道明寺は心配性。
前の織部くんとご飯を食べに行った時は笑えた。
今は笑えない。
そう、今日は土曜日。
私は週休二日制だから、土日はお休み。
道明寺もずっと休みだったみたいだけど、3月に入ってからは土日のどっちかは出社するようになった。
正直、道明寺ホールディングスの代表取締役は暇なのかなって疑っていたから、少し安心。
結構、土曜日に出社することが多かったように思う。
だから、私は安心していた。
それなのに、今日は何故か道明寺の仕事が休みで、
「俺も、お前の花嫁修業に一緒に行くわ。」
なんて言いだした。
いや、その花嫁修業って名前が気に入らなかったから《お行儀見習い》に変えたんだよ。
こう、心の中で突っ込んでみた。
その上、
「俺、その為に土曜日に休みとったんだぞ!」
なんてことを堂々と言いだした。
なんで、あんたが一緒に行く必要があるの?
冗談じゃないっ!
一体、何の為に?
そう、道明寺は私の毎週土曜日恒例のお行儀見習いに一緒に行くって言い出したんだ。
「絶対に付いてこないでっ!」
私はかなりキツイ口調で、道明寺に言ってからペントハウスを後にした。
目指すは駅っ!
私は道明寺に追いつかれないようにダッシュで走った。
ホント、何考えているの?
今だけの私の仮の旦那。
本当にバカじゃないの?
道明寺がお喋りだった所為で、道明寺の幼なじみにはこの結婚が殆どバレている。
私が認めていないだけで。あの口の軽いバカバカ男っ!
日本語が不自由なくせに、なんでそんな事はベラベラと喋っているのよ。
喋ったのは、どうやら日本に帰国して直ぐだったらしいけど。
西田さんが、あの四人はお互いに友達が四人しかいないので外部にバレませんとは言ってくれていたから、なんとか大丈夫って思っている。
でも、わざわざ自分からこの秘密をバラさなくても良いでしょ。
私は絶対にあの三人に今まで話さなかった。
認めなかった。
だから、あの三人はあの手この手を使って私の口を割らそうとしている。
道明寺がペラペラと余計な事を話すから殆どバレているのに、あんたが私に付いて来た時点で認めたようなものになるじゃないのっ。
本当に、本当にっ!!道明寺のおバカー。
私は公共交通機関を乗り継いで、約束の時間の少し前に西門邸に着いた。
本当にいつ見ても、いつ来てもすごいお邸よね。
花沢さんのお宅も、美作さんのお宅も豪邸過ぎて、お行儀どころじゃないの。
私は将来の本当の旦那様と結婚する時の為にインテリアの勉強もしたいのに、素晴らしいお宅を目の前に目で見る事だけで精一杯。
こんなことを考えていると、西門さんの家の前に見慣れないド派手な青いスポーツカー。
美作さんや花沢さんの車とは違うような気がするな。
西門さんのお宅に、お客様が来ているのかもしれない。
こんなことを思いながら、私は西門さん宅の日本庭園を進み玄関に向かう。
本当にすごいお庭なの。
日本三大庭園みたいなんだよ。兼六園や後楽園の。
今は春だから、新芽の黄緑色が本当に綺麗なの。
少し前までは桜が綺麗だったんだ。
だから、次は秋の紅葉の季節が楽しみだなって思いながら、西門さんちの玄関の扉を右に引いた。
「こんに…。」
私の挨拶は、最後まで言うことは無かった。
開けたドアを閉めようとした時────
私の頭上から聞こえるドスの効いた声。
「てめー、旦那を巻くとはどういう了見だ?」
私の目の前には道明寺がいる。
そして、その後ろにニヤニヤしながら道明寺の幼なじみがいる。
ホントにバカ。
バカバカバカバカっ!
人をまくの《まく》は巻くじゃないわよっ!
撒くよ。
それに、なんで他の人に完全に秘密って決めたことを言うの?
契約不履行じゃないのーーーっ!
大声で叫びたい。
でも、今。
この場で私たちの結婚が、契約だったって事がバレた方がややこしいよね。
確かに、こいつの幼なじみを騙し続けるのは限界に近かった。
私が認めていないだけでバレバレだった。
女は度胸と愛嬌よ。
そして、往生際の悪い事はしない方が良い。
私は道明寺にニッコリ笑いながら、右手で握り拳を作った。
「西田さんに発表は1年後って言われていたでしょ。」
こう言った後、
三人に見えないように、右手の握り拳を道明寺のお腹にくい込ませた。
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