の中に紅き牡丹の花いちりん妻がおごりの何ぞうれしき/千樫

うつし身のわが病みてより幾日へし牡丹の花の照りのゆたかさ/千樫

まどかなる光明負ひますまぼろしや牡丹ゆすれて闇白うなりぬ/鉄幹

くれなゐの牡丹かざして病める児が僅にゑむを見ればうれしも/左千夫

ふる雨にしとどぬれたるくれなゐの牡丹の花のおもふすあはれ/左千夫

雨の夜の牡丹を見ると火をとりて庭におりたちぬれにけるかも/左千夫

かぎろひの火を置き見れば紅の牡丹の花の露光あり/左千夫

雨の夜をともす燈火おぼろげに見ゆる牡丹のくれなゐの花/左千夫

灯のうつる牡丹色薄く見えにけり/子規

花びらをひろげ疲れしおとろへに牡丹重たく萼をはなるる/利玄

あまりりす息もふかげに燃ゆるときふと唇はさしあてしかな/白秋

くれなゐのにくき唇あまりりすつき放しつつ君をこそおもへ/白秋

ぬけいでし太青茎の茎の秀にふくれきりたる花あまりりす/茂吉

あまりりす鉢の土より直立ちて厚葉かぐろくこの朝ひかる/茂吉

ひと本に思ひあまれる紅き花あまたつけたるアマリリスかな/晶子

虎杖のおどろが下をゆく水の多藝津速瀬をむすびてのみつ/節

眞熊野の山のたむけの多藝津瀬に霑れ霑れさける虎杖の花/節

虎杖のおどろがしたに探れども聲鳴きやまず土ごもれかも/節

妙高の裾野の道は広けれど中に藻のごと虎杖しげる/晶子

新しく人の開きて新しく廃道となりいたどり這ふも/晶子

妙高の山虎杖のくれなゐの鞭をつくりぬ天馬に乗らん/晶子

霧の夜の哀れなりける月に似て青く曇れるいたどりの花/晶子

鷲ひとつ石のうらべに彫りにけりそなたにあらき虎杖の花/白秋

いたどりの白き小花のむれ咲くを幾たびも見て山を越え来ぬ/茂吉

麺麭とトマト バッハの曲からペトロの声/草田男


子の為の朝餉夕餉のトマト汁/立子

靄の視界電柱二本青トマト/茅舎

好きといふ露のトマトをもてなされ/茅舎

驚きて猫の熟視むる赤トマトわが投げつけしその赤トマト/白秋

葉がくりにあるはまだ青しあらはなるトマトに紅のいろさしそめて/牧水

一枝に五つのトマトすずなりになりてとりどりに色づかむとす/牧水

汲み入るる水の水泡のうづまきにうかびて赤きトマトーの実よ/牧水

水甕の深きに浮び水のいろにそのくれなゐを映すトマトよ/牧水

舌に溶くるトマトーの色よ匂ひよとたべたべて更に飽かざりにけり/牧水

トマトのくれなゐの皮にほの白く水の粉ぞ吹けるこの冷えたるに/牧水

雨が洗つていつたトマトちぎつては食べ/山頭火

すつかり好きになつたトマトうつくしくうれてくる/山頭火

百合の花青みて咲けばわが心ほのかに染みぬものの哀れに/晶子

道の辺の草深百合の花笑みに笑みしがからに妻といふべしや/古歌集

油火の光に見ゆる我がかづらさ百合の花の笑まはしきかも/家持

燈火の光りに見ゆるさ百合花ゆりも逢はむと思ひそめてき/伊美吉縄麻呂

さ百合花ゆりも逢はむと思へこそ今のまさかもうるはしみすれ/家持

手に袖に裾ににほへの夏のうた椽の小百合に宵ふけらせよ/晶子

あめつちの恋は御歌にかたどられ完たかるべくさゆり花さく/晶子

さゆりばな我にみせむと野老蔓からみしま ゝに折りてもち來し/節

白埴の瓶によそひて活けまくはみじかく折りし山百合の花/節

炭竈の灰篩ひ居れば竹やぶに花ほの白しなるこ百合ならむ/節

青原の野風の中に深山よりこし香まじりぬ白百合の花/晶子

すつきりと筑前博多の帯をしめ忍び来し夜の白ゆりの花/白秋
          
真菰刈る大野川原の水隠りに恋ひ来し妹が紐解く我れは/万葉集・巻十一

真菰刈る淀の澤水雨ふればつねよりことにまさるわが恋/貫之

陸奥の安積の沼の花かつみかつ見る人に恋ひやわたらむ/古今集・巻十四

下り立ちて忍びに淀の真菰刈るあなかま知らぬ人の聞くがに/好忠

三島江の入江のまこも雨ふればいとどしほれてかる人もなし/経信

真菰かる淀の澤水ふかけれどそこまで月のかげはすみけり/匡房

みな底にしかれにけりなさみだれて水の眞菰をかりにきたれば/西行

五月雨のをやむ晴間のなからめや水のかさほせまこもかり舟/西行

五月雨の晴れぬ日數のふるままに沼の眞菰はみがくれにけり/西行

二寸ほど高かる人と桜の実耳環にとりし庭おもひ居ぬ/晶子

袂より二つつなげる桜の実おとせし君をおもひ初めてき/晶子

ま夏日の日のかがやきに櫻實は熟みて黒しもわれは食みたり/茂吉

さくらんぼ足もとに居ぬ君と乗る馬車の床なる火のさくらんぼ/晶子

てのひらにさくらんぼ置き何となく后ごこちす夏はめでたし/晶子

あうたうのえだにこもりてわがききしさつきのえだのをとめらがうた/八一

あうたうのえだのたかきにのぼりゐてはるけきとものおもほゆるかも/八一

のぼりゐてわがはくたねのひとつづつくさにかくるるあうたうのえだ/八一

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