建築弁護士・豆蔵つれづれ

一級建築士・弁護士・豆蔵自身の3つの目線で、近頃の建物まわりネタを語ります。

日弁連・四号建築物シンポジウム 改めて所感

2017年05月02日 | 法制度

建築弁護士の豆蔵です。
GWで、事務所の周りも新緑あふれております。

さて、4月8日に行われた日弁連主催の四号建築物シンポジウム。
遅くなりましたが、日経アーキテクチャーHPが詳細に紹介してくれましたので(購読には会員登録が必要)、代表的な意見をおさらいし、豆蔵なりに私見をコメントしてみようと思います。

なお、「四号建築物」とは、建築基準法6条1項4号に該当する建築物で、その代表が木造2階建てです。
昨今は3階建てやS(鉄骨)造も増えているとはいえ、依然として、戸建て住宅の圧倒的多数は四号建築物に当たります。

主催する弁護士側(日弁連消費者問題対策委員会の弁護士)の提言は3つ。

① 構造の仕様規定を廃止し、構造設計者による構造計算を義務付けすべき
② 仮に仕様規定を残す場合、対象・内容を厳格化すべき
③ 建築確認における構造審査の省略は廃止すべき

対する建築側パネラーは、国交省(建築指導課長・石﨑和志氏)、構造設計者(金箱温春氏)、研究者(都市大教授・大橋好光氏)、行政(堺市・石黒一郎氏)。

①構造計算の義務付け

弁護士側の提案理由
・構造計算の義務化によって、全物件に構造設計者を関与させることが、欠陥住宅の防止になる。

これに対する建築側の反応
・仕様規定も、定形的な建物では有用である。→非定形建物は、②の適用の問題
・構造計算に頼ることの弊害(ブラックボックス化、重要なのは構造計画)。
・構造技術者の不足。廉価な設計料に対し、新たなコスト負担が問題。

(私見)
構造に関し大局的な視点を欠いた設計者が多いとの指摘もありましたが、同感です。
その点は計算の義務化では解決せず、むしろ小手先の対応による弊害も少なくないと思われます。

②仕様規定の厳格化

建築側からも、以下の指摘がありました。
・仕様規定の要求水準が低く、構造計算を採用するとかえって自由度が狭まるという逆転現象が生じている。構造計算を行うインセンティブがない。
・定形的な箱体を前提として経験的に発展した仕様規定が、吹抜けや不整形建物などの非定形特殊なケースにも用いられることで、弊害が生じている。 

(私見)
同感です。仮に、仕様規定の適用除外を設けるとして、その基準、判断のルール作りは、③の構造審査の省略廃止と併せて行う必要があるように思います。 

③審査の省略の廃止

多くの物件で、構造図が作成されず、構造躯体の実務を、資格を持たず責任も負わないプレカット業者が行っている。
というのは、全体の問題意識としてありました。
また、関西方面では、事実上、壁量計算などの仕様規定の図書を提出させているというお話も出ました。
もっとも、国は、制度変更については慎重です。性能表示・瑕疵保険の第三者チェック等の代替手段を優先する考えのようです。 

(私見)
急激な制度変更は、耐震偽装後の平成19年大改正の二の舞になりますので、慎重であることは理解します。
ただ、基準法の最低レベルすら守っていない物件が少なからずあることは、紛争実務から強く感じており、審査省略廃止の議論は進めるべきだと思います。 

その他の意見として、以下をご紹介しておきます。

・建築基準法の基準のあり方
建築基準法は、熊本地震の一部地域で観測されたような大きな揺れには対応していない。
また、倒壊・崩壊しないことを目的とする強度であり、「地震後に軽微な補修で利用できる」ものではない、という点で、一般人のイメージ、要求とのギャップが生じている。
基準法の定める「最低限の水準」のレベルを上げるべきではないか。

・確認行政の在り方
確認等取扱い件数が減少し、現場での問題を審査にフィードバックする力が低下している。
そういう現状においても、行政が指定確認検査機関に対する監督権限をもっている。 

(議論全体についての私見)

「安全な住宅」という目的に対するアプローチとしては、
・基準法全体のレベルアップ
・(審査されないで確認を取得している)違反建築の防止
があり、それらは、切り離して考えるべきだと思います。
そして、急ぐべきは違反建築の防止だと思います。(併せて、既存不適格のボトムアップ=耐震改修も一層推進すべき) 

時代遅れ感が否めない「最低限」の基準法には批判もありますが、私有財産を直接規制する法律でもあることから、(役人が作る)政令・告示でやみくもに厳しくするということには否定的です。 

色々思うところはありますが、本日はこの辺で。


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