八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚75

2021-12-25 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

道明寺ホールディングスには、長い間、受け継がれている風習があった。

それは、新入社員の研修が終わると教育係が新人さんをご飯に連れて行くって習わし。

数年前から時代の流れなのか《どっちでもいい》に変わりつつあって、今は《廃止》へ向かっているとか。

 

でも、去年。

私は全ての部署でお世話になった教育係さんに連れて行ってもらったんだよね。

だから、自分は新入社員になにもしてあげないってのに、抵抗があった。

 

19:00

おいっ!

なんであいつが織部弟と飯を食う必要があるんだよっ!

 

織部くんと一緒に向かったのは会社近くの居酒屋。

織部くんはビール、私はウーロン茶で乾杯をした。

 

織部くんは諸事情があって、大学生になってから1人暮らしをしているらしい。

織部くんはお兄さんの織部くんとの子供の頃の話をしてくれたり、道明寺にどうして入社したかとか、どんな仕事をしたいのかってことを力説してくれた。

 

道明寺でどんな仕事をしたいかっていのは、私も同じように力を入れて二人でたくさん話したんだ。

そして、織部くんはどうしてモデルになったのかって話から、モデルをしていた時の話までたくさん話してくれたんだ。

 

 

19:30

おいっ!

まだ帰ってこねーのか?

飯なんて半時間もあれば食えるだろっ!

 

確かに、女子社員が『キャーキャー』騒ぐだけある。

この居酒屋は空間を広く見せる為に、パーティション類が一切無い。

だからか、周りの女性からの視線がチクチクする。

女の人だけじゃない、男の人からの視線も感じる。

 

時々「モデルのジュン?」とか「似ている!」なんて声もする。

でも、織部くんは全く気にしていない。

モデルは引退した時点で興味が無いらしい。

 

 

20:00

こんなに遅くまであいつは何をしているんだ!

飯食ったら、早く帰って来いっつーんだよ。

織部、あいつは異動だっ!

あいつこそ毒ヘビ島へ行けっ!

 

私も高校生の時からアルバイトで働いているけど、織部くんも学生時代から頑張って働いていたんだなって思った。

織部くんと一緒だとお互い苦労人?いや学生時代から働いていた共通点が多くて時間はあっと言う間に過ぎた。

 

お店の会計は二人で揉めたけど、結局割り勘になった。

私は去年の時、おごってもらった記憶があるから頑張って「出すよ。」って言ったんだけど。

なんでも、私がアルコールを飲んでないからって断られてしまった。

 

 

20:30

あの女っ!!!

男と飯食って、何時まで一緒にいるつもりなんだよっ!

 

織部くんの一人暮らしのマンションまでは、会社から直ぐらしい。

なんでも、徒歩で通っているとか。

ヤバイ。

まさか、近くじゃないでしょうね?

私も、あいつのペントハウスから歩いて通っているよ。

 

「会社の近くって、どの辺り?」

「牧野さんならいつでもウェルカムです。今から行きますか?」

なんて、爽やかに言われたけど。

 

私が知りたいのは、会社からの位置情報。

ニアミスが無いかってことが心配なだけだよ!

それに、一応、仮ですが私は既婚者なので…。

 

こんなことを思っているのに、

「駅まで送ります。」

こう言って駅まで送ってくれたんだよね。

 

駅まででも余計なお世話なのに、改札どころかホームまで送ってくれる織部くん。

織部くんは良い子なんだろうけど、ちょっとお節介だよ。

 

私を実家に住んでいるって思い込んでいて、

「次の電車まで8分ですね。僕、ここから牧野さんが電車に乗るまで見ています。」

なんてことを言いだした。

先に帰ってくれたらいいのにぃー。

 

「やっぱり、送っていきましょうか?」

なんてことまで言いだした。

そんなことしないでっ。

実は、私もこの付近に今だけ住んでいるんです!徒歩なんです。

 

私は織部くんに丁寧にお礼を、申し出を断った。

仕方ない。一駅乗って、また戻ってこよう。

 

電車に乗ってスマホを見ると、道明寺から鬼のような着信とメールが届いていた。

織部くん、天使の笑顔で余計な事してくれるからっ。

私が道明寺のペントハウスに着いたのは、それからしばらくしてからだった。

 

 

21:00

あいつは酒が飲めねーはずだ。

織部弟に酔わされて、お持ち帰りなんてされてねーよな?

俺のイライラがMaxを超えた時────。

 

そぉーっと玄関のドアを開ける。

そんなに悪い事した訳じゃないのに、なに?この罪悪感。

玄関から、ピリピリした空気が漂う…。

 

「ただい・・・っひひひひぃー!!」

私は、『ただいま』って言葉を最後まで言えなかった。

玄関を開けると、直ぐそこに道明寺がスマホを持って仁王立ちしていたからだ。

 

ギョギョギョギョっ!

ギョエーーーーー!!

目の前にヤクザがいますっ!

 

「テメェー!!今、何時だと思っているんだっ!」

この大声から始まった怒鳴り声。

なんでっ!なんで、そんなに怒っているの?

「なによっ!いきなり。ちょっと遅くなっただけじゃない!」

私の素直な意見も(だって21時過ぎだよ。)

 

「なにがチョットだっ!遅すぎだ。遅くまでフラフラ出歩いてんじゃねー。」

こんな風に言いかえされる。

この後も、日本語が不自由な道明寺は、私に偉そうに説教をしてきた。

道明寺は、どうやら心配性みたい。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。