八十八夜

学生時代から大好きなマンガの2次小説です

まやかし婚78

2021-12-28 08:00:00 | まやかし婚(完)

 

 

総二郎の家の玄関で俺から漏れた言葉。

「うおっ。」

 

なんつー凶暴な女なんだっ。

まさか腹にパンチがくるとは思っていなかった俺は、痛みに声が漏れてしまった。

姉ちゃん並みに強い女だ。

 

三月に入って牧野が週末ごとにするようになった花嫁修業。

なんでも、講師が俺の幼なじみのあきら・総二郎・類。

 

気になるのが…。

三人一緒に教える必要なんてないのに、毎回こいつらが牧野の為に全員が集まっているらしい。

 

あきらが言い訳がましく言いだした。

「俺たちも社会人になって会う機会が減ったから。」

 

総二郎は俺を見ながら、ニヤニヤしながら言ってくる。

「急に付き合いが悪くなった奴もいるんだけどよ。」

 

俺にだって色々あるんだよ。

こいつは他の女たちとは違うんだ!

道明寺司って名前だけでは靡いてくれねーんだ。

 

最初は一緒に過ごす時間を作るようにした。

ただ、こいつは一緒に過ごすくらいじゃダメなんだ。

牧野に振り向いてもらうには、もっと違う所で頑張らねーといけねー。

 

俺は、牧野が真面目に働く男が好きなんじゃねって思い、仕事を真面目にするようになった。

始業前から出社するようになった。

 

働きアリの法則の良くない方の2じゃなく、良い方の2になるって決めたんだ。

経営の神様が決めた法則の良い方の2なら、牧野だって少しは評価してくれるだろ?と俺は思っている。

 

思ってはいるが…。

俺の日々の努力が報われたことは一度もねー。

まだまだ頑張らねーといけねーのか?

 

俺の幼なじみと仲良さそうに話している牧野を見て…。

なんとなくムカついた俺は、牧野の隣に座った。

 

俺が牧野の隣に座ったと同時に、総二郎が俺を見てニヤッと笑ったのがわかる。

牧野の隣のあきらと類も、どうせ笑っているんだろ?

 

笑われているのを無視しながら

「お前はどんな茶菓子が好きなんだよ?」

俺が聞いてみた。

 

「西門さんが出してくれる和菓子って全部美味しくって見た目もスゴク綺麗なの。」

こう言いながら、俺に皿の上の懐紙にのせられた茶菓子を見せてきた。

 

そこには、桜の花の形の綺麗な練り切り。

懐紙まで、小さな桜の花びらの模様が入っていた。

 

「この練り切りとかすごいでしょ。桜で可愛いくって、春って感じでしょ?」

こう言いながら、いつものようにデケー口を開けて綺麗な桜色の練り切りを頬張った。

 

牧野は、嬉しそうな顔をしていつもの言葉を言った。

「おいしー。」

 

その時、地の底から響くような声を出す総二郎。

「つくしちゃん。」

 

総二郎!

牧野の事をつくしちゃんって呼ぶんじゃねー。

俺でも牧野呼びなんだぞ。

 

牧野は総二郎の低すぎる声にハッとして、俺を睨んだ後

「あんたが突然、話しかけてくるからでしょ!もう、向こうに行ってよ。」

なんて言いながら、俺の肩をグイグイ押してきた。

 

なんで俺の所為なんだ?って、思わなくもねーけど、

俺にだけはスキンシップがあるって思ってもいいのか?こんなことを思った。

俺は牧野が終わるまで、何をするわけでも無く牧野を見ていた。

 

途中で類が

「牛乳を入れたい。」なんて言いだしたのに牧野が同意して

「生クリームも合いそうだよね。」

なんて言っている二人を総二郎が睨みだした。

 

そんなことに全く気が付いてないこいつらは、どんどん会話を膨らませる。

「抹茶のムースに生クリームをたくさんのせて食べたいな!」

「あー、俺は濃い抹茶のクッキーがいい。」

 

聞いてるだけで胸焼けがしそうなお菓子の名前が飛び交った後。

類が牧野の隣にゴロンと寝転んだ。

 

類!寝転ぶんじゃねー。

なんで、牧野の隣で寝転んでいるんだよ。

俺ですらその距離で寝たことねーぞ!

 

「類。茶室で寝転ぶな。牧野、来週は俺の家に来いよ。調度今、母親が抹茶のお菓子にはまっているんだ。」

こんなあきらの提案に、

 

「やったー。美作さんのお母さんのお菓子大好き。やっぱり花より団子って本当だよね。」牧野が自分で言いながら、頷いた。

 

そんな牧野を見て含み笑いをした総二郎。

「つくしちゃんは、食い気より色気を増やさねーとな。」

こんなことを牧野に言ったんだ。

 

そして、総二郎は、明らかに俺の顔色を目の端で捉えながら

「マダムはあきらが専門だけど…。つくしちゃんが、色気増やすために勉強するっつーなら特別講義も受けるから。さすがにその色気ゼロじゃ、司も困るだろ?」

なんて鼻で笑いながら言ったんだ。

 

色気なんか必要ないだろっ。

お前は可愛いから、それで十分だっ!!

 

そんな、俺の心の叫びは通じることなく

牧野から出た言葉は信じたくないものだった────。

 

「うーん。そうなんだよね。私って色気が無いからなぁ。ね、西門さん。もし、一年後以降に必要になったら教えてもらっても良いかな?」

こんなことを言ったんだ。

 

だめだ!ダメだ!ダメだっ!!

一年後以降って、俺と離婚するの前提じゃねーかっ!

俺は絶対にっ!1年後に離婚なんてしねーからなっ。

 

教師の為に色気なんて必要ねーんだよっ!!

総二郎の色気の特別講義なんて受けさせねー!

俺が増やしてやる!!

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。